八牧浩行 2016年2月22日(月) 6時20分
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中東情勢に詳しい「アララビTV」のモハメド・エルメンシャウィ記者(ワシントン支局長)が、日本記者クラブで会見。過激派組織ISについて、「軍事的に戦略を持ち、900万人を支配している」と指摘。将来軍事的に敗北しても、思想的には生き残るとの見方を示した。
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2016年2月18日、中東情勢に詳しいカタール「アララビ・テレビジョン・ネットワーク」のモハメド・エルメンシャウィ記者(ワシントン支局長)が、日本記者クラブで会見した。過激派組織IS(イスラム国)について、「単なるテロ組織以上の存在で軍事的に戦略を持ち、900万人を支配している」と指摘。ISは将来軍事的に敗北しても、思想的には生き残るとの見方を示した。またシリアの混乱を打開するために、「今のすべての戦いをやめ、シリアからすべての外国勢力が出ることが先決だ」と強調した。エジプト人の同支局長は、20世紀から現在までの中東の歴史と現状について造詣が深い。発言要旨は次の通り。
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中東諸国の多くは第一次大戦後、カリフ制が崩壊し、英仏などの植民地になった。20世紀半ばには大半の中東の国が独立を果たすようになったが、同じ時期に(英仏などは)イスラエルに国家を与えると約束した。この結果、20世紀にはアラブとイスラエルが何度も戦争し、アラブナショナリズムが勃興した。
米ソの冷戦で中東も2つに分かれ、「統一アラブ」の夢はかなわなかった。この間アラブ諸国は軍事力強化を進めた。アラブ各国は産出する石油の価格が上昇したので高水準の収入を得た。
しかし民主主義、経済発展の2つで挫折した。アラブの主要国はすべて軍人出身がトップに就き、対イスラエル戦争で敗北した。
(1)1979年、イランに初のイスラム政権誕生、(2)ソ連のアフガニスタン侵攻とアフガンへの米支援、(3)ワシントンでの和平合意で屈辱を味わった、(4)リビア、アルジェリアの内戦で50万人が殺害された―などから、政治的にイスラム主義への誘惑が高まり、「聖戦」に挑む中で多くがテロリストとなった。
◆米国やアラブ諸国への反感根強く
最近十数年の原点となったのは米国同時多発テロ事件(2001年9月11日)。19人のアラブの若者が起こしたが、彼らはアメリカで支援を得ていた。この事件を受け、米国はグローバルな「テロとの戦い」を米国内外で起こした。アフガニスタンのタリバン掃討やイラク侵攻作戦などを展開。フセインを殺害したがなお大混乱に陥っている。
イラクで選挙の結果、米国はイスラム政権が選ばれると拒絶。米国はイラクで相次いでミスを犯した。イラクにとってもアラブ全体にとっても侮辱的なものだった。グアンタナモ(基地=牢獄)で、アラブ人に対する残虐な行為が行われていた。アラブでもITブームが起きていたので、残忍な写真などが広まり反感を買った。
「アラブの春」はチュニジアから始まって 庶民が立ち上がって蜂起した。リーダーはおらず有機的に発生した。多種多様な人々が参加、女性、若者、左派、リベラルなどさまざま。重要な役割果たした軍の状況と対応がその後を左右したが、「アラブの春」運動は、失敗した。
新たな中東における争いはシーア派とスンニ派の分裂であり、IS(イスラム国)の台頭を許した。シリアの内戦の根本に関係している。
アルカイダとは全く違い、伝統的なメディアはもちろん、ツイッターなどニューメディアを使いこなしている。資産運用もし、金融資産も保有、通貨発行し、徴税も行っている。
ISの指導者のアルバグダディはモハメットの後継者であると主張し、かつてイスラム帝国の中心地だったバグダッドの出身であることも強調。このアルバグダディという名前自体がイスラムの誇りを呼び起こし、世界中のイスラムの若者に訴えかけるものだった。イスラムの富、アイデンティティの確保を約束し、欧米の脅威、シーア派の脅威に立ち向かう。
非常に複雑であり、背景にはアラブの春の失敗と、イラク・マリキ政権への失望感があった。ISは国境をなくし、旗まで持っている。国をなくしカリフ統治を復活する標榜、不正義がはびこっている中東で人が集まりやすくなっている。
ISは、旧イラクの軍・諜報部の将官の採用も行っており、単なるテロ組織以上の存在で軍事的に戦略を持っている。支配地域にいる900万人を支配しており、今は空爆などで押され気味だが、近い将来にISは軍事的には敗北しても、思想的にはそうはならないだろう。
新しい中東情勢の特徴は、米国とイランとの合意であり、ロシアも(中東に)入ってきている。原油価格の下落も混乱の要因となっている。暴力過激主義がイエメン、リビア、シナイ半島、イラクなどではびこっている。
シリアの混乱を打開するためには、まず今のすべての戦いをやめること。根本原因はどこでも同じで、過半数でない一部が力を握ってしまっており、少数派が統治している。さらに外国勢力、地域勢力がはびこり利害でうごめいている。シリアの民衆が犠牲になっている。シリアからすべての外国勢力が出ることが先決だ。
この10〜15年、米国の力の衰えと限界が見えてくる。軍事面だけで対応するのはあらゆる面で不可能だ。オバマ大統領はイラク、アフガン戦争の教訓やブッシュ前政権の失敗から、もはや「世界の警察官」ではないことを学んだ。
◆「聖戦」に走る!
イスラエルが(パレスチナの一部を)占有しているため、アラブ諸国の多くはイスラエルに苛立ち、擁護者の米国にも(批判が)向けられている。(過激派は)抑圧的な政権と戦うという理由で「聖戦」に走る面もあり、アラブ政権にも責任ある。この10年、最も抑圧的な政権はシリアとイラクであり、米国もISの勃興に寄与している。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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