<ADB創立50年>中国や東南アジアの貧困が劇的に改善=アジアの資金需要は膨大、AIIBと協力できる―黒田日銀総裁

八牧浩行    2017年5月2日(火) 18時40分

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日銀の黒田東彦総裁は、アジア開発銀行(ADB)年次総会(横浜市)に関連した会議で講演し、「ADB設立から50年。多くのメンバー国が豊かになった」と指摘。アジアの資金需要は膨大で、中国主導のAIIBと協力していくことが可能との見解を示した。

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2017年5月2日、日本銀行の黒田東彦総裁は、アジア開発銀行(ADB)年次総会(横浜市)に関連した会議(アジア開発銀行研究所など主催)で講演、「ADBの設立から50年経ち、多くのメンバー国が低所得国から中所得国となり、さらに一部のメンバー国は高所得国となった」と指摘した。ただ教育や健康の水準を勘案した「多面的貧困」という定義に基づくと、世界で15億人が該当し、その6割程度は南アジアを中心としたアジア地域に居住していると懸念した。

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また「成長著しいアジアの資金需要は膨大であり巨額のインフラ資金を必要としている」と強調、中国主導のインフラ投資銀行(AIIB)と協力していくことが可能との見解を示した。

会議はADBの設立50周年を記念して開かれもので、黒田総裁は2005年から2013年までADB総裁を務めた。総裁発言は次の通り。

ADBの設立から50年、多くのメンバー国が低所得国から中所得国となり、さらに一部のメンバー国は高所得国となった。アジア諸国の地位が一人当たりGDPでみて向上するにつれて、世界経済におけるアジアのプレゼンスも高まった。日本、豪州、ニュージーランドを除いた、アジアのADBメンバー国が世界GDPに占める割合は、1966年の8%から2015年には25%へと増加した。さらに、アジアでは、一人当たりGDPが増加するにつれて平均寿命が20年伸長。平均寿命を1966年と2014年とで比較すると、東アジア・太平洋地域では49歳から74歳へ、南アジアでは45歳から68歳へと伸びた。

ここ数十年、アジア経済はグローバリゼーションの恩恵を受けるかたちで成長率を高めた。50年前、ADBメンバー国の多くは世界貿易にさほど関与しておらず、また関与していた場合でも、その多くは一次産品の輸出といった単純なものだった。その後、先進国企業の国際化や巨大な多国籍企業の出現に伴って、アジアを中心としてグローバル・バリュー・チェーンが構築された。このことを一因に、アジアの所得水準は他の発展途上地域を上回る形で向上した。2015年、アジア発展途上地域では、一人当たりGDPが1996年に比べて5倍となったが、同じ期間に、ラテン・アメリカの増加率は2倍、サブ・サハラ・アフリカの増加率は3倍にとどまっている。

経済成長によって、アジアと先進諸国との所得格差は縮小。50年前、高所得国の一人当たり実質GDPは、発展途上にある東アジア・太平洋地域および南アジアと比べて、それぞれ50倍、45倍だったが、今7倍、26倍にまで縮小している。

こうしたアジアにおける経済の成長や人々の寿命の伸長に対して、ADBが50年という長きにわたって貢献してきたことに疑いの余地はない。ADBの融資や補助金は、メンバー国による開発プロジェクトのファイナンスに利用され同プロジェクトを成功させてきた。

これを可能にしたものはADBの知的資本と言える。ADBは、個々のメンバー国に対して、開発プロジェクトの背景にある基礎的な考え方、具体的な知識、創造的なアイデアを供与してきた。こうした知的資本のおかげで、各国の開発プロジェクトは入念に組成され、適切に運営されてきた。その背景にはADB研究所や組織・業務運営におけるADBの柔軟さがあった。

国際的にみて目覚ましい経済発展を遂げた一方で、アジアには、国内の所得格差が拡大した国があり、残念ながらアジアには貧困が残っている。地域、産業、技能がグローバル・バリュー・チェーンに組み込まれなかった人々には成長の機会や成果が届きづらかった、と説明できるかもしれない。アジアの政策当局者は経済成長の包摂性を高める国内政策を導入する必要がある。

◆なお残る「教育・健康劣悪環境」

経済成長が貧困削減の原動力であることはアジアの経済発展史が示しており、実際、過去50年の間にアジアでは極度の貧困が大幅に減少した。世界銀行によると、現在、極度の貧困(1日1.9ドル未満での生活)が人口に占める割合を1980年代と直近期間(2010年〜2014年)とで比較すると、東南アジア・中国では68%から8%へ低下し、南アジアでは50% から19%へと低下している。しかし極度の貧困が皆無になったわけではない。

さらに、生活水準に加えて、教育や健康の水準を勘案した「多面的貧困」という定義に基づくと、世界で15億人が該当し、その6割程度はアジアに住んでいる。特に南アジアは人口対比でみて多面的貧困者が多い地域と言える。

貧困層に教育や雇用の機会を与えることは貧困に関する悪循環を止める一つの方法だ。親が貧しいゆえに、その子供が十分な教育を受けていない労働者となってしまい、結局、その子供自身も貧しい親になってしまう可能性が高い。こうした悪循環を断ち切ることができれば、人的資本の蓄積を通じて、経済の潜在成長力を押し上げるはずである。

改訂されたADBの「戦略2020」では貧困削減と包摂的成長が戦略的優先事項となっており、金融包摂はその鍵となる分野だ。貨幣的資本と知的資本という二種類の資本の供給とメンバー国との共働を通じて、ADBがアジアにおける金融包摂の推進をリードしていくものと確信している。

成長著しいアジアの資金需要は膨大であり巨額のインフラ資金を必要としている。ADBはアジアインフラ投資銀行(AIIB)と協力していくことが可能だ。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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