アベノミクスの“2枚看板”失墜の危機=「デフレ脱却」も遠のく―4〜6月期GDP「マイナス1.6%」の衝撃 

八牧浩行    2015年8月18日(火) 7時56分

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4〜6月期のGDPの実質成長率が、年率換算で1.6%減と3四半期ぶりのマイナス成長に沈んだ。消費や輸出が減退、デフレ脱却が遠のくマイナス成長となったことで、安倍政権の経済政策であるアベノミクスの限界が改めて露呈したとの懸念も広がりつつある。写真は東京。

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2015年4〜6月期の国内総生産(GDP)の実質成長率が、年率換算で1.6%減と3四半期ぶりのマイナス成長に沈んだ。個人消費や輸出に弱さが見られ、景気が落ち込んでいることが確認された。1〜3月期のGDP統計が発表された5月時点で、市場関係者は1.8%程度の増加を見込んでおり、賃上げの波及やボーナスの支給で個人消費がけん引役になるはずだった。金融緩和や円安にもかかわらず消費や輸出が減退、デフレ脱却が遠のくマイナス成長となったことで、安倍政権の経済政策であるアベノミクスの限界が改めて露呈したとの懸念も広がりつつある。

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◆消費、輸出、設備投資が軒並みダウン

GDPの6割を占める個人消費は、前期比0.8%減少。昨年4月の消費税増税の後、ゆるやかな回復傾向にあったが、4四半期ぶりにマイナスになった。金額ベースでも、4〜6月期としては、消費増税直前の駆け込み需要の後に大きく減った14年をわずかに0.2%上回っただけで、増税前の13年より2.7%も低い水準だった。

 

円安に伴う食料品など生活必需品の相次ぐ値上げに伴い、実質賃金の伸びがマイナスに陥ったため、消費者の間に節約の動きが広がった。4月の軽自動車税の引き上げで、軽自動車が販売減に陥ったことも影響した。

 

輸出は中国や東南アジア向けが落ち込んでいるほか、米国向けも増勢が鈍化、前期比4.4%減と6四半期ぶりにマイナスに転じた。最大の輸出品目である自動車が中国、中東、ロシアなどで減少、中国向けのスマートフォン用電子部品や米国向けの産業機械なども不振だった。中国と経済的なつながりが深いアジア各国の景気が減退、生活用品などの輸出が大きく減少したことも響いた。

企業設備投資も0.1%減と3四半期ぶりの減少。投資の中身も、生産設備増強というよりは、これまで控えていた老朽化設備の更新が多く、力景気けん引力に欠ける。

 

7〜9月期についても、輸出は中国の景気減速や米国の利上げ時期など伸び悩むのは必至。中国が人民元を切り下げたことから、日本企業の輸出が伸び悩む可能性が高い。GDP統計で輸出に分類される訪日客の消費も、元安により中国人の購買力が低下するため、落ち込む可能性がある。

 

安倍政権の経済政策・アベノミクスは積極的な財政支出、異次元緩和によるデフレ脱却と円安誘導、日銀資金や年金基金など公的資金による株式買い上げにより、株価を押し上げてきたが、そのいずれも剥げ落ちつつある。一向に卸売物価水準が上がらず、早期のデフレ脱却も風前の灯だ。外需に目を転じると、中国で景気失速懸念が拡大。ロシアやブラジルでは資源価格安が株式や通貨の下落につながっている。

米国でも、原油安やドル高の影響で景気減速懸念が浮上。米国株式市場でも、リーマン・ショック後の2009年3月から続いてきた強気相場は頭打ち状態。中国景気の減速懸念により、アップルなど中国市場が占めるウエイトが大きい銘柄を中心に売られている。「9月にも米連邦準備理事会(FRB)の利上げか」との観測も出ており、成長期待から買われていた新興企業が大きく売られるケースも目立つ。

一方、円相場も1ドル=124円台の横ばい圏内で推移。これ以上の円安は望み薄。黒田東彦日銀総裁が6月上旬に国会で「ここからさらに円安に振れることはありそうもない」と為替相場水準に異例の言及。米国で円安ドル高に対する警戒感が出ていることや輸入物価高など日本の実体経済に及ぼす負の影響に配慮したものだ。

◆財政出動・円安・株高に限界

国際通貨基金(IMF)は7月下旬に発表した対日年次報告の中で、「円安が進むにつれ日本企業の国際競争力は高まったが、輸入が縮小した」とし、「決断力ある構造改革を伴わない追加的な量的緩和は、国内需要を委縮させるだけでなく、円安への過剰依存をもたらし兼ねない」とけん制した。アベノミクス第3の矢である「構造改革による成長戦略」の推進を求めたものだ。

公共事業への財政支出も、13年度こそ補正予算を含め大幅な伸びとなったが、14年度は伸一転してマイナスに。ギリシャを上回るGDP比財政赤字を背景に、国地方を通じた財政余力は限られている上に、建設労働者需給のひっ迫もあり期待薄だ。

アベノミクスは世論調査の内閣支持率と株価上昇の2枚看板によって支えられてきた。ところが一時60%超あった支持率は安保法案の強引な推進によって30%台に低下。株価も頭打ちとあって安倍政権の経済政策、アベノミクスは正念場を迎えていると言えよう。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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