第17回日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクール審査委員の所感

人民網日本語版    2017年11月2日(木) 12時50分

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特定非営利活動法人日中友好市民倶楽部とNipponアカデミーが主催し、中国日語教学研究会と人民網日本語編集部等が後援する「第17回日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクール」の論文審査会は、前橋市の群馬ロイヤルホテルで開催され、華やかな開幕式典が、執り行われた。

特定非営利活動法人日中友好市民倶楽部とNipponアカデミーが主催し、中国日語教学研究会と人民網日本語編集部等が後援する「第17回日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクール」の論文審査会は、前橋市の群馬ロイヤルホテルで開催され、華やかな開幕式典が、執り行われた。

卒業論文コンクールの審査委員所感は、下記の通りです。

なお、所感の掲載は、原稿の到着順です。

1.審査所感

言語部門主査 徐一平

この度「第17回日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクール論文審査会」が山紫水明の群馬県前橋市で行われ、初の日本での開催が実現され、大変嬉しく思います。「日中友好中国大学生日本語科卒業論文コンクール」の主旨は、まさに、中日両国人民の友好交流を促進することにあり、この度、シルクロードの東端だと言われ、絹産業から陶磁器産業まで、歴史的にも中国の文化と非常に深いつながりを持っている当地で開催できたことは、やはり何かの御縁ではないかと思い、主催者側の皆様の暖かいおもてなしに対して、心から感謝の意を申し上げたいと思います。

今回の言語部門の推薦論文は20本で、毎年と同じように各部門では一番多い部門になります。その中で内容的に見ると、翻訳関係は6本、言語研究は5本、日中対照研究は4本、日本語教育は3本、ポライトネスは2本(もちろんこの中で視点によって両方に考えられるものも含めて)になっています。翻訳関係が増えていることは、おそらく近年来教育現場で実践重視と修士コースの中で、MTIコースが増えていることと関係があるのではないかと考えられます。17年間も続いたこのコンクールの総合効果で、中国大学生日本語科の卒業論文のレベルは年々高まっており、17年も前にこの論文コンクールを企画実施した日中友好市民倶楽部の小野寺健理事長に崇高な敬意を表したいと思います。

そのような状況のもとで、各大学から推薦された優秀論文なので、確かに優劣がつけがたい素晴らしいものが揃っていました。審査委員の皆さんの厳しい予備審査と最終審査を通して、言語部門では以下の4本を今年度の優秀卒業論文として決定しました。

一等賞1本:「現代日本漢字音と現代ビン南方言における入声音の対応について」執筆者 陳静怡・指導教官 朱京偉・北京外国語大学

二等賞1本:「多人数会話における遡及的連鎖についての日中対照研究」執筆者 邵芸[女亭]・指導教官 賈[王奇]、金華・華南理工大学

三等賞2本:「マルクス主義理論用語の中国語訳の帰化と異化―『共産党宣言』の直訳と重訳を例に」執筆者 彭成浩・指導教官 唐粲萌・南昌大学 ;「文法化の視点から見た言いさし文における『っていう』の終助詞的用法」執筆者 周依林・指導教官 楊暁敏・復旦大学

一等賞の「現代日本漢字音と現代ビン南方言における入声音の対応について」は、言語研究の中であまり取り上げられていない音韻研究で、特に日本語漢字音の中に反映されている入声音と中国ビン南方言の中の入声音の対応関係を通して、先行研究におけるかなり権威性のある説に対して挑戦し、綿密な資料を通して、より言語事実に基づいた新発見がありました。

二等賞の「多人数会話における遡及的連鎖についての日中対照研究」は、日中両国の人たちの会話パターンに関する研究で、実際の会話データーに基づき、それぞれの会話のターンや会話者同士の応答、相槌などの習慣に基づいて、両国語母語話者の多人数会話の特徴を明らかにしました。

三等賞の「マルクス主義理論用語の中国語訳の帰化と異化―『共産党宣言』の直訳と重訳を例に」は、日本語から翻訳された『共産党宣言』の中のマルクス主義理論の用語の翻訳方法について、具体的なデーターを使いながら、また他の翻訳方法と対照しながら、その中の特徴や方法を検討しました。もう一本の三等賞「文法化の視点から見た言いさし文における『っていう』の終助詞的用法」は、日本語の中でわりと新しい言語現象の一つ「っていう」が文末に使われ、終助詞的な役割を果たす文法化された使い方を、多くの実例を通して分類、検討した力作であります。

