<東アジア新時代(8)>北朝鮮が「水爆実験」、正恩氏のトラウマ「核を持たないとフセインの最期のようになる」が背景か―中国のメンツ丸潰れ

八牧浩行    2016年1月7日(木) 9時50分

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北朝鮮が1月6日、「水素爆弾の試験」と称して核実験を強行した。各国の対朝経済制裁の強化は必至で、経済へのダメージは大きい。何故このタイミングで強硬策に踏み切ったのか。写真は朝鮮半島地図。

東アジアの「ならず者国家」として非難されることの多い北朝鮮が1月6日、「水素爆弾の試験」と称して核実験を強行した。各国の対朝経済制裁の強化は必至で、経済へのダメージは大きい。何故このタイミングで強硬策に踏み切ったのか。日米韓をはじめ国際社会は強く非難、朝鮮半島の非核化方針に沿って北朝鮮を説得してきた中国もメンツを潰された格好だ。

北朝鮮は「特別重大報道」を発表、「われわれの知恵、われわれの技術、われわれの力に100%依拠した」もので、「試験用水爆の技術的諸元が正確であることを完全に立証し、小型化された水爆の威力を科学的に解明した」と誇示した。

核兵器の小型化が実現すれば、北朝鮮は核ミサイルを手にしたことになる。北朝鮮は2012年に金正恩第1書記政権スタートして以来以来、緩やかな経済成長軌道をたどってきたが、新たな経済制裁が科せられればこの軌道が危うくなる。さらに孤立化する。経済活動の後退には不満が高まる可能性がある。

北朝鮮は社会主義経済を堅持しながらも、工場など経済活動の現場に権限を与え、一定の範囲で自由な経済活動を許してきた。また貿易全体の9割を中国が占めるなど、中国一辺倒の状態が長く続いてきた。

◆オバマ大統領任期中は「対米交渉は困難」と判断?

金正恩氏が切望してきたのは、米国との直接交渉である。自らの権力基盤を固めるために米国からの武力行使を受けないという「体制の保証」が欠かせないためだ。同じ独裁者だったイラク・フセイン大統領が米国の攻撃を受け、あえない最期を遂げたのは、「核兵器」を保持していたかったからだと、同氏は思い込む「核トラウマ」にとりつかれている、との指摘する専門家も多い。

米朝両国は1994年10月にジュネーブで「北朝鮮が核爆弾の原料となるプルトニウムの抽出が容易な黒鉛減速炉の建設・運転を凍結する代わりに、米国が軽水炉(LWR)建設を支援し、完成まで代替エネルギーとして年間50万トンの重油を供給する」との合意文書に調印した。しかし2012年4月に北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射を強行し、この米朝合意は破棄された。

その後、米国は一貫して「核放棄に向けた具体的な行動」を要求し、北朝鮮側の対話要求を拒否。米国との交渉は、金正恩体制がスタートした12年初めから4年もの間、途絶えている。オバマ政権が一貫して北朝鮮との直接交渉を拒んでいるのが要因だ。非核化を目指す6カ国協議(日米中露韓と北朝鮮が参加)も7年以上開かれていない。

北朝鮮は核実験後の声明でも「核放棄は絶対あり得ない」と断言した。17年1月までのオバマ大統領の任期中は「対米交渉は困難」とと見て、「核保有」アピールの道を選択した可能性が高い。

国内向けには、「水爆成功」を誇示し対米対決を強く打ち出せば、住民にさらなる耐乏を求めやすくなる。今年5月に36年ぶり開催される朝鮮労働党大会に向け、国威発揚のため国際的孤立を逆手にとる作戦だろう。

 

この結果、拉致問題をはじめとする日朝協議、南北間協議がストップするのは確実。安倍晋三首相は、14年5月に一部緩和した制裁を再び強化せざるを得なくなろう。南北関係の改善を進めていた韓国の朴槿恵大統領も、対話中断を余儀なくされるとみられる。

今後の北朝鮮情勢の焦点は、中国の習近平国家主席がどう対応するかである。中国政府は昨年10月、創建70年式典に劉雲山・政治局常務委員を平壌に派遣、核実験をしないよう正恩氏にクギを刺し、冷え込んだ中朝関係の改善を探り始めた矢先だった。今回の核実験の事前通告もなく、中国のメンツは潰された。金正恩体制の不安定化は避けたいところだが、中国が安保理決議や経済制裁などで具体的な行動を取るかが注目される。日米韓3カ国をはじめとする国際社会は、中国が北朝鮮へ経済制裁で足並みをそろえるよう働きかけることになろう。

◆「拉致問題」解決は遠のくばかり

米国と中国にとって共通の最優先課題は朝鮮半島の非核化。外交関係筋によると、米国は2013年末、「核開発を放棄して生き残るか、核開発を続けて崩壊の道を歩むのか」との選択を北朝鮮に迫るべきだと中国に要請、原油の供給をストップするよう求めた。核開発継続や北朝鮮の親中派改革開放論者・張成沢氏の粛正などを問題視した習主席がこれに呼応。石油の供給を14年に入って極端に絞ったことが中国の貿易統計で明らかになった。

ほぼ同時期にトップの座に就いた習近平主席と朴槿恵大統領と蜜月関係にあり、慣行を覆し韓国を北朝鮮より先に訪問した。米中は「韓国による朝鮮半島統一」の方向に舵を切ったとの見方さえ出ている。

これに対し、北朝鮮・金正恩政権は、頼みの中国に袖にされたために、「拉致問題の解決」を呼び水に日本に接近した。経済支援が目的で、日本には拉致問題打開につなげようとの狙いがあった。その際、米国、韓国はもちろん中国までもが、日本の突出した経済制裁緩和への動きを強く懸念したが、それも制裁再強化により元の状況に戻ることになる。安倍首相の悲願である拉致問題の解決は遠のくばかりだ。 (八牧浩行

<続く>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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