<コラム>ニュース中国語事始め=中国語の「原則」を「原則」と日本語訳すると混乱することも

如月隼人    2018年9月8日(土) 20時0分

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「ニュース中国語事始め」というシリーズを始めます。報道文に出てくる中国語単語や表現について、ご紹介していきたいと思います。さて、今回取り上げるのは「原則」という単語です。写真は日本の国会議事堂。

「ニュース中国語事始め」というシリーズを始めます。報道文に出てくる中国語単語や表現について、ご紹介していきたいと思います。

さて、今回取り上げるのは「原則」という単語です。中日辞書を引いても<原則 yuan2ze2>の訳語は「原則」としか書いていません。ただ、この言葉は、中国語記事を日本語訳する時の「記者泣かせ」の単語のひとつなのです。

ずいぶん前ですが、テレビの国会中継で、こんな光景がありました。小泉内閣の初期で、答弁に立ったのは田中真紀子外相。小泉首相の靖国神社参拝に、中国が猛反発していた時期でした。田中外相は「ですから、中国は原則だと言っておりまして…」と説明。途端に「単なる原則だろ!」との野次が飛びました(田中外相と野次の細かい言葉づかいは、私の記憶によるものです)。

「ううむ。やはり『原則』という言葉の扱いは難しい」と痛感しました。というのは日中双方で言葉に込められる気持ちが大いに違うのです。

日本人が「原則」という場合、「例外はあり」と発想する場合が多いですよね。「原則的には認められないが、状況が状況だからねえ」なんて言い方をよくします。

しかし、中国人の使い方は違います。「原則」とは「揺るがすことのできない基本的な取り決め」なのです。何人かの中国人に確認したのですが、「くだけた日常会話では、日本人と同様のニュアンスで<原則>の語を使う場合もあるだろう」とのことでした。

しかし、公の場で中国人が<原則>と発言した場合には「妥協不能」と言うのに等しいのです。「双方が合意した原則」などと言い出したとしたら「あなたたちも認めましたよね」と念を押していることになります。

日本人と中国人が何かについて交渉をして、中国人側が自らの主張について「これは原則」と言い出したら、日本人側にとって相手を譲歩させるのは、かなり難しい作業になると考えてください。もちろん、状況次第では可能な場合があります。例えば、こちらの主張が必ずしも<原則>には反していないと論を立てる方法などがあります。

彼我の主張のへだたりが大きい場合、日本人は諦めてしまいがちですが、中国人は「この交渉を成立させてやろうじゃないか」と闘志を燃やす場合が多いようです。その心理をうまく利用すれば、交渉の「落としどころ」を見出す可能性も出てきます。ただ、中国人が<原則>の語を口にした場合、「道理はわれにあり」との主張が込められていることは理解してください。

いずれにせよ、中国人が<原則>を口にして強硬な主張をした場合でも、交渉成立が当方にとって利益になるなら、軽々しく諦めない。これが中国人との交渉における<原則>(この場合、中国式の意味)です。

さて、では中国語の<原則>を、どう日本語訳するか。いくつか試したのですが、私の場合「大原則」とすることが多いですね。こうすれば、日本語でもかなり強いニュアンスになりますから。中国側の意思をもっと強く示すべきと考えた場合には「違えることができない大原則」とすることもあります。「原則」の語を使わないで「大前提」などの言葉に置き換えることもあります。

ただ、日本の報道では、そこまで意識せずに「原則」の語を使っている場合もあるようです。中国関連の記事で、中国側の意思表明として「原則」という語が使われていた場合には、「妥協不能」の意味が込められていると思って読んでください。

お断わり:本コラムでは、中国語を<>の中に日本語の常用漢字の字体で表示します。ピンインについては、ローマ字表記の直後に声調を算用数字で添えます。軽声は0とします(例:<東西 Dong1xi0>)。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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