手塚治虫、藤子不二雄を輩出した「トキワ荘」を再現=若手漫画家を育成、『鉄腕アトム』『ドラえもん』に続け!―日本が主導、中韓でも大ブーム

八牧浩行    2016年5月3日(火) 3時30分

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漫画やアニメは日本のソフトパワーの中心。中国や韓国をはじめとするアジア諸国にもブームが拡大している。ドラマ、映画、ゲームなどに展開され、クリエイティブ(創造)産業の中でも最も重要なジャンルと言える。写真は上海のショーウインドウ(ドラえもんが大人気)。

漫画アニメは日本のソフトパワーの中心。中国や韓国をはじめとするアジア諸国にもブームが拡大している。ドラマ、映画、ゲームなどに展開され、クリエイティブ(創造)産業の中でも最も重要なジャンルと言える。

こうした中、若い漫画家志望の若者を支援する活動が注目されている。その名も「トキワ荘プロジェクト」。1950年代から80年代にかけて、『鉄腕アトム』の手塚治虫ら著名な漫画家たちが居住し切磋琢磨した木造アパート・トキワ荘(東京都豊島区椎名町)の名を冠したもの。

往時のトキワ荘のことを知るのが、講談社編集者だった上杉重吉さんだ。入社3年目の1954年から10年間、子供雑誌を担当し、手塚治虫がいたトキワ荘に日参を始めた。手塚を慕って入居したのが藤子不二雄、赤塚不二夫、石森章太郎たち。『幼年クラブ』などを担当していた上杉さんは若い彼らに4コマ漫画の競争をさせた。当時20代の上杉さんは安月給の中から食事をおごり、『ドラえもん』の作者・藤子はじめ多くの漫画家の引っ越しも手伝った。「彼らが書いた漫画を、会社へ持ち帰って編集長の決定を仰ぎ、トキワ荘を再訪する。彼らは小遣いを稼ぎ、生活していた。互いに兄弟のように言いたいことを言い合った」と述懐している。

それから半世紀以上の時を隔てて、若手漫画家をはぐくもうという現代の「トキワ荘プロジェクト」を展開するのは、「若者たちが未来に希望を持てる社会づくり」を目標に、若者・教育支援事業を展開しているNPO法人NEWVERY(ニューベリー=東京都品川区・山本繁理事長)。

     

◆切磋琢磨し、60人がプロレビュー

同プロジェクトの中核となるのは、「共同住居」を漫画家志望者に安価に提供すること。2006年8月にスタートし、現在提供している家やアパートは19軒。127人が生活を共にしている。これまでに延べ約360人が入居、60人が入居期間中にプロデビュー(マンガ雑誌への掲載・連載)を果たした。

NEWVERYクリエイティブ事業部副ディレクターで、トキワ荘プロジェクト・コーディネーターを務める福間夕香さんは「かつての『トキワ荘』がそうだったように、昔からクリエイターは群れて育つので、互いに刺激し合い好循環が生まれています」と語る。このプロジェクトは具体的に「1000ページの完成原稿を描いてプロ漫画家になる」ことを支援。同居するマンガ家志望者同士はもちろん、定期的に開かれる交流会などを通じて、作品や創作の仕方などについて意見を交わすことができる。他のアパートに住む同じ目標を持った仲間や、プロのマンガ家、出版編集関係者と知り合う機会も多い。アシスタントやマンガ関連の仕事の紹介など、漫画家としてスキルアップできる様々な機会を提供することもあるという。

入居者資格は18歳〜30歳で、男女の比率はほぼ半々。(1)本気でマンガ家を目指す人、(2)共同生活ができる人、(3)家賃を負担できる人―などが条件で、面接審査もある。入居期間は3年。期限を設けることで、貴重な時間をどのように過ごせばゴールにたどり着くのかを具体的に考えることができるという。

    

◆「ドラえもん」「ガンダム」に続け

このプロジェクトから巣立ち夢を実現したプロの漫画家は、「見知らぬ他人と同じ家に住まなければ経験できないような日々を過ごしたことが、漫画を描く上で得難い糧(かて)になっている」「自分にはない発想力と行動力を持つ仲間がいてくれたことは宝物。仲間と朝まで議論したり、アシスタントに雇ってもらったり、貴重な日々だった」などと振り返っている。

一軒家を借り上げ、シェアハウスとして貸し出すことで、家賃は通常の賃貸物件に比べて安く抑えられている。敷金・礼金はなく保証人も不要。冷蔵庫・炊飯器など家電製品も完備しており、通常の賃貸物件への入居と比べて費用面でも大きなメリットがあるという。

このほかプロ漫画家になるためのプロスクール「MANZEMIプロ講座」を運営。4カ月でプロレベルの作画技術を身につける社会人・フリーター向けのプログラムで、作画に関する理論を学び、その場で実習も行う。

もともとNEWVERYは「ニート・フリーター支援」を目的にスタートしたボランティア団体。福間さんは、現代版「トキワ壮」を巡回して入居者の悩み相談にも乗っており、「マンガに向き合える環境を整え、多くの若い漫画家を輩出するのが夢」と語っている。

中国、韓国、東南アジアなどでは、『ドラえもん』『ガンダム』『ポケモン』『ワンピース』など日本の漫画アニメが大人気。漫画家志望の若者が世界各地で切磋琢磨、漫画アニメ・イベントも開催され、文化交流にも寄与している。日本がリードしてきた「創造的ソフトパワー」のさらなる発展を望みたい。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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Record China主筆

時事通信社で常務取締役編集局長を務め、ジャーナリストとしての活動歴は40年以上。
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