<コラム「巨象を探る」>日本はアジア外需取り込みへ総力結集を―「失われた20年」からの脱却の道

八牧浩行    2010年5月21日(金) 7時17分

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日本経済を「失われた20年」から脱却させるためには、アジア全体を自らの広義の市場ととらえ、その成長可能性を積極的に取り入れることが欠かせない。写真は中国の東芝広告。

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日本の国際競争力や1人あたりの国内総生産(GDP)は、1990年代初めには世界のトップクラスだったが、20年近く経った今ではともに20位台に低迷している。一方、中国、インドなどアジア諸国の経済はこの間に活性化し、世界の成長の中心に躍り出た。日本経済を「失われた20年」から脱却させるためには、アジア全体を自らの広義の市場ととらえ、その成長可能性を積極的に取り入れることが欠かせない。

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今年3月期の決算発表が出揃ったが、特に目立ったのが中国をはじめとする新興国向けの輸出が好調な自動車や電機メーカーの好業績。大半が1年前の業績予想を大幅に上回った。1年前に今年3月期連結最終損益を1700億円の赤字と見込んでいた日産自動車は、一転して423億円の黒字を達成。中国での販売台数が前年度より4割も増えたのがV字回復への原動力となった。同社は今後外需に照準を合わせ「世界の各地域に10を超える新車を投入する」と意気軒高だ。リコール問題に揺れたトヨタ自動車でも世界販売台数は予想を1割上回る723万台と上振れした。電機でも、東芝パナソニックが予想の赤字幅を大きく縮小させるなど、外需の取り込みに成功した企業の回復が際立った。

民主党政権は内需拡大を経済政策の目玉に据えているが、少子高齢化と人口減少が続くなかで、内需の活性化だけを目指した成長戦略には限界がある。マクロ経済全体で需給ギャップが30兆円にも達しデフレが慢性化、今年半ば以降には成長が減速するとの悲観論も根強い。ギリシャ危機に端を発した欧州経済の失速も暗い影を投げかけており、新興国外需の積極的な取り入れこそが浮揚の足がかりとなりうる。国連のアジア太平洋経済社会委員会は5月上旬、アジア・太平洋地域の経済成長率は2010年に7%と前年の4%から急拡大するとの見通しを発表。特に中国は9.5%、インドは8.3%と高成長を続け、地域経済をリードするという。報告書はアジア・太平洋地域の全経済体の長期的な発展のためには、先進国の保護主義に対抗するべく、地域内の貿易と消費を拡大させる必要があると指摘している。

アジア全体を自らの市場ととらえて、新興アジア経済の成長に多面的かつ積極的に協力し、そのシナジーを内需と雇用の拡大に結び付け日本経済を立て直すことが急務だ。日本の対アジア成長戦略を推進する上で不可欠なのは、自由貿易を促す経済連携協定(EPA)の締結。日本は現在、シンガポールや東南アジア諸国連合(ASEAN)など11カ国・地域とEPAを発効、署名済みだが、中国、韓国とのEPA交渉も早急に進める必要がある。日中韓3カ国の研究機関の共同研究によると、EPAが実現すれば、日本と中国、韓国のGDPはそれぞれ0.3%、0.4%、2.8%アップする。すでに韓国の李明博大統領は4月、中国との自由貿易協定(FTA)の検討を指示。電子製品などでライバル関係にある台湾が中国との経済協力で接近しつつあるため、対抗上、中国の内需取り込みを急ぐ狙いがある。欧米諸国もリーマン・ショック後の需要収縮を受け、アジア新興国の高い成長に熱い視線を送っており、この地域の経済発展をリードしてきた日本は「アジア特需」の取り込みに後れを取ってはならない。東アジア共同体構想を推進する政府は昨年末に打ち出した「成長戦略」のなかで、「アジア域内の自由貿易圏を構築し、ヒト・モノ・カネの流れを2倍にしてアジアの所得を倍増する」とうたっており、待ったなしの対応が望まれる。

ASEANプラス日中韓による共同体づくりを

アジア開発銀行研究所の河合正弘所長は「アジア全体を自らの市場ととらえ、新興アジア経済の成長に積極的に協力し、それをテコに日本経済を立て直していく発想が必要だ」とし、ASEANプラス日本、中国、韓国による共同体構想を推進するよう提唱している。産業界もアジア諸国との相互連携構想を後押ししており、桜井正光経済同友会代表幹事は「経済関係が緊密なアジア諸国・地域に技術革新の成果を積極的に供与し、事業活動を通じて各国の持続可能な発展に貢献することが必要だ」と強調している。(筆者・八牧浩行) <巨象を探る・その5>

<「巨象を探る」はジャーナリスト・八牧浩行(株式会社Record China社長)によるコラム記事。=Record China>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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