日本のアジアインフラ投資銀行への参加、「中国の意図見極めて検討せよ」「公共財提供重視なら好ましい」―平和と安全を考えるエコノミストの会が提言

八牧浩行    2015年5月22日(金) 19時4分

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「平和と安全を考えるエコノミストの会(EPS)」(理事長・河合正弘東京大特任教授、前アジア開発銀行研究所長)は「日本のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加:中国の意図を見極めて検討せよ」と題する提言を発表した。

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2015年5月22日、日本有数の経済学者らで構成する「平和と安全を考えるエコノミストの会(EPS)」(理事長・河合正弘東京大特任教授、前アジア開発銀行研究所長)は「日本のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加:中国の意図を見極めて検討せよ」と題する提言を発表した。「日本はアジアのインフラ整備に大きな責任負う立場にある」と指摘。その上で、「中国が国際公共財の提供を重視する行動をとり、AIIBがよりよい国際金融機関になるという兆候が見られるのであれば、日本は参加すべきだ。そうでない場合には、AIIBの外部からAIIBがよい金融機関になるよう促していくべきだ」と提言している。

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この提言に参加したEPSメンバーは鈴木淑夫・元衆院議員・元日銀理事、宮崎勇元経済企画庁長官、評論家・早房長治氏、小島明日本経済研究センター参与、石見徹東大名誉教授ら12人。筆者もメンバーとなっている。この提言は2014年11月から2015年5月にかけて開かれた計4回の研究会合を踏まえて作成された。研究会合では浅川雅嗣財務省国際局長と意見交換したほか、河合理事長が北京で中国財政部幹部やAIIB多辺臨時秘書処関係者からヒヤリングを行った。提言の要旨は次の通り。

中国が主導するAIIBは、途上国が中心となって自らのインフラ整備を進めようとするものであり、国際社会として歓迎すべきだ。中国が拡大する経済力、金融力を多国間の枠組みの中で、アジアのインフラ構築という国際公共財の目的のために用いるとすれば、望ましいからだ。

その一方で、中国はアジアにおける経済的・政治的な影響力を拡大させるための外交上の道具の一つとしてAIIBを利用しようとするのではないか、AIIBの設立を通じて世界銀行やADBなど既存の国際金融機関の秩序に挑戦するのではないか、といった懸念が持たれている。

日本・米国からは、AIIBは公正かつ透明性の高いガバナンス(統治)を確保できるか、インフラ事業のもつ環境や住民・社会に対する影響に対しどこまで配慮するか(セーフガード)、債務の持続可能性などの面で国際的に確立したスタンダード(標準)に基づく組織運営を行えるか、といった問題点が指摘されている。

AIIBの設立協定交渉に参加してこなかった日本としては、参加を表明した57か国による交渉の結果に基づき、参加の是非を検討すべきだ。その際、重要な考慮点は以下の点である。

(1)AIIBはどのようなアジアつくりをめざすのか、その理念・ビジョンは日本の基本的な考え方と合致するか。とりわけ、中国はAIIBを通じて国際公共財を提供してアジア地域・国際社会の繁栄と安定に貢献しようとするのか、それとも地政学的な経済圏拡大など自国本位の経済・外交政策の道具にしようとするのか。

(2)各国間のAIIBへの資金拠出シェアの配分はどこまでバランスのとれたものになっているか、中国など一国が過度の発言権をもたないか、日本が今後参加することでガバナンスやセーフガードのあり方に影響を及ぼせるほど大きな発言力を確保できるか。

(3)理事会は常設のものとなるか、それはAIIBの本部である北京に設置されるか、そしてそれは最大限の意思決定の権限を持ちうるか、とりわけ少なくとも主要な個別インフラ融資案件(及び理事会が重要だと認める案件)を審議し諾否を決定する権限をもつかどうか。

(4)AIIBはどこまで高い環境・社会基準を設定するか、その基準が国際的なスタンダードに満たない場合にはどのような方策で環境・社会リスクに対応するのか。

(5)AIIBはどこまで世界銀行やアジア開発銀行(ADB)など既存の国際開発機関と協調融資(とりわけ、同じプロジェクトの融資額を一定の割合で分担する共同融資)を行う用意があるか。

日本は、同時にADBが打ち出しつつある次の改革を支援すべきだ。

(1)事務手続きを簡素化して融資までの期間を短縮すること。

(2)インフラ融資をさらに拡大するために通常資本財源とアジア開発基金を統合したが、さらに増資も視野におくこと。

(3)新興国経済力の拡大を反映したかたちで加盟国間の出資金・発言権の配分を徐々に見直していくこと。

日本はアジアのインフラ整備に大いなる責任負う立場にある。中国が国際公共財の提供を重視する行動をとり、AIIBがよりよい国際金融機関になるという兆候が見られるのであれば、日本は参加すべきだ。そうでない場合には、AIIBの外部からAIIBがよい金融機関になるよう促していくべきだ。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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