<コラム>日中の働くママの違い=日本は「ごめんなさい」、中国は「ありがとう」

浦上 早苗    2017年5月14日(日) 14時20分

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「中国で息子と2人暮らしをしていた」と言うと、日本の人々は「すごいですね」「大変だったでしょう」と驚く。しかし、「仕事と子育ての両立」に関して言えば、中国の方がずっと楽だった。写真は筆者撮影。勤務先の職場イベントでも、子連れ参加は当たり前。

小さな子どもを2人抱える日本の知人が、下の子の急な病気で出社できなくなったとき、「忙しい時期にすみません」と、上司や同僚に謝りながら休暇を申請していた。その姿を見て、私も息子が小さかった頃はあちこちに謝ってばかりだったなあと、同情せずにはいられなかった。

「中国で息子と2人暮らしをしていた」と言うと、日本の人たちは「すごいですね」「大変だったでしょう」と驚く。しかし、「仕事と子育ての両立」に関して言えば、中国の方がずっと楽だった。

中国は共働きの国だ。日本の大使館に赴任した外交官の妻でさえも、「自分で稼いだお金で買い物をしたい」と言う。中国人女性向けのイベントで講師をした際、専業主婦がいるか問いかけたら、1人しか手が挙がらなかった。

中国の女性にとっては、定年まで働くことも、子どもを持つことも当然の選択。ゆえに、子育てと仕事の両立は、特定の層にとどまらない社会全体のニーズである。例えば、中国の小学生は1人で下校せず、保護者が迎えに来る。祖父母に頼めない夫婦は託児所を利用することが多いが、どちらかが職場を抜けて子どもをピックアップし、自分の仕事が終わるまで職場で宿題をさせていても、誰も何も言わない。

小学校が午前中で終わるときは、子どもを勤務先の食堂に連れて来て一緒にご飯を食べる。学校の運動会で、手の込んだお弁当を持ってくる子はいない。パンを持ってきたり、近くの食堂に食べに行ったりする。そもそも、運動会の日が前日に通知されたりするので、日本のように朝5時に起きてお弁当作り、という気にもならない。

中国のいい加減さも、子育てにはむしろプラスに働く。息子が通っていた現地の小学校では、その日の夜になって「明日は職員研修のため、学校は休み」と連絡が来ることがたまにあった。当初は、連絡を受けて慌てふためいたりもしたが、そのうち動じなくなった。普段、放課後に息子を預けている託児所に頼めば、朝から預かってくれるし、勤務先に事情を説明すれば、休むことも、子連れ出勤も難しくない。

仕事は大事だが、子どもはもっと大事。そして、子どもの学校は突然休みになったり、午前下校になったりする(学校に限らず、直前に予定が変わることはしょっちゅうある)。近くに祖父母がいない場合は、親が見るしかない。親が共働きなんだから、どちらかが休むしかない。全て当たり前で、お互い様だから「ごめんなさい」と言う必要もない。「ありがとう」で十分だ。

中国には日本のような手厚い育児休暇はない。半年の産休があるのみだ。昨年2月に出産した同僚は、4月に職場復帰した。ただし、午前中の2時間だけ勤務して帰宅する。時短という制度はなく、ニーズに合わせて現場で柔軟に対応している。

小さな子どもは、自分の思い通りには動いてくれない。日本の保育園待機児童問題や、男性の育児休業取得率のニュースを見るたびに、子育てという不条理を制度でカバーするには限界があるのではないかと感じる。中国のルーズさと属人主義は、この国とビジネスをする相手を大いに悩ませるが、細かい決まりがないからこそ各自が融通を利かせ合い、臨機応変に対応し、働く母親の負担を吸収することもできる。

日本の働く母親は謝ってばかりだ。謝っているうちに、自分の選択に自信が持てなくなり、何かを断念する人も少なくない。最近は、女性活用ブームで、北欧の事例などがしばしば報道されるが、そんな遠くまで行かなくても、すぐ隣の国に私たちワーキングマザーがもう少し楽に働けるヒントは落ちている。

■筆者プロフィール:浦上早苗

大卒後、地方新聞社に12年半勤務。国費留学生として中国・大連に留学し、少数民族中心の大学で日本語講師に。並行して、中国語、英語のメディア・ニュース翻訳に従事。日本人役としての映画出演やマナー講師の経験も持つ。

■筆者プロフィール:浦上 早苗

1974年生まれ、福岡市出身。早稲田大学政治経済学部卒業、九州大学大学院経済学府修了。大卒後、地方新聞社に12年半勤務。その後息子を連れ、国費留学生として大連に博士課程留学…するも、修了の見通しが立たず、少数民族中心の大学で日本語講師に。並行して、中国語、英語のニュース翻訳に従事。頼まれて映画に日本人役として出たり、マナー講師をしてみたり、中国人社会の中で、「日本人ならできるだろ」という無茶な依頼に、怒ったりあきれたりしながら付き合っています。マスコミ業界の片隅に身を置いている経験から、日米中のマスから見た中国社会と、私の小さな目から見たそれの違いを少しでもお伝えできれば幸いです。

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