八牧浩行 2016年6月16日(木) 5時50分
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米国政治に詳しい横江公美・元米ヘリテージ財団上級研究員が日本記者クラブで「変わるアメリカ、変わらないアメリカ」と題して会見。歌手のレディー・ガガらの「ミレニアル世代(80〜90年代生まれ)」が米国を変革すると指摘した。
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2016年6月10日、米国政治に詳しい横江公美・元米ヘリテージ財団上級研究員が日本記者クラブで「変わるアメリカ、変わらないアメリカ」と題して会見した。米国は「40年周期」の転換期にあり、歌手のレディー・ガガらの「ミレニアル世代(80〜90年代生まれ)」が米国を変革すると指摘。彼らに支えられオバマ大統領は80年に一度出現する偉大な大統領となる一方、共和党大統領候補トランプ氏も国土安全第一、対外軍事費削減、反自由貿易を掲げ、熱狂的な人気が続くと結論付けた。
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横江氏は近著『崩壊するアメリカ―トランプ大統領で世界は発狂する!?』(ビジネス社)の中で、米大統領選について大胆な見解を明らかにしている。発言要旨は次の通り。
今の米国を理解するためには、新しい物差しが必要である。従来の物差しだと共和党では正統派のジェフ・ブッシュ氏が勝つと誰もが思っていた。しかし「世代論」を使った新しい物差しで見る必要がある。トランプ氏は1年前までは「泡沫候補」扱いだった。この物差しを使えばトランプ人気は理解できる。オバマ大統領も実は強いことが分かる。
世代論のシンボルとなるのは「ミレニアル世代」である。1980〜90年代生まれで、パソコンを自由に操る“生粋デジタル人”で、今後の社会を大きく変える人たちとして注目されている。歌手のレディー・ガガ、リアーナらがその象徴だ。
彼女らはNPO(非営利団体)をつくり、世界を変革しようとしている。ミレニアル世代は、社会貢献に対する意識が強く、軍事力で世界を変えるのではなく、人に寄り添うことで変えようという考えを持っている。多様性を重んじSNSの扱いも得意。この世代が各分野の中枢に入ることで、米国は大きく変化する。
◆トランプイズムは残る
2大政党の民主、共和両党はこうした変化に戸惑っており、特に保守的な共和党の悩みは深い。時代を見失った共和党の中でトランプ氏が出現した。彼の思想は(1)外交・安保は国家安全が第一、(2)リバタリアン(完全自由主義)化、(3)経済格差の是正、(4)反自由貿易、(5)温和な社会政策―などで、この考え方は、2030年ぐらいまでの共和党の新潮流になだろう。国土防衛第一で、対外同盟も「財務諸表(経費)の視点」が重視される。
これに対しヒラリー氏は外国と協力して問題を解決しようとする同盟重視の考え。移民受け入れにも賛成だ。米国の社会政策はオバマケア(オバマ大統領による社会福祉政策)が実現し、論争に区切りがついた。経済政策でヒラリー氏はオバマケアを踏襲し最低所得層の支持を得ようとしている。
トランプ氏が登場する時代の特徴として、(1)白人中心からマイノリティの国への変化、(2)オバマケアの実施とさらなる格差是正策、(3)教会に行く人の減少―などが挙げられる。米国全体の40%の富を保有する1%以外の中間層が拡大この層に訴え、理解を得ることが重要となる。
米国では、かつて国土は攻撃されることはなかったが、近年攻撃対象となった。世界の安全保障より国土安全保障を重視すべきだとの考え方が主流になり、世界と国土の安全保障のバランスを考えなければならない時代が到来した。これの流れに乗ったのがトランプ氏であり、熱狂的な支持を得るまでになった。
世代論で見ると2008年が転換点となった。ミレミアム時代が登場し、変化を起こした。こうした転換点では、のちに偉大といわれる大統領が登場しやすい。
◆40年周期説
有力な言説である40年周期説で見ると、1968年〜2008年は共和党の時代で、理想主義の時代 冷戦とポスト冷戦 共和党にレーガン思想が定着した。
次の40年である2008年〜48年は、オバマ大統領時代に象徴される問題解決の時代。影響力を持つミレミアム世代が登場した。オバマ大統領はリンカーン(奴隷制廃止)、ルーズベルト(世界で役割発揮)に次ぐ、80年に1度の偉大な大統領になり得る。彼はオバマケアの導入、同性婚妊娠中絶の容認などを実現し、米国的な戦後に区切りをつけた。その集大成が広島訪問だった。
ヒラリー氏の戦略は、偉大な大統領、オバマ氏の路線を踏襲。オバマ時代に、次の本命候補となり、黒人、ヒスパニックから圧倒的な支持を得ている。元来マイノリティだった女性で初めての大統領になる点も目新しい。経済政策はオバマより右だが、サンダースとの戦いで左に傾斜した。外交安保はオバマより右で、古いと見られている。
◆トランプの戦略
トランプ氏の戦略は国土安全保障重視と同盟国への責任追及が基本路線。オバマケアからこぼれた層にまで支持層を広げ、経済政策と雇用確保のためTPP(環太平洋連携協定)に反対。「暴言」が多いが、米国の本音を引き出している。
政治家経験はなくではなく、ビジネスマンとして成功したため、信念がないと批判されず、フレキシブルで乗り切っている。問題点は多くの良識派から「時代遅れ」「白人社会への回顧」「差別的暴言」との非難を浴びせられることだ。
◆勝つのはどちらか
マイノリティー票や、「オバマ人気」を考慮するとヒラリー氏。「テロ」が起きるとトランプ氏といったところか。「民主党は初顔、共和党は2回目出馬が当選することが多い」という米政界のジンクス通りだとトランプ氏。
アメリカは「本音のパンドラの箱」を開けた。大統領選の帰すうにかかわらず、今後も、“トランプイズム”は残る。国土安全保障以外なるべく軍事費は使わないようになり、経済制裁が対外政策の主流になる。日米同盟の新たな分野として、サイバー、宇宙、環境、災害援助、パンデミック対策などが浮上する。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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