拡大する日本の「貧困」「格差」、是正するために必要な5つのポイントとは?―高橋立命館大教授

八牧浩行    2015年4月9日(木) 9時57分

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8日、高橋伸彰・立命館大学教授は日本記者クラブで「現代日本の貧困」と題して講演。拡大する「貧困」や「格差」を是正するためには、GDP至上主義からの脱却や負担力のある個人や法人により多くの税を課すことなど、5つのポイントに留意すべきだと強調した

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2015年4月8日、高橋伸彰・立命館大学教授は日本記者クラブで「現代日本の貧困」と題して講演。拡大する「貧困」や「格差」を是正するためには(1)GDP至上主義からの脱却、(2)所得再配分方式から公共サービスの社会的分配方式への移行、(3)負担力のある個人や法人により多くの税を課すこと、(4)経済第一主義の価値基準の見直し、(5)技術開発の「陥穽(かんせい)」を認識すること―の5つのポイントに留意すべきだと強調した。発言要旨は次の通り。

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1960年代後半まではケインズ的な有効需要政策の成功により、日本をはじめとする先進諸国ではGDPは恒常的に拡大し、完全雇用も実現されたが、貧困や格差は解決されずに残された。その後、市民の基本的な権利を「生活権」(すべての人々が健康で快適な最低限の生活をする権利)まで広げるべきだとの政治思想が普及し、北欧諸国では福祉国家として実践されるようになった。しかし「生活権」をすべての人々に補償することはケインズ的な有効需要政策や事後的な所得再配分だけでは実現不可能だ。そこで以下の5点が重要である

(1)GDP至上主義からの脱却

GDP(国内総生産)は一国の経済活動の水準を示す主要な経済統計に過ぎず、その規模や成長率を経済成長の優先目標にしたり、政策効果の評価指標としたりすることをやめる。代わりに雇用統計(雇用者数、雇用形態、賃金など)、国民生活統計(教育、医療、介護、所得、資産、物価など)、財政統計、生産統計を総合的に利用して目標を定め、政策効果を評価する。

(2)所得再配分方式から公共サービスの社会的分配方式への移行

市民の基本的な権利として「生活権」の具体的な内容を定める。制度としては事後的な所得再配分ではなく、事前的な社会的共通資本の整備を中心に据えて、低い所得でも健康で快適な生活を送ることができる制度を創る。これにより、格差が拡大しない制度を社会に埋め込むことが可能となる。

(3)負担力のある個人や法人により多くの税を課すこと

歳出はすべての人々に「生活権」を補償するために必要な金額を計上し、歳出規模に合わせて公平な負担を納税者に課す。所得再配分の財源としてではなく、社会共通資本の建設にかかる財源として、負担力のある個人や法人により多くの税を求め、貧困や経済格差の問題を解決する。

(4)経済第一主義の価値基準見直し

経済第一主義の下で人々の心に染みついた「経済的損得」という価値基準を反転し、倫理的な善悪を最優先にして選択・行動する。特にキャピタルゲインを目的とした投機活動については倫理的な面からも政府は規制を強化すべきだ。

(5)技術開発の「陥穽」の認識

パソコンの起動まで3分我慢できれば、それ以上早く起動させる技術は必要ない。10年前のデザインで我慢できれば頻繁にモデルチェンジする必要はない。暑さ・寒さにもう3度温度を我慢できれば、エネルギー消費は大幅に減らせる。わずかな我慢が、どれだけの経済余力(財源)を生むか、政府は試算すべきである。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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