<コラム>日本人がイライラする中国のギリギリ文化、慣れるとかなり快適

浦上 早苗    2018年1月12日(金) 14時30分

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中国で、手帳を使っている中国人をあまり見たことがない。スマホが普及する前から。手帳を持っていたとしても、そんなに書き込むことがない。何でも直前にしか決まらないし、予定が当日にひっくり返ることがざらだからだ。写真は日本の手帳コーナー。筆者提供。

中国で、手帳を使っている中国人をあまり見たことがない。スマホが普及する前から。手帳を持っていたとしても、そんなに書き込むことがない。何でも直前にしか決まらないし、予定が当日にひっくり返ることがざらだからだ。

中国で暮らし始めて1年経ったころ、日本と中国の違いに気付いた。「○日は空いてる?飲み会があるんだけど」と声を掛けたとき、日本人はまず「予定を確認します」と言い、かなりの確率で「調整します」とも言う。手帳やスマホを見ずして「その日なら大丈夫ですよ」と答える人は多くない。予定が入っていないとしても「調整します」と言ったりする。「調整します」は「いただきます」くらいの決まり文句だ。

一方中国人に同じことを聞いたら、たいていの人は「行く」と即答する。たとえその日に別の予定が入ってても、聞かれたときにはしっかり覚えていないので「行く」と答え、当日になって、複数の予定から行きたいものに行く、という感じだ。

日本のある国立大学が、中国・大連市で入学説明会を開いたときのこと。チラシには「参加者はメールで申し込みを」と記載したが、前日になっても申込者は2人のみ。担当者は不安になって私に、「大丈夫かな?今から知り合いに声かけられない?」と相談してきたが、私は「事前に申し込みをするという概念がこっちはあまりないですから。だいたい、申し込みしても来るとは限らないですよ」と答えた。そして当日、会場には60人がやって来た。

突然の予定変更、ドタキャンの思い出を語り始めたら、スペースがいくらあっても足りないし、笑い話で済まないこともある。

息子の通う小学校の終業式が直前まで分からないのは、毎年本当に困った。私たち母子は長期休暇の度に帰国しており、飛行機のチケットはなるだけ早く予約したい。しかし教師や保護者に「いつから冬休み?」と聞いても、ほぼ全員が「だいたい…」と推測として話す。保護者夫婦の予測が割れることすらある。息子が日本に完全帰国する年は、終業式でお別れ会をしてくれるというので、日にちが決まるまでチケットの予約を待った。にもかかわらず、終業式前日に、教師からメッセージ。「外部の研修と重なるので、終業式は2日後にずらします」。なぜぎりぎりまで気づかないのだろうか。結局その年、息子は終業式に出ず帰国した。

私の両親が3カ月間遊びに来た時は、短期の部屋を借りたのだが、親が来る2週間前に不動産屋に行ったら「探すのが早すぎる。一週間前にまた来てくれ」と追い返された。日本に住む両親にしてみれば、旅行一週間前になっても滞在場所が分からないのは想像がつかない。「大丈夫か」と何度も聞かれ、自分も心配だったが、3日前で何とかなった。

中国は一事が万事そんな感じだ。大学で言えば期末テストのような重要イベントは3週間ほど前に決まるものの、小学校の運動会なら3日前、大学の運動会は当日にならないと自分の出る種目が分からないし、予定通りに進まないと、途中の競技がいくつかカットされたりする。教員の集合写真撮影の連絡が来るのは前日。それでも不思議なことに、みんなちゃんと参加する。予定がかぶったら、最も重要なものに行き、ほかはドタキャンすればいい。そうやって社会が回っているのだから、誰も何も言わない。

2週間前に約束をしても、半々くらいの確率で忘れられる。だから私も、予定が決まっていても、ぎりぎりにしか連絡しなくなった。みんな手帳につけたりしないのだから。

この、何事もぎりぎりにしか動かない文化。日本人にとってはとてもいらいらするが、ドタキャン自由に慣れるとかなり快適で、いつの間にか私も手帳を使うのをやめた。当然ながら、2016年に帰国した後は、日本のリズムに合わせられず苦労しているが…。

2017年秋は、日本の小学生用の英語教科書作成の仕事で、中国に行くことになった。航空券を予約して、以前の勤務先である大学の同僚に連絡すると、主任からメッセージが来た。「来るならうちで講義やらない?そしたらゲスト講師扱いで、航空券代とホテル代を負担できるから」。指定された日にちは一週間後。慌ててパワーポイントをつくり、4年生50人向けに90分授業を実施した。

学生たちは将来、日本と関わりのある仕事をする可能性が高い。講義の冒頭、私は学生たちに聞いた。「みんな、この講義があると知らされたのはいつ?」前の席の学生が「おととい」と答える。

私は彼らに言った。「私も、一週間前に大学に講義をしてと頼まれたんだけど、中国に来た本来の用事は2020年度に出版される日本の教科書の取材なの。日本と中国の時間軸はそれくらい違う。先輩たちの多くが、日本に留学して就職活動をしようとするけど、腰を上げたときにはエントリーがほとんど終わってるの。戦わずして負けることにならないよう、日本では早すぎるくらい早く動いてね」。

2017年は手帳を使わずに通した私も、2018年は手帳を買った。手帳が必要なほど忙しくなってきたことが、半分嬉しくもあり、寂しくもある。

■筆者プロフィール:浦上早苗

大卒後、地方新聞社に12年半勤務。国費留学生として中国・大連に留学し、少数民族中心の大学で日本語講師に。並行して、中国語、英語のメディア・ニュース翻訳に従事。日本人役としての映画出演やマナー講師の経験も持つ。

■筆者プロフィール:浦上 早苗

1974年生まれ、福岡市出身。早稲田大学政治経済学部卒業、九州大学大学院経済学府修了。大卒後、地方新聞社に12年半勤務。その後息子を連れ、国費留学生として大連に博士課程留学…するも、修了の見通しが立たず、少数民族中心の大学で日本語講師に。並行して、中国語、英語のニュース翻訳に従事。頼まれて映画に日本人役として出たり、マナー講師をしてみたり、中国人社会の中で、「日本人ならできるだろ」という無茶な依頼に、怒ったりあきれたりしながら付き合っています。マスコミ業界の片隅に身を置いている経験から、日米中のマスから見た中国社会と、私の小さな目から見たそれの違いを少しでもお伝えできれば幸いです。

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