<コラム>日本の「寛永通宝」が中国で流通したわけ

工藤 和直    2018年1月1日(月) 15時30分

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日本で鋳造され一番市場で使われた貨幣は江戸時代の「寛永通宝」である。あの10円玉より発行数が多いと言われている。写真は筆者提供。

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日本で鋳造され一番市場で使われた貨幣は江戸時代の「寛永通宝」である。あの10円玉より発行数が多いと言われている。テレビ時代劇「銭形平次」で悪人に投げるのがこの「寛永通宝」一文銭であった。大川橋蔵演じるテレビを毎週見たものだった。総数で300億個ほど鋳造された(写真1)。

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ここ蘇州市内人民路45号「文廟古玩城(写真2)」で多くの中国古銭が売られている。そこで出くわすのが、この「寛永通宝」である。「これは日本の貨幣だよ」と言うと、「どこにもあるよ」と返事が返ってくる。確かに蘇州以外の骨董屋でも見つけることがある。当初は戦前に日本人が持って来たものと単純に思い込んでいたが、調べてみると江戸幕府が公認して清朝初期に大量に輸出していた。平安時代から、渡来銭と言われる唐・宋・明の貨幣を平清盛はじめ当時の鎌倉・室町幕府・京都公家らが輸入し、平安末期に製造を終えた皇朝12銭に代わる貨幣として流通させた。江戸時代初期、逆に中国やベトナムにこの純日本製「寛永通宝」を輸出していた歴史があったのだ。

清朝は貨幣の流通に銅貨を推進しようとした。明朝はそれまで紙幣が主であった。明朝初期に「永楽通宝」の鋳造があったが、市中に貨幣制度を普及させるより、朝貢国家の威信を維持するためか、朝貢国に分け与えることを優先した。室町幕府第三代将軍「足利義満」は日明貿易の推進者であるが、拝領した「永楽通宝」を市中に流通させ、幕府の権威を示した。したがって、中国における「永楽通宝」は稀有であるが、日本では多く見られる。戦国時代、織田信長は旗指物に「永楽通宝」の4文字を使わせた。

清朝は銅銭による貨幣経済の普及を図ろうとしたが、市場に流れる絶対量が不足したため、江戸幕府に依頼して輸入することになった。これに合わせ当時の貿易商人が金になればと、さらに多くの寛永通宝を中国全土に輸出した。だから現在、中国で見つけられるのだ。三宅俊彦「中国に埋められた銭貨」によると、寛永通宝は中国の主要都市23カ所で発見され、遠くは新疆ウイグル地区やカムチャッカ南部、北千島からも発見されている。

江戸幕府は、慶長6年(1601年)金貨と銀貨の制度を整えた。しかし、銭貨に関しては中世以来の渡来銭がそのまま使われていた。寛永3年(1626年)、水戸の豪商「佐藤新助」が寛永通宝試作品を作ったが、幕府は許可せず、寛永13年に江戸浅草橋と芝、それに近江坂本に銭座を設け、公鋳銭として製造開始、その後水戸・仙台・松本・高田・岡山・長州藩などが幕府許可のもと銭座を設け鋳造を始めた。これによりそれまで巷に流通していた中国渡来銭をほぼ完全に駆逐、純日本国産貨幣化に成功した。その後、明治初年まで240年の長きに渡り使用された。中国でも日本でも銭貨の名称は、当時の年号が使われていたが、この「寛永通宝」だけは年号に関係なく、通貨の代名と言うことで長年鋳造された。明治政府以降も補助貨幣として使い、昭和28年末の「小額通貨の整理」に関する法律が制定されるまで、1厘として使うことが可能であった。

日本で発行枚数の多い貨幣は1円硬貨で約440億個である。中国では唐時代の開元通宝(約600億個)、漢時代の五銖銭(約280億個)などがあげられる。

■筆者プロフィール:工藤和直

1953年、宮崎市生まれ。韓国で電子技術を教えていたことが認められ、2001年2月、韓国電子産業振興会より電子産業大賞受賞。2004年1月より中国江蘇省蘇州市で蘇州住電装有限公司董事総経理として新会社を立上げ、2008年からは住友電装株式会社執行役員兼務。蘇州日商倶楽部(商工会)会長として、日中友好にも貢献してきた。

■筆者プロフィール:工藤 和直

1953年、宮崎市生まれ。1977年九州大学大学院工学研究科修了。韓国で電子技術を教えていたことが認められ、2001年2月、韓国電子産業振興会より電子産業大賞受賞。2004年1月より中国江蘇省蘇州市で蘇州住電装有限公司董事総経理として新会社を立上げ、2008年からは住友電装株式会社執行役員兼務。2013年には蘇州日商倶楽部(商工会)会長として、蘇州市ある日系2500社、約1万人の邦人と共に、日中友好にも貢献してきた。2015年からは最高顧問として中国関係会社を指導する傍ら、現在も中国関係会社で駐在13年半の経験を生かして活躍中。中国や日本で「チャイナリスク下でのビジネスの進め方」など多方面で講演会を行い、「蘇州たより」「蘇州たより2」などの著作がある。

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