<コラム>台湾・台南市、大阪で開始の観光イベントで改めて感じた「人の心と街の伝統」

如月隼人    2016年8月16日(火) 19時40分

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台湾・台南市観光局が12、13日、大阪市中央公会堂で観光招聘キャンペーン「私と私の台南 ようこそ、本当の台湾へ」を開催した。私は13日の催しに出席することができた。そこで感じた台湾そして台南についての印象をご紹介したいと思う。

台湾・台南市観光局が12、13日、大阪市中央公会堂で観光招聘キャンペーン「私と私の台南 ようこそ、本当の台湾へ」を開催した。私は13日の催しに出席することができた。そこで感じた台湾そして台南についての印象をご紹介したいと思う。

まず、台南市のことを簡単にご紹介しよう。台南市があるのは台湾本島の南西部だ。現在の台南市は2010年に台南県と旧台南市が合併して成立したもので、台南市の市街地は比較的こぢんまりとしている。現台南市の総人口は約189万人だ。

「台湾の中心的都市は?」と尋ねられた場合、多くの人は「台北市」というだろう。間違いではない。台北は台湾の政治の中心であり、経済における最大の拠点だ。しかし、台湾の歴史を見ると、大陸から渡った漢人がまず住み着いたのは現在の台南市だった。台南は現在も、台湾の古い歴史を示す史跡などが集中している土地なのだ。日本で言えば、奈良や京都のような存在と言ってよい。

さて、私がこのイベントに足を運んだことには、1つの目的があった。台湾でも、台北の人はかなり都会的だが南部の人、特に台南の人は「人情が濃い」ことで知られている。観光キャンペーンにもそんな特徴が出るのだろうかということだった。

開場前に到着したので、準備で忙しい市観光局の王時思局長に時間を割いていただき、話を聞くことができた(ちなみにノーアポである)。私の拙い中国語を一生懸命に聞き取っていただいた。大阪で観光誘致を行ったことについて、最初はやや「型通り(失礼!)」の説明と感じた。昨年(2015年)に、チャイナエアラインの関空・台南線が就航したことなどを挙げた。

私がさらに「お立場からして、日本人客を呼び込んで、観光業を活性化しようという目的はあるでしょう。それはよく分かります。ただそれ以外にも、大阪の人、ひいては日本人を多く呼ぶ目的があるのではないですか」と尋ねた。

やや誘導尋問じみていたかもしれないが、彼女の目が輝きだした。「もちろん経済だけではありません。私たちは台南の文化を知ってほしいのです。この会場には台南から持ってきた品々を展示していますが、ほぼすべてが文化に関係するものです」と早口で語った。そして、台南人と日本人の関係について「友達」という言葉を何度も使った。「台南ファン」である日本人、つまり台南にとっては「古い友人」もいるが、若い日本人に「新しい友人」になってほしい。そうすれば、時間の経過とともに「新しい友人」は「古い友人」となっていく。

ちなみに、王局長はイベント本番で登壇してスピーチしたが、「友達」という言葉をやはり繰り返した。多くの日本人に「台南のこと、台南の文化と歴史を知ってほしい。そして友達になってほしい」という熱意が伝わってきた。

会場では、台南市親善大使を務める作家で女優の一青妙(ひとと・たえ)さんにも話を聞くことができた。台南人気質については「悪く言えばあか抜けていないところはある」と説明。ただし、それは「人情が深い」ことであり、「昔ながらの台湾人気質が今も濃厚に残っている」土地柄ということだという。

台南人の「人情」については、さらに「証言」を得ることができた。ゲストとして招かれたお笑いタレントの渡辺直美さんとハイキングウォーキングの鈴木Q太郎さん、松田洋昌さんにも話を聞くことができたのだ。特に渡辺さんは日台ハーフということで、話に力が入る。

渡辺さんによると、台南を訪れた際に、黒い犬が道端で丸くなって寝ていた。見ず知らずの渡辺さんが近づいても、まったく警戒しない。しばらく見ていると、通りかかった人もその犬に声をかけたりして、とてもやさしく接していることに気づいたという。「なんか、犬までホンワカとしている土地なんだなあ」と感じた。さらに気を付けていたところ、台南では犬が人に対して神経質にワンワン吠えかかる光景を1度も目にしなかったという。

もちろん、偶然の要素はあったかもしれない。しかしそれにしても、人と犬が心おだやかに共存している街との印象が強かったようだ。

イベントでは、台南を旅行した経験のある日本人を壇上に呼び、台南の魅力を1人1分間以内の持ち時間で紹介するコーナーもあった。その際にも多くの人が、道に迷ったり買い物で困った際に、台南の人が極めて親切に接してくれたことを挙げた。

さて、この文章では「台南人の人情味」を強調したが、台南の特徴はもちろん、それだけではない。寺院を含め、古い名所が多くあること。さらに、台湾料理の8割が「台南由来」とされているほどのグルメの街だ。台湾南部ということで、果物類も素晴らしい。マンゴーが有名だがレイシ(ライチ)、さらにパイナップルなど、季節折々の旬の果物が味わえるという。

そしてもうひとつ、台南では日本統治時代を含め、古い建物が比較的多く残っている。最近になりそんな建物を、若い世代の人たちが、極めてオシャレなカフェなどとして再生する例が多いという。つまり、街全体として古い物をよく保存しつつ、場合によっては「古い物の最も新しい使い方」を導入するのが、昨今の台南のあり方であるようだ。

話は変わるが、日本政府観光局によると、2015年に訪日した外国人で最も多かったのは中国人で約499万人だった。そして台湾人は中国、韓国に次ぐ第3位で、367万7075人だった。台湾の人口は約2350万人。なんと、1年間だけで台湾人の7.7人に1人が日本に来ている計算になる。

一方、日本旅行業協会(JATA)によると2015年の年末年始の海外旅行先は、台湾が14年には第1位だったハワイを抜き、第1位になった。3位以下はグアム、シンガポール、ベトナムの順だったという。

互いに旅の往来が多いということは、経済効果だけではなく相互の理解が進むという点で、まことに結構なことだ。そして日本にも台湾にも客人を「おもてなし」する土壌が十二分に出来上がっている。日本人の台湾旅行というと、どうしてもまず「台北の旅」を思い浮かべてしまう。「台湾は小さな島だ」という意識が関係しているかもしれない。

しかし、台湾は地図からは想像できないほど多様だ。人の気性も歴史も風土も気性も北と南では相当に異なる。13日に出席したイベントで次々に紹介される情報に接しているうちに、私も台南に行きたいと、強く思いはじめていた。

写真は台南市観光局の王時思局長(左から2番目)と松田洋昌さん、渡辺直美さん、鈴木Q太郎さんによるトーク。王局長は日本人お笑いタレントの「ボケと突っ込み」に時には爆笑しつつも、台南市の魅力を懸命に伝えた。(8月16日寄稿)

■筆者プロフィール:如月隼人

日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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