松野豊 2021年9月13日(月) 13時0分
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一口に「都市化率」と言っても、各国ばらばらで日本と中国でもその定義が違う。現在の中国の都市化率(現在は約60%)が低いのかどうかという判断は一概にはできない。写真は南京。
一口に「都市化率」と言っても、各国ばらばらで日本と中国でもその定義が違う。日本の都市化率は、一般的には人口集中地区(DID)に住む人口の割合を指すが、中国では都市に住む常住人口(都市戸籍人口+半年以上の常住者人口)の割合を指す。また欧米諸国においてもそれぞれ都市化率の定義が異なるので、現在の中国の都市化率(現在は約60%)が低いのかどうかという判断は一概にはできない。
中国の現在の5か年計画では、2025年に都市化率を65%にすることが目標値となっている。注目されるのは現在の5か年計画における経済発展の指標としては、GDP成長率が示されず、代わって「労働生産性」と「都市化率」の2つが明記されていることだ。
都市化政策そのものは、道路や鉄道などの公共インフラや公共サービスの拡充で一定の投資需要をもたらすし、農村部経済のサービス化などによる所得向上も見込まれるので、一般的には内需拡大のための有力な政策のひとつであるとみなされている。
事実中国の各都市は、これまで都市化率を高めることで一人当たりGDPを着実に増加させてきた。従って都市化率を経済発展の指標としてきたこと自体は妥当である。しかし上海や北京などの超大型都市では、急速な都市化で地方からの人口流入が加速し、教育・就職問題や環境問題などが深刻化してしまった。そのためこのような超大型都市では既に都市化率が高止まりし、都市化はGDP増加に貢献しなくなってきている。
そこで中国政府は2014年、「国家新型都市化計画」を発表し、超大型都市については人口抑制に転じ、地方の小規模な都市開発を進めることで国土の均衡的な発展を目指した。こうした政策により、超大型都市以外の各省の都市化率は順調に拡大している。
しかし筆者は、ここで中国の都市化政策に潜む課題を提示してみたい。例えば中国の都市には、こんな課題が隠されている。
図1は、中国の各都市の都市化率と一人当たり電力消費量および一世帯当たりCO2排出量をそれぞれプロットしたものである。この図を見れば、都市化率上昇によってエネルギー効率やCO2排出効率のどちらも悪化する傾向が見て取れる。
一方、日本の都市化率と上記数値を同様にプロットすると、都市化率の上昇によって数値はよくなる傾向となる(図は省略)。つまり日本の都市化は高効率化をもたらすが、中国ではむしろ効率悪化を招いていると言えるのである。
習近平国家主席は、2020年9月の国連総会会合で、中国のCO2排出量を2030年にピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラルを目指すと発表した。また現在の5か年計画では、2025年における単位GDP当たりCO2排出量を5年間で18%削減する目標値が示されている。
中国はこれまで、凄まじい速度で都市開発や公共インフラ構築を実行してきた。しかし新たに「グリーン発展」へと舵を切るならば、今後は都市の省エネルギーや低炭素化などの機能改善が重要になってくる。
日本は21世紀初頭、当時の小渕内閣の主導で「都市再生プラン」が実行された。この政策で重点が置かれたのは、防災、バリアフリー、緑化など都市における生活の質の向上であった。そしてそれは必然的に都市のエネルギー効率などを高めたのである。
中国は、都市化においてこれまでの開発一辺倒から、機能改善などの再生投資が必須になってくるだろう。中国の都市機能高度化には、こうした日本の経験やノウハウが活かされるはずだ。これは大きなビジネスチャンスになるのではないだろうか。
■筆者プロフィール:松野豊
大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。
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