<このごろチャイナ・アート&A>レッドクリフ後編、いよいよ4月に公開〜美女の活躍にも注目・コラム

Record China    2009年3月26日(木) 10時7分

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「このごろチャイナ・アート&A」は最近の中華圏における「アートそしてアーキオロジー(考古学)」に関する動きを紹介。不定期配信。今回は三国志を原作とした映画レッドクリフ。写真は絶世の美女役で登場する現代の中華圏の美女リン・チーリン。

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2009年3月、先日試写会で、中国の古典「三国志」を原作とした映画「レッドクリフ」の後編「レッドクリフ PartII ―未来への最終決戦―」を見た。色々な評価があるようだが、私は素直に面白かったし、単純な娯楽作品だけではない訴える部分も感じ、満足して帰路についた。

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■単純に娯楽だけでなく訴えも〜英雄の戦いにおける個の辛さ

長年来の映画好きとして、総合アートとしての映画への期待を込め、その魅力を分析すると、まず三つの視点が挙げられる。

1、三国志の英雄の戦いを個人レベルに引き下げ、時代を超えた戦争における個人の辛さをみせてくれた。

2、火を灯した大きな灯篭型のタコが赤壁の戦いの先駆けとして大空に放たれるなど、中国的な風俗、習慣が親近感をもって感じられた。

3、共通の古典が改めて身近になった。

三国志と言うと英雄の物語だが、歴史は英雄だけのものではないという監督のメッセージが伝わってきた。たとえば「火攻(フオコン)」のため家族への遺書を破り捨てて臨む呉の国の兵士たち。この場面は第二次世界大戦の時の日本の神風特攻隊、さらには現在も続くイラクやパレスチナにおける自爆テロさえも連想させる。また、もう一つの象徴となるサッカーのような球技が得意という理由だけで1000人の部下を持つ隊長に取り立てられた気のいい若者は、現代なら欧州のプロサッカーリーグで活躍するような人材なのだろうけれど、スパイとして潜入していた尚香と友達となり、彼女を信じたままその目の前で…。戦闘シーンは激しく迫力があって、この映画の見せ場でもあるが、製作側は単純なアクション映画にしようとしていない。

レッドクリフの原作である「三国志」は英訳もある国際的に知られた中国の古典だ。たとえば、呉の参謀周瑜が孫子の兵法にある「風林火山」を唱えながら剣の鍛錬をする場面が出てくるが、「風林火山」は日本ではNHKの大河ドラマでよく取り上げられる戦国時代の武将・武田信玄が実践した戦術として著名だ。さらに、横山光輝の漫画「三国志」を読んだり、陣取りゲームの三国志をプレイした者には、ただ名前と静止した絵あるいはデジタルの点数だけだった英雄が、動きのあるストーリーの中でより現実に近い身近な「人間」になる。隣りにある漢字文化圏として特に縁の深い日本の観客としては、共通の古典を改めてとても近しく感じた。

■原作内容とのズレは三国志を広めた功績で帳消し

 全編を通して原作との違いはたくさんあるようだ。本作品には、周瑜が実は孔明のあまりの聡明さを恐れて殺そうとしたくだりがなく、二人が最後まで良きライバルとして協力したと描かれるなど、原作との違いの中には相当大きなものもある。しかし、そもそも「日本の三国志は江戸時代に伝わって吉川英治が作り上げた、中国とは別のもの」(加藤徹・明治大学教授)という指摘もあるくらいで、中国での原案にしても、別に日本の漫画のように一人の作者が完璧にその世界の中で作り上げた純粋なオリジナルではない。現代の映画監督のフィルターを通して再構築する時に、絶対離れられないかっちりとした下敷きはないと思って自由にやってもいいのでは、というのは暴論だろうか。

 中国を代表する伝統文化である京劇の専門家、加藤教授は1993年にカンヌ映画祭でグランプリを受賞した映画「覇王別姫」について、「小説や映画はフィクションなのだから、潤色や誇張があるのは仕方ない。京劇ファンを世界的に増やした功績に免じ、目をつぶるべきであろう」(「京劇」p123)と評価している。三国志ファンを世界に増やしたレッドクリフの功績も同様に評価されていいのではなかろうか。折からテレビ、雑誌など各メディアは三国志関連を盛り上げブームに乗ろうとしている。

 ともあれ、この映画のおかげで、現代の中華圏の美女リン・チーリン、「ラスト、コーション」の名優トニー・レオンら、中華圏の俳優たちが改めて近い存在となった。日本から出演した中村獅童の役は台詞が少なく演技も単調で物足りなかったが、試写会の私の後ろの席では若い女性が「獅童かっこよかったね♪」と息を弾ませていた。中国では三国志における最高の主役とされる孔明役に日台ハーフの国際派・金城武が抜擢されており、日本人的にはうれしい配役だ。

 最後に注目点を二つ挙げると、一つは本作品に描かれた女性たちの活躍ぶり。もう一つは2本に分けたことの効果だ。

 女性陣の活躍は、リン・チーリン演じる絶世の美女・小喬、そして敵地に果敢に忍び込む尚香に注目すれば分かる。香港のカンフー映画でもそうだが、女性もじっとしていないのが中華的な伝統だ。曹操が呉を攻めた主因とされる美女・小喬も、中国の美女の代名詞は唐三彩に代表されるふくよか系美女・楊貴妃だけではないことを知る意味でも面白い。むしろ楊貴妃が例外で、伝統的な中華系美女は現代を代表する台湾のモデル、リン・チーリン的な可憐な風情なのかもしれない。

 レッドクリフが二編に分かれたおかげで、私は、『パイレーツ・オブ・カリビアン』の2作目を見てから3作目を見た時のような感覚を味わった。1作目を見ずに2作目「デッドマンズ・チェスト」を見たため、当時売れっ子だったジョニー・デップの人気だけにおんぶしたお遊び作品かと思ったが、3作目「ワールドエンド」の中で、2作目で敷かれた伏線が生きてきたのを見てこの映画に対する評価がガラッと変わった。

レッドクリフも1作目はイマイチ動きも乏しく見え、別段感動するほどの後味は残らなかったが、今回ParIIを見て、1作目で物足りなかったものが満たされた。ただ、逆に作品の完成度からは1作目を見なくてもPartIIだけで楽しめる気もした。

 先日公開されたばかりのもう一つの中華圏・日本合作映画「DRAGONBALL EVOLUTION」は原作との乖離が日中両国で不評のようだ。

某ポータルサイトの映画欄のユーザー評価(5段階で5が最高)では、「DRAGONBALL EVOLUTION」が1.78に対して、「レッドクリフ PartI」が3.29、公開前の試写会などによる「レッドクリフ PartII ―未来への最終決戦―」は3.17といずれも大きく上回っている。(3月21日現在)

 興行的に興味があるのは、スターウォーズのような連作をつなげるやり方がこれほど短期間で、しかも2編しかない映画でどれほど成功するかだ。最近ではやはり日本の漫画を原作とする「20世紀少年」で試されている。

公開が楽しみだ。(文章:Kinta)

■プロフィール Kinta:大学で「中国」を専攻。1990年代、香港に4年間駐在。06年、アジアアートに関する大英博物館とロンドン大学のコラボによる postgraduateコース(1年間)を修了。08年「このごろチャイナ」を主体とした個人ブログ「キンタの大冒険」をスタート。

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