呂 厳 2016年8月5日(金) 11時50分
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夕食後に近所の公園でジョギングに励む私。最近、道路で何かを探す日本人が増えていることを疑問に思い、年配の2人に声を掛けてみた。筆者撮影。
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夕食後はいつも近所の公園で音楽を聴きながらジョギングしている。このところ、懐中電灯を使って路上で何かを探している人が増えていることに気付いた。もちろん「ポケモンをゲット」している人々ではない。一体何をやっているのだろうと思い、ある日、2人の年配者に声を掛けてみた。返って来た言葉は「セミの幼虫ですよ」。近くに行ってみると、おばあちゃんはアスファルトの上をはっているセミの幼虫を拾い上げ、道路横にある木の上に乗せて「かわいそうだけど…地下に長い間いたのに、あと数日間しか生きられない」。なるほど。「彼らはアスファルトの上に現れたセミの幼虫をお手伝いしていたのか」とこれまでの謎が解けた。
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私が「日本人は昆虫や動物に対して細やかで優しいな」と感じたのは数年前のことだ。当時、私は日系企業の北京事務所で働いていた日本人の女性スタッフと知り合いになった。彼女は中国に滞在していた時、野良猫を拾ったのだが面倒を見る人がみつからず、結局自分で飼うようになった。そして、任期が満了になるころ、猫を日本に連れて行くことを決意。一度本人に聞いた話によると、猫の狂犬病予防注射、採血、日本の農林水産大臣が指定する検査施設への血液送付、狂犬病に対する抗体価測定などさまざまな手続きをしなければならないらしく、中国人の私でもどうすればよいのか分からなかった。口にはしなかったが「無理だろう」と思った。
あれから約半年がたった頃、彼女と会った。「猫はどうしたの?」と聞くと「日本に連れてきましたよ。今は家族と一緒に暮らしています」とのこと。「そうですか。じゃあ、中国の猫が日本の餌に慣れればいいですね」と冗談を言った覚えがある。
私と同じ年頃の人、特に都市部で暮らす一般の中国人にとって、過去に家庭でペットを飼う余裕はほとんどなかった。すべてが供給制という社会背景の中、住宅の面積は狭い上、夫婦共働きのためペットの面倒まで見切れないのだ。自分も小学生の時、親に警察犬用の犬を飼ってもらおうと長い間おねだりしたことがあったが、結局、聞き入れてはもらえなかった。農村部出身の方なら飼う機会があるかもしれないが、一般的には食用とされる。だから、責任を持って猫の面倒を見る彼女は、私と同年代の人にしてみれば「すごいな」と思える存在だ。
日本で1980年代後半のバブル景気の頃あたりからペットブームが始まったのと同じように、2000年以降、中国の景気は良くなり、暮らしにゆとりができた人々の目がペットに向けられるようになった。ペットは家族の一員と認識する人が増え、動物保護の意識が強まったと感じる場面は多くなった。
私が少しうれしいのは、長い歴史を持つ広西チワン族自治区の「犬肉祭」に近年、国内から批判が殺到し、運営できない状況に追い詰められたこと。中国人の意識が変わったからこの行事が問題視されたのだ。しかし、一方でいまだに野生動物の密猟はかなりの範囲で起きている。「新しい時代には新しい価値観を持って行かなければならないが、先進国の日本ですらペットの飼育放棄などの問題は頻発している。中国は社会全体で動物保護意識を高めていかなければならない」と走りながら考える私。
ふと視線を足元に移すと、そこには薄暗い中、もぞもぞと動くセミの幼虫の姿があった。道路の上を光のある方向に向かって一生懸命はっている。私は幼虫をゆっくりと手のひらにのせ、近くの木の上にそっと乗せた。
■筆者プロフィール:呂厳
4人家族の長男として文化大革命終了直前の中国江蘇省に生まれる。大学卒業まで日本と全く縁のない生活を過ごす。23歳の時に急な事情で来日し、日本の大学院を出たあと、そのまま日本企業に就職。メインはコンサルティング業だが、さまざまな業者の中国事業展開のコーディネートも行っている。1年のうち半分は中国に滞在するほど、日本と中国を行き来している。興味は映画鑑賞。好きな日本映画は小津安二郎監督の『晩春』、今村昌平監督の『楢山節考』など。
■筆者プロフィール:呂 厳
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荒木 利博
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