八牧浩行 2017年10月26日(木) 5時0分
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丹羽宇一郎・元駐中国大使(日中友好協会会長)が新著『戦争の大問題―それでも戦争を選ぶのか』を基に、「戦争と平和」について日本記者クラブで講演。「戦争体験の教訓を学ぶことが、日本を再び戦争に導かない力となり、憲法9条を堅持しないと大変になる」と訴えた。
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2017年10月20日、丹羽宇一郎・元駐中国大使(日中友好協会会長、伊藤忠商事元会長)が新著『戦争の大問題―それでも戦争を選ぶのか』を基に、「戦争と平和」について日本記者クラブで講演した。「人間は動物的で賢くもあれば、鬼や邪になることもある非合理な存在。その人間を愚かにする戦争の真実から目を覆ってはいけない」と警告。「戦争体験の教訓を学ぶことが、日本を再び戦争に導かない力となり、同時に世界に貢献できる手がかりとなる。憲法9条を堅持しないと大変になる」と訴えた。
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本書は、歴史家や軍事評論家が書く戦争論ではなく、中国や米国をよく知る国際的なビジネスマンが、軍事や戦争に対する本質的な疑問を、戦争体験者や軍事・安全保障の専門家にぶつけ、そこから得た知見と教訓をまとめたもの。
講演で、田中角栄元首相がかって語った 『戦争を知っている世代が政治の中枢にいるうちは心配ない。平和について議論する必要もない。だが、戦争を知らない世代が政治の中枢となったときはとても危ない』との警句を挙げながら、「人間は動物的で、賢くもあれば、鬼や邪になることもある非合理な存在。その人間を愚かにする戦争の真実から目を覆ってはいけない」と呼び掛けた。
また「世界の指導者の多くに戦争体験がなく、戦争を格好いいと思いこんでいる若い世代がいることに危機感を覚える。私たち日本人には原爆の惨禍を知っている人もいる。戦争の悲惨な事実を知ってもらおうと、この本を書いた」と明かした。
北朝鮮の核・ミサイル開発を巡り米朝対立が激化していることについて、「最大の懸念は、金正恩体制下の北の指導層と対話のチャンネルを持っている国が少ないことだ。力で圧力をかけてごめんなさいという国はないし、力づくで頭を下げろというのは子どもの喧嘩。戦前にアメリカがハル・ノートで日本を追い込み、戦争になったように、力で北朝鮮を追いつめる“出口なき戦略”は暴発を生む可能性がある」と懸念した。
◆世界中から尊敬される国を目指せ
さらに「国際政治は信用が第一。信用しなければ進まない」とし、安倍首相やトランプ大統領は北朝鮮に圧力をかけるばかりで、対話へ向けた努力をしていないと批判。集団的自衛権によって「日本は危機的事態に直面してしまう」と憂慮した。その上で、「何らかの形で信用できる人を見つけて接触しなければ駄目。時間がかかっても、中国や北朝鮮の間でのビジネス取引をやっている人を見つけるべきだ」と提案した。
さらに「戦争の痛みも知らず、戦力の現実も知らないまま、気に入らない国は懲らしめろという勢いだけがよい意見にはリアリティがない」と断じ、「いまこそ戦争の真実を追い、もう一度、日本の平和と防衛を考えてみるべきだ」と問題提起。「日本が目指すべきは世界中から尊敬される国。世界を屈服させる強国ではない。世界が感服するよい手本となる国だ。戦争はしてはいけない。戦争から得られるものは何もない」と語った。
その上で、「戦争体験の教訓を学ぶことが、日本を再び戦争に導かない力となり、同時に世界に貢献できる手がかりとなる。憲法9条をしっかり堅持しないと大変になる」と訴えた。
◆生き証人から、戦争の悲惨な現実を聴取
本書『戦争の大問題』は、著者自ら、日中戦争・太平洋戦争で武器を手にした体験者を訪れ、専門家から見過ごされてきた多くの事実を聴取。中国の広大な大地で、戦争末期の満州で、極寒のシベリアで、フィリピンの山中で…。悲惨な現実が次々に明かされる。
「人は好ましい情報は積極的に採取するが、好ましくない情報には目を向けない。仮説を立てて、その仮説を補強する情報のみを情報とする。しかし、仮説の反証となる情報を排除すれば、真実からは遠ざかり、勝手な『物語』をつくってしまう」とし指摘した上で、「中国が嫌いな人々は、中国の悪い面に関する情報ばかりを採取して、そら見たことか、彼らはこのように低レベルで愚かで劣った国民だと納得したがる」と喝破している。
さらに若い世代に対し、「父、母、先輩、多くの人たちが生き抜いたその証の上に君たちがいる。その君たちの命を大切にし、回りの人たちと助け合ってほしい」「そのためにも、絶対に戦争に近づいてはいけない」と繰り返す。「戦争がいかに不条理、不合理で、愚かしく、残酷で、悲惨で不毛なものか、戦争の真実の姿を読者に伝えたかった」と呼び掛けた。著者の“平和への願い”が通奏低音のように伝わってくる。(八牧浩行)
<丹羽宇一郎著『戦争の大問題―それでも戦争を選ぶのか』(東洋経済新報社、1500円・税別)>
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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