Record China 2008年9月8日(月) 11時24分
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北京五輪の期間中、北京市内は大いに盛り上がった。だが、間違いなく今回の五輪は「市民不在」の大会だった。それがより顕著に現れたのが、五輪開幕直前、北京市内で行われた聖火リレーだった。写真は聖火リレーで走者を務めた国民的スター・姚明選手、6枚。
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■■■■■2008年9月4日■■■■■
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北京五輪の期間中、北京市内は大いに盛り上がった。だが、間違いなく今回の五輪は「市民不在」の大会だった。大会○○日前といったカウントダウンやマスコット、公式ソングの発表など、ここ2年あまりの間に様々なイベントが行われたが、いずれも出席者は「同じ人ばかり」。そしてその周囲をものものしい武装警官が取り囲み、その様子を少しでも目にしようと、押しかける市民がいる。だが、彼らには「意地悪なくらい」に中の様子を見せようとせず、高くて厚い衝立が置かれる…そんな風景を何度も目にした。
その「市民不在」ぶりが、より顕著に現れたのが、五輪開幕直前、北京市内で行われた聖火リレーだった。
8月6日、北京市内は中国国旗と五輪のミニ旗の大群に埋まり、「ジアヨウ(がんばれ)中国!」の太い歓声に包まれた。
3月31日に北京入りしたあと、世界19カ国を回り、5月初めからは全国100都市以上を巡った北京五輪の聖火は6日、北京でのリレーを行った。沿道には数多くの市民がつめかけ、大歓声でランナー400人あまりを迎えた。
この風景、一見すれば五輪を前にした市民の盛り上がりは最高潮、のようにも見えた。だが現場で見ている私には、相変わらずの「市民不在の五輪」という側面が垣間見えた聖火リレーとなった。まずは、その様子を簡単に振り返ってみたい。
聖火は北京の中心にある故宮(紫禁城)を朝8時にスタート。ぽつぽつと小雨が降る中、すでに朝5時から1000人以上の市民がつめかけ、ミニ「五星紅旗」を振りながら、スタートを待っていた。市内の大学生、趙君は昨夜11時に一番乗りしたのだとか。「昨日は眠れなかった」と興奮気味に語る。「他の都市での盛り上がりをテレビで見て、北京もぜひ盛り上げたいと思った」というのが参加の動機だそうだ。
そして7時ごろから、市民たちが掛け声の練習を始めた。「加油(がんばれ)、中国」、「中国万歳」などをリーダーを中心に練習し、それが徐々にそろってくる。
午前8時に式典がスタート。そして8時5分からリレーが始まった。第1走者は中国人初の宇宙飛行士、楊利偉さんで、故宮南側の「午門」を出発した。そして現場が大いに盛り上がったのは米プロバスケットボールNBAで活躍する国民的スターの姚明が第9走者として聖火を受け取ったとき。トーチを掲げる229センチの“アジアの巨人”を無数のメディアが囲み、現場は一時、騒然とした。
さて、この場にいた誰もが気づくのが、現場にやってきた市民全員が何らかの組織に所属している人たちであること。つまり日本で言う「動員」である。揃いのTシャツ、帽子、そして企業や組織の名前とスローガンが書かれた横断幕…。掛け声の練習もかなり統率が取れているのだが、彼らがおなじ組織ということならば当然のことだ。
実は、天安門広場周辺の一般市民の立ち入りは全く禁じられ、広場南側にある地下鉄「前門駅」は朝から臨時封鎖された。広場に集まったのは全て、企業、学校などの団体、団地ごとに組織された人々。そして広場前の大通りの両端には、警備スタッフが配置され、聖火の様子を一目見ようとやってきた一般市民はそこに足止めされることになった。
この「限られた市民」による熱烈歓迎は、その後、北京の西側、南側へと移っていった聖火リレーでも同様だった。
昼3時ごろには、北京南側の豊台区をリレー。周辺の道路は完全封鎖され、2時間前から、続々と大型バスが“現地”に乗り入れてくる。広めの道路数百m分を駐車場に使い、バスからは揃いの帽子、シャツに身を固めた“一般市民”が次々と降りてくる。
彼らの向かうのは指定された応援場所。コースは細かく区分けされ、そこには「A8−10」のように番号が振ってある。各組織にはあらかじめ場所が割り当てされてあり、リーダーが引率して、そこに連れて行く。周囲は警戒線で囲まれ、予め配られているシールを胸に貼っている“市民”だけが聖火リレーのコースに入れるのだ。彼らは指定された場所で、旗を振り、声を限りに応援する。一方、“指定された組織”に所属していない大部分の市民は、華やかなリレーの様子がほとんど見えない場所で、遠巻きに立っているしかない。
報道によると、8月6日には国家体育場(愛称:鳥の巣)付近で英国人が政治的スローガンを掲げ、警察に拘束されたという。これらの厳重な警備は、聖火リレーの場を利用した何らかの「政治行動」を当局が恐れてのことであることは間違いない。
だが、それとともに、残念ながら中国は、「一般市民」を信用していない。国が市民を信用していない…という事実は非常に残念だが、ここで生活していて、常に感じることでもある。
テレビ画面では多くの市民が映って、聖火リレーの「盛り上がり」を演出していたが、それはあくまで中国側の選んだ「お行儀の良い市民」だけだった、というわけだ。
<注:この文章は筆者の承諾を得て個人ブログから転載したものです>
■筆者プロフィール:朝倉浩之
奈良県出身。同志社大学卒業後、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ・ニュース・ドキュメンタリー等の制作・取材に関わる。現在は中国にわたり、中国スポーツの取材、執筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする中国国際放送などの各種ラジオ番組などにも出演している。
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