以上、言語部門では4本の論文を選びました。特に三等賞を2本選んだ理由は、一つは三等賞に選ばれた2本のレベルは本当に甲乙がつけがたいほど接近していることと、言語部門は全部で20本の論文があり、4本選んだとして、入賞率はやはり20%で、他の2つの部門よりもまだ厳しいという状況がありました。そして、今回選ばれた論文は、しっかりとした言語資料、アンケート調査、データーを示しているため、その中の何本かは本コンクールが規定されている字数制限(30000字)を超えていましたが、しかし、言語部門の審査委員は、そのような詳しい資料を駆使して研究すると、どうしても制限字数内で収めることが難しく、そこは機械的な字数制限より、実際の研究内容とその必要性から考えて、論文の質をより重要視するということで意見が一致しました。

もちろん、入賞された論文は、それだけ優秀な一面があると同時に、物足りない部分もあります。例えばデーターの分析の足りなさや、論述の論理性のより納得できるような説得力や、また日本語表現の正確さなど。しかし、それこそ大学生卒業論文の実際の一面の反映ではないかと思います。そして、賞に選ばれなかった論文も、決して全て良くないということでもありません。どうしても賞の数が限られていたため、その中で審査委員も余儀なく選択しなければならないという苦痛の結果であります。すべて参加された各大学の学生と指導された先生たちに改めて感謝の意を申し上げたいと思います。

今年は、中日国交正常化45周年という節目の年に当たります。この45年間の間に、中国と日本はいずれも大きな変動が起こっております。世界も毎日目まぐるしく変化しております。そのような情勢の中で、中日両国の間にもいろいろ複雑な問題を抱えております。しかし、その中で両国人民の友好を願う心は永遠に変わらないものだと思います。17年間も続いてきたこの論文コンクールも、まさに中日両国人民の友好を象徴しているのはないかと思います。今後、私達も引き続きコンクールの主催者団体の日中友好市民倶楽部と一緒に、中日両国人民の友好のために、アジア乃至世界平和のために、一生懸命に努力していきたい所存であります。

2.委員の所感(文化社会部門)

文化社会部門の審査は、ゲスト審査委員として参加された北京第二外国語学院副教授の津田量先生の主導の下に行われ、新進気鋭の研究者の息吹に触れ、滞りがちな末端の脳細胞にも蛋白質が行き渡り、老化防止と脳の活性化が図られ、緊張と程良い疲労が伴う知的な空間と時を共有致しました。

また、入賞論文の評価については、評価が一致しておりますので、具体的な論評は、津田先生の評価に譲り、私からは、概括的な見解と部門を超えた課題について、述べさせて頂きます。

さて、卒業論文コンクールは、第17回を迎えるに至り、応募論文の質向上は、著しいものがあり、一部の論文を除けば、形式要件は粗満たしておりますが、参考文献の質と量については、応募校及び指導教師間のコンセンサスが、図られておりませんので、一言述べたいと存じます。大分前の話になりますが、北京第二外国語学院のシンポジウムの折若手教員から、次の質問が呈されました。「参考文献と学説の引用は、どの程度必要ですか?」と聞かれたので、「最低通説と有力な少数説に触れ、自己の位置付けを明確に示した上で、複数の引用と見解を示せば、論拠に厚みが増します。」と答えました。

次に論点の数について言えば、学士論文の性格と字数を考慮すれば、一論点に絞り込み、洞察力と論文作成のマナーに習熟することが、適当かと存じます。

なお、当コンクールの審査に当たっては、応募者と応募大学を推測させる記載は全て削除して、番号による匿名審査を、徹底しております。

更に、採点後に於いて、当該審査委員の勤務校と判明した場合は、その審査委員の採点を除外して、公正さを担保しております。

一方、形式的な公正は、審査会を重ねるごとに徹底して参りましたが、実質的な公平を担保する観点から、各部門内での議論を踏まえることを前提として、今年度から主査の裁量を、大幅に認める改革を取り入れましたが、概ね好評かと存じます。

そして、各審査委員が、年代と経歴を超えて、自由に議論することが、論文審査会の特徴なので、有望な若手研究者の登用を図り、次世代への礎を築き、合わせて開かれた審査会も目指します。

