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<点描・北京五輪>朝倉浩之の眼・回憶 北京五輪(1) 中国の観客はマナー違反か?

Record China    2008年8月27日(水) 16時31分

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北京五輪がついに閉幕。週間にわたる大会期間中の出来事について、振り返ってみたい。あえて1回目に取り上げたいのは、観客のマナーの問題だ。写真は女子ビーチバレー会場。

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北京五輪閉幕まで、あと1時間ちょっととなった。私自身は期間中、様々な活動を通じて、北京五輪にかかわり、また取材を続けてきた。2週間にわたる大会期間中の出来事について、振り返ってみたい。

あえて1回目に取り上げたいのは、観客のマナーの問題だ。これは、大会開始前から様々な場面で強調されてきた。マナーといっても色々あり、よく話題になるのは生活上のマナー。街中でタンを吐き捨てたり、ごみをポイ捨てしたり、くわえタバコをしながら歩く、という行為が何の罪悪感もなしに行われている様子は、国際社会から批判を浴びてきた。

ただここで取り上げるのは、競技場内で観戦する観客のマナー問題である。私の知る限り、「加油!(がんばれ)中国」の大声援、黄色のTシャツを着た「応援軍団」などが大きく報道され、“やりすぎではないか”“自国に偏りすぎ”“他国の邪魔をするような声援は疑問”などの意見が多く出ているようだ。

「がんばれ!中国」の大声援は確かに他国の選手たちに大きな脅威を与える。それでもって、パフォーマンスに影響を全く与えないかといえば、多くの選手たちは「関係ない」と答えるが、それは表向き。内心では、“やりにくい”のは確かだ。

ただ、この大声援を、それだけでもって、マナー問題に含めるのはどうだろう。私はむしろ、この大声援に、北京五輪を待ち望んでいた市民の期待感や喜びの気持ちを感じるし、精一杯、地元選手を応援しようという彼らの気持ちは全く自然のものだと考える。私も会場にいると、その大声援に「勘弁して欲しいなあ」と苦笑することも多いが、一方で、「たっぷり声援を送って、スタジアムでゲームを楽しむ感動を味わって欲しい」と思っている。

“アウェイ”の選手たちは、その声援に打ち勝つ精神的強さが必要なのは言うまでもないし、また“ホーム”の選手にしても、場合によっては、この声援が逆に大きな重荷になって、成績を崩してしまった選手がいる。それもまたオリンピックだ。この大声援そのものの功罪を論議するのは、少し議論がずれている。

ただ、その大声援もタイミングが大切だ。特に、静寂が要求されるテニスなどのスポーツでは、声援のタイミングが選手のパフォーマンスにも影響することは周知の通りだ。

ここ数年、特に世界的に注目されている女子テニスの中国第一人者、李娜の準決勝での行為が大きな問題となっている。

事件は第2セット、5−4で李娜リードで迎えた第10ゲームにおきた。サービスを打とうとする李娜だが、トスを上げた瞬間に、声援がかかり、どうも打ちにくそうにする。そのポイントは李娜がとり、会場内は大声援に包まれるが、そのあと、カメラがアップで捕らえた李娜は観客に対して、英語で「シャラップ(黙れ)」と言っている様な口の動きを見せたのだ。

その後、敗れて決勝進出ならなかった李娜は「プレイが思い通りにならなかったためにイライラしていた」とその理由を説明した。だが、この「黙れ」事件は大きな波紋を呼ぶ。特にネット上では議論が展開され、「やはり会場がうるさすぎた」「声援はやりすぎだった」とする擁護派と、「自分の力がないことを観客のせいにするな」「歓声の中でもきちんとプレイするのが一流選手」などという反対派に分かれて、大きな論争となっている。

ただ、この試合にも伏線があった。試合開始当初から、携帯電話の音が鳴り響いたり、赤ん坊が泣き叫んだりという明らかな「マナー違反」もあった。そして、相変わらずの「加油!中国」コールがサーブの直前まで続き、主審が何度も「静かに!」とマイクを通じて、会場に呼びかけることも度々だった。だが、それでも、最後まで、ほとんど改善されなかった。

李娜とすれば、もちろん、思い通りのプレイができないことへのイライラや不満がたまっていたこともあるだろうが、会場の声援がプレイへの集中を妨げ、全く「声援になっておらず」、鬱憤がたまってきていたことは、十分理解できる。

「自国の応援に対し、黙れとは何事か!」という意見も多くあったが、それは「良き応援」が行われてこそのもの。プレイヤーの邪魔をしておいて、「自国の応援」もあったものではない。

このテニスにおけるマナー問題は、以前行われた五輪テスト大会でも、同様の現象が見られ、このブログでも指摘してきた。北京五輪に向けて、「観戦指南書」なるものも発行され、観戦客に“テニスの正しい見方”を呼びかけてきたが、結局、本番でもその問題は解決せず、自国のエースのプレーに影響を与えてしまったというわけだ。

ただ、以前も書いたが、この現象が全ての競技にあてはまるというわけではない。

私は卓球、バドミントンなど、中国勢が非常に強い種目の競技場に足を運び、ここで怒号のような「加油(ジアヨウ)」コールを何度も体験してきた。だが、そこでの歓声のタイミングは見事というほかない。

ここぞというところで会場中が静寂に包まれ、選手の素晴らしいパフォーマンスが出た瞬間にものすごい歓声が会場を包む…私はこれらの会場で、「静と動」を見事に使い分けた「応援の成熟」を感じた。観客の皆さんが本当に競技を良く知っているなあという実感だ。もちろん、中には、それを“外す”人もいないわけではないが、それもまた、観客の見事な声援が帳消しにしてしまう。

テニスは中国でまだ新しいスポーツだ。近年、急速に力をつけてきているが、決して一般市民の間で浸透しているスポーツとはいえない。

結局は、その競技がどれだけ観客の間に浸透しているかというのかが、「声援のうまさ」にもつながっているのだろう。だから、テニスと卓球では観客の成熟度も全く異なる。もちろん、その意味での「マナー」を向上させていく努力は必要だし、北京五輪を通じて、多くのマイナースポーツが市民の間に浸透していってほしいと思う。

ただ、単に「加油」の声援が大きいことをマナー違反に結びつけるのは、いかにも短絡的だ。本当の「マナー違反」とは、そんなレベルのものではないと思う。

<注:この文章は筆者の承諾を得て個人ブログから転載したものです>

■筆者プロフィール:朝倉浩之

奈良県出身。同志社大学卒業後、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする中国国際放送などの各種ラジオ番組などにも出演している。

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