<連載コラム・東アジアの光と影(1)>中・日・韓・台が世界の成長をけん引=朝鮮半島有事の危機背景に軍拡競争、悪循環に歯止めを

八牧浩行    2018年1月1日(月) 5時30分

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日中韓台湾などの東アジアは昨年、光と影が交錯。世界の経済成長センターとして存在感を高めたが、米朝間では一触即発の軍事危機が懸念されている。激動する国際・経済情勢を読み解いた上で、この地域が志向すべき道を探る。資料写真。

日中韓台湾などの東アジアは昨年、光と影が交錯した。トランプ米大統領の「自国至上主義」の風潮が欧米を中心にまん延したものの、世界の経済成長センターとして存在感を高めた。一方で核ミサイル開発など北朝鮮の挑発が繰り返され、米朝間では一触即発の軍事危機が懸念されている。東アジアを中心に地政学的な地殻変動が発生。日本は近隣の中国と韓国とは微妙な関係が続くが、米国と中国は事実上「対立を対話で解決する関係」を維持・強化しようとしている。激動する国際・経済情勢を読み解いた上で、この地域が志向すべき道を探る。

◆存在感増す東アジア

東アジア地域の存在感は増すばかり。日本政府観光局の発表によると、16年1〜11月の訪日客数は前年同期比19%増の2616万人に達し、11月時点で16年実績(2404万人)を上回った。このうち、中国、韓国、台湾、香港の4つの国・地域からなる東アジアからは1951万人(75%)で、訪日外国人の4人に3人がこの地域から訪れたことになる。

財務省貿易統計によると、16年の日本の貿易相手も、輸出で37%、輸入で35%がこれら東アジアが対象だった。国際通貨基金(IMF)発表の、16年名目国内総生産(GDP)でも、世界2位の中国11兆2300億ドル、3位の日本4兆9300億ドル、11位の韓国の1兆4100億ドル、22位の台湾5300億ドル、33位の香港3200億ドルとランキングを上げている。

大規模な地殻変動の根幹となるのは「経済」である。経済力を指標とする国力は、日本が兄貴分で中国や韓国を支援する時代は終わり、今や中国が日本の3倍近い大国に発展、韓国も日本を追い上げる構図。日中韓3カ国の力関係が変貌した結果、各国のナショナリズムが歴史認識や領土が絡む問題の解決を困難にしている。

韓国の対中回帰も最大の貿易相手国である中国についた方が得とのリアリズムが背景。米国だけでなくドイツ、フランス、英国、東南アジア諸国なども世界最大の消費大国・中国のパワーを無視できない。

中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への加盟国は15年12月末に57カ国で発足したが、加盟を希望する国が急増し、100カ国以上に。中国主導の広域経済圏一帯一路(海と陸のシルクロード)構想が多くの国々の参加を得て進行している。中国は世界最大の消費市場を“売物”に産業協力や輸入拡大をアピール、積極的な首脳外交を展開している。

「北朝鮮のミサイル挑発や中国の海洋進出を念頭に防衛力を強化する」というフレーズが日本政府高官やメディアで多用される。日本の防衛費も安倍政権下で増加し、30年度予算案では3年連続で5兆円を突破した。北朝鮮は国力を度外視した巨額予算を核ミサイル開発につぎ込んでいる。中国も軍事予算を毎年拡大、空母の複数保有を計画中だ。北朝鮮の脅威に直接さらされる韓国も軍事力を強化し、地域の緊張と軍拡競争の悪循環が続いている。早急に歯止めをかけなければならない。

◆経済の相互依存強化を

世界の成長センターである東アジアで経済の相互依存を深めることこそが軍事衝突を防ぐ最大の抑止力になる。2度の世界大戦の教訓から生まれた共通経済市場であるEU(欧州連合)諸国の間では、「戦争が起きると考えている国民はいない」(仏外交筋)という。

戦後の国際秩序の前提として、(1)米国を中心とする先進民主主義国による国際公共財(安全保障・貿易システム・制度)提供と同盟ネットワークの維持・強化、(2)開かれた経済システムとグローバリズム化がもたらす恩恵の共有、(3)自由な価値、法の支配、人権の尊重といったリベラルな秩序の基盤となる価値の体系を重視―など3点があった。

ところがこれらが新しい4つの潮流の挑戦を受けている。(1)グローバルなパワーバランスの変化:世界的な富の分布の変化(G7からBRICSなど新興国への流れ)やテロリズムなど「非対称型脅威」の浸透、(2)「国家資本主義」の拡大:資源・エネルギー、金融、IT・電気通信分野などにおける国営・旗艦企業の台頭や政府系ファンドによる戦略的投資の推進(リーマンショックと資源価格の変化が契機に)、(3)民主主義の後退:自由な価値と民主主義が世界的な試練に(先進国:民主主義のパフォーマンス低下と格差拡大・中間層停滞、新興国:民主転換を果たさず、権威主義と統制の強化)、(4)「安全保障の地理」の縮小と「経済の地理」の拡大―である。

◆全方位的な外交展開を

日本はこれまで、米国主導の戦後秩序の下で、地政学的な葛藤をそれほど感じることなく過ごしてきたが、そうした牧歌的な時代は終わりつつある。中国の経済・軍事的な台頭などパワーシフト(力関係の転換)を直視した上で分析し、したたかに全方位的な外交を展開する必要があろう。良質の統治と経済の成長・再生なくして、地政学の挑戦にこたえることはできない(八牧浩行

「<連載コラム・東アジアの光と影(2)>膨張中国、世界一の生産・消費国家に=「中進国の罠」をクリア―軍事強国化に危うさ」に続く

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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