かくて、風雪に耐えながらも、次の時代にも機能し得る卒業論文コンクールを目指しますので、皆様の力強いご支援とご協力を、お願い申し上げます。

結びに、公務繁忙な中遠路参加された審査委員各位に、衷心よりお礼を申し上げます。

(淮蔭師範学院客座教授・小野寺健)

3.2017年卒業論文 社会文化 講評

文化社会の論文の内容は2本が歴史学であった外は、全て社会・文化学であった。どの論文も各大学の最優秀論文だけあり、全体的に見て規範性の高い卒業論文が多かった。また、外国語である日本語で、これほどまでに立派な卒業論文を書いていることに感動を覚えた。以下、

41号論文「中国同盟会の分裂騒ぎと北一輝」

本論文は、歴史分野の論文である。新しい資料の発掘や発見は見られず、先行研究のまとめが巻末に付録として付加されている等、論文の規範性には難があり、内容も背伸びした印象はあるものの、完璧な日本語で書かれており、既存の研究を頑張ってまとめた点が高く評価できる。全体として学部生が書いたものとは思い難いレベルであり、形式の不備を補って余りあった。将来、歴史学の研究者として期待できる逸材である。本人の努力は勿論であるが、指導教員の力量と指導に負うところも大きかったのではないか。

21号論文「日本における留学生を対象とした地震防災教育の一考察――熊本大学とフジ国際語学院を参考に」

本論文は、留学生を対象にした地震防災教育である。地震災害のあった熊本を対象としており、タイムリーなテーマ設定である。実地でのアンケート・インタビュー調査を主軸として形作られている。日本人としての視点で見ると、内容としては特段新しいものはないが、先行研究のまとめや論文の規範も整っており、全体的に卒なくまとまっている。卒業論文として完成度がとても高く、日本語も非の打ち所がないため、高得点につながった。

39号論文「ソーシャルメディア環境下での情報伝播のメカニズム」

本論文は、研究手法に特徴が見られた。テキストマイニングという分析手法を用いてネット上の議論形成プロセスを述べたものである。この論文の優れた点は、分析対象の設定と、ソフトウェアを使用しての分析手法にある。先行研究を踏まえた上での論の構成も優れており、卒業論文としての規範性もある。本論文もネイティヴのように自然な日本語で書かれている。ただ、新しい分析手法やデータに振り回された感があり、データをうまく生かし切れておらず、論文としてやや惜しかった部分があった。

43号論文「近代初期における日本仏教とキリスト教の関係」

二本あった歴史を扱った論文の一本。新しい発見こそないものの、卒業論文として規範性に優れ、手堅く論を進めている点が評価できる。本論文は入賞こそ逃したが、好印象の卒業論文であった。

23号論文「中国人大学生のスマートフォン依存とストレスの関係」

本論文は仮説モデルを立てて、それをアンケート調査から得たデータを基に、統計ソフトを使用して確かめ、仮説モデルを修正していく手法が用いられている。日本語の上手さは勿論、日本語専攻の学生が社会学の専攻学生のような統計学的手法を取る論文に果敢に挑戦した点が大いに評価できる。社会学の論文として見るならば完成度に難があるが、日本語専攻生の卒業論文としては高く評価できる論文である。

(津田量 北京第二外国語大学准教授)

4.審査所感〔2017)

第十七回日本語専攻本科生卒業論文指導シンポジウムが初めて日本群馬県前橋市で成功裏に開催されたことを心よりお祝いの意を申し上げます。

文学部門の応募論文は計12本で、審査の結果、30号の「中日両国漢文教育の比較研究ー漢詩を中心に」を一等賞に、12号の「[告白]のおける物語論の視点と倫理について」を二等賞に、「角田光代の作品における母親像」を三等賞の授賞に決定しました。

一等賞授賞の卒論は中日両国の高校国語教材を丁寧に調べ、両国の漢文教育の基準を比べ、選ばれた漢文と漢詩を比較することによって、筆者なりの結論を出しました。論文はよく整いて、規範性がよく、創造性あり、説得力も持っています。確かに立派な学部生の卒論だと審査員たちは揃って認めました。

