八牧浩行 2015年3月6日(金) 9時35分
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尖閣諸島をめぐる係争を解く鍵は「棚上げ合意」があったかどうか。72年の日中国交正常化交渉や78年の日中平和友好条約締結時に協議したとされ、外国の公文書や日本の国会議事録、関係者発言などにより、これらの真相が次々に明らかになっている。写真は日中首脳会談。
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尖閣諸島をめぐる係争を解く鍵は「棚上げ合意」があったかどうかである。72年の日中国交正常化交渉時に田中角栄首相と周恩来首相が了解し合い、78年の日中平和友好条約締結時に園田直外相とトウ小平副首相が協議したとされるが、外国の公文書や日本の国会議事録、関係者発言などにより、これらの真相が次々に明らかになっている。
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「尖閣諸島領土の棚上げ論」は歴史の節目にたびたび登場する。最初に出てきたのが72年9月の田中首相と周恩来首相による日中国交正常化交渉。周恩来首相の棚上げ提案に対し、田中首相も「小異を捨てて大同につくという周総理の提案に同調する」と答え、棚上げ論に賛同した。この件では野中広務元官房長官が13年6月3日、72年の日中国交正常化の際、「日中双方が尖閣諸島の問題を棚上げし、将来、お互いが話し合いを求めるまでは静かにやっていこうという話になった」と当時の田中首相から直接聞いたと証言。外務省条約課長として日中国交正常化交渉に関わった栗山尚一元外務事務次官・駐米大使も新聞や雑誌で尖閣の棚上げについて「『暗黙の了解』が首脳レベルで成立したと理解している」と指摘した。
◆園田外相、棚上げで「ほっとした」
78年8月10日、北京での日中平和友好条約交渉時における園田外相とトウ副首相との会談では、もっと突っ込んだやり取りがあったことも明らかになった。トウ氏はこの会談で、「このような(尖閣諸島)問題については今詰めないほうがよい。この問題を脇に置いたまま、我々の世代は問題の解決策を見つけていないが、我々の次の世代、また次の世代は必ず解決方法を見つけるはずである」と語っている。トウ氏は来日中、日本記者クラブでの会見で、このやり取りを披露し、「こういう問題は、一時棚上げしてもかまわない」などと発言、同クラブの記録として音声が残されている。
園田氏は回顧録で次のように述壊している。「(トウ氏が今まで通り棚上げしようと言ったことは)言葉を返せば、日本が実効支配しているのだから、そのままにしておけばいいというのです。それを淡々と言うからもう堪りかねてトウさんの両肩をぐっと押さえて、『閣下もうそれ以上言わんで下さい』。人が見ていなければトウさんにありがとうと言いたいところでした」(園田直「世界日本愛」第三政経研究会)。国会審議議事録にも「棚上げを確認した」との園田外相答弁が残されている。
また、英公文書館が14年12月30日付で機密解除したところによると、82年に鈴木善幸首相(当時)が来日したサッチャー英首相(同)との首脳会談で尖閣問題について「日中両国政府は大きな共通利益に基づいて協力、現状維持で合意し問題は実質的に棚上げされた」と語っていた事実が明らかになった。
さらに石原慎太郎氏までもが、「棚上げの事実」を認めた言質もある。12年11月30日、日本記者クラブで開催された党首討論会で、日本維新の会代表として出席していた石原氏は〈尖閣諸島購入を言い出し、その後の日中関係緊迫化の一端となったことをどう思うか〉との質問に対し、「責任があるのは自民党と外務省がトウ小平と尖閣棚上げで合意したことだ」と抗弁した。これは「尖閣棚上げ合意」を自ら認めたものであり、「領海侵犯したから追い払え」発言と矛盾する。
◆読売新聞も社説で「尖閣を紛争のタネにするな」
70年代から80年代にかけて、日本の全メディアが「棚上げ合意」の事実を大きく報じている。以下は「尖閣を紛争のタネにするな」と題する79年5月31日付の読売新聞社説だ。
「尖閣諸島の領有権問題は、72年の国交正常化の時も、昨年夏の日中平和友好条約の調印の際にも問題になったが、いわゆる『触れないでおこう』方式で処理されてきた。つまり、日中双方とも領土主権を主張し、現実に論争が?存在?することを認めながら、この問題を留保し、将来の解決に待つことで日中政府間の了解が付いた。それは共同声明や条約上の文書にはなっていないが、政府対政府のれっきとした?約束事?であることは間違いない。約束した以上は、これを順守するのが筋道である」。「小異を残して大同につこう」という呼びかけである。
14年11月の安倍首相と習主席による北京での日中首脳会談の際、日中合意事項「日中関係の改善に向けた話し合いについて」を発表。「双方は、尖閣諸島など東シナ海の海域において近年、緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」とした。領土問題の存在を認め合い事実上「棚上げ」を再確認した格好である。日本の実効支配を継続することを意味し、中国側が実力で日本の実効支配を変更しないことを認めたことを意味する。
日本にとってむしろ有利なこの「棚上げ合意」の事実を、90年代になって政府・外務省が「日本固有の領土であり、日中間に係争は存在しない」と主張することによって、隠ぺいしてきたことのツケは大きい。
◆「アジアの時代」、平和的連携の道を
今年の春節(旧正月)、中華圏から多くの観光客が日本を訪れた。日中の経済・文化交流も活発化している。21世紀は「アジアの時代」といわれる。かつて日本は大東亜共栄圏を提起したが、これは軍事力を前提としたため、世界中が反発、日本が焦土となり悲惨な結果につながった。グローバル経済が進展する中、アジア太平洋諸国が平和的連携の道を歩めば、この地域はさらに発展することになろう。<完>(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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八牧浩行
2014/11/10
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