十数年ぶりに全国日本語学部生卒業論文の文学組の審査を勤め、大変光栄に思います。学生諸君と指導教師の努力で、今回提出された十二点文学関係の卒論の質は前と比べ、全体的に質が向上を見せたような気がします。

顕著に進歩したことは下記の通りです。

1.テキストの解読により、自分なりの丁寧又は綿密な分析、考証を通して、創造的見解を示したり、読者を納得させる結論を出したりしています。

2.論文の注釈、参考文献、先行研究などの規範性が前と比べて大幅に進歩しました。これは各大学の指導教師の重視や効果のある指導と密接な関係があります。

3.古典研究論文は半分(5点)ぐらいを占め、真に理解したうえに詳しく論証比較を通じて自然に結論を出します。いわゆる<文学離れ>の気風に大分影響された現在の大学学部生の卒論にこんな素晴らしい古典研究論文があることに審査員の一人として感心せずにいられません。

論文審査の基準は独創性、論理性、日本語の表現に絞りますが、独創性の比重が一番大きく占めています。独創性という言葉ですが、よく似た言葉に創造性というのがあります。

独創性の場合は、ごく稀な天才的な人物が考え出すというイメージが強いのに対し、創造性の場合、万人がその能力を生まれながらに持っており、これを生かし伸ばすという考え方が強調されるところです。知恵、創造性のある論文(たくさんでなくてもいい)を期待しております。

今回の40号応募論文「魯迅いおける《近代の恋愛観》の受容??《?逝》を中心に」は割とよくできている論文ですが、問題は規則された学部生卒論字数が30000字の上限をオーバーし(字数が多いほどいいということを提唱しない)、厨川白村の著作との対比に不自然なきらいがあり、むしろ中文専攻の卒論として提出したほうが適切のようで、残念です。

ようするに、現在の本科卒論の水準は年々進歩していながら、新しい問題も出てきています。それを乗り越えて進歩を遂げる循環の中に、わが国の日本語専攻の学部生卒論の水準をさらに向上させていきましょうか。

(譚晶華)

5.審査所感

日中友好中国大学生日本語卒業論文コンクールはすでに第十七回を迎えてきましたが、日本において審査会が行われたのは今回が始めてです。本場の美味しい日本料理に舌鼓を打ちつつ、論文審査が捗りました。

文学部門に提出された論文は全部で十二本で、全体的には質の高い論文が多く、現代日本文学研究をテーマとする論文の量が増え、従来古典を中心とした論文構成に変化が見られるのはこの三、四年来の特徴となっています。

今年、一等賞と選定されたのは「中日両国の漢文教育の比較研究」という論文です。審査委員が三人揃って本論文を高く評価したのは、作者が論文に取り組む姿勢そのものです。中国側の資料と日本側の資料を丁寧に精査した上、比較の方法を用いて、その共通点と相違点を指摘し、更にその原因の分析を試みました。一見地道な研究ですが、いかにも大学生らしい論文となっています。コンクールの回数が重なるにつれて、論文の質が大分向上しました。その反面、入賞を目当てに、奇抜なテーマや長さで勝負する論文、そして先生の過度指導の痕跡が濃厚に窺われる論文が増えたのも事実です。正直言って所詮、大学生の卒業論文なので、斬新な理論を創造したり、修士や博士並みの研究成果を生み出したりするようなことは、そもそもわれわれは期待しておりません。日頃の勉強を通じて身に付けた知識や研究方法を生かし、真剣に取り組めば、良い論文がまとめられると、今回の一等賞の論文はそれを如実に物語っていると思います。

今回の論文審査を通じて感じたもう一つのことは、論文の質的な向上だけでなく、研究分野も多岐に渡っているのです。だた、その中で注意すべきなのは、所詮日本語学部の学生が書いた論文なので、論文の主題はやはり日本文学に関するものでなければならないでしょう。例えば、今回提出された論文の中に、魯迅先生の小説における日本文学の影響研究があります。所謂比較文学の研究方法はいいですが、研究対象は魯迅文学なので、言うまでもなく中国文学の範疇なので、本コンクールの趣旨には合わないのです。そのため、論文の出来ばえはいずれにせよ、やもえず審査対象から外しました。その点について今後各大学は論文推薦にあたって、注意すべきなのでしょう。

(北京第二外国語学院副校長教授 邱鳴)

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