八牧浩行 2010年7月28日(水) 6時27分
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安斎隆セブン銀行会長はインタビューに応じ、「世界各国との間の水平分業の枠組みに日本も中国も入っていたことが大きな成長をもたらした」と指摘。「保護主義やナショナリズムを排して経済交流を促進すればさらなる平和的発展につながる」と強調した。
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―オバマ米大統領もバイ・アメリカンを主張しています。
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いかに全世界的に保護主義を招かないようにするかが重要だ。「官」が一緒になって新幹線を売るとか、産業育成はいいが、売り込みが過ぎ国家の補償をつけるなど拡大すると保護主義に陥ってしまう。日本も中国も同じで、そうならないようにしなければならない。今、世界の成長ポテンシャルはアジアにあり世界をリードしている。特に中国は1800年代、今から200年前の強力だった時代に戻るのですよ。
産業革命以降の空白の時代を今、取り戻している。(中国の発展は)驚くことでもないし、脅威に感じることでもない。ただ技術革新と分業、そして開放が大きな要因であることを忘れてはいけない。技術革新は何かというと、先進諸国の技術開発を受け入れると、それを訓練する期間が極めて短い中で自国の技術として習熟可能となる革新である。現在の技術はそこまで進歩している。だから時間を節約できる、労働者が勉強する期間が短くて済む。一週間訓練すると誰でもミシン機械で背広が作れるようになる。自動車も皆そうだ。開放体制下で技術革新の恩恵を受ける。自分が世界に依拠しており、製品を購入してくれるところがあるから成長する。このパターンは完成品だけでない。部品もあるから国際分業体制のなかで発展していく。
―経済を基軸に国際分業すれば、平和を実現できますか?
逆に鉄砲の弾をいくら作っても国民の福祉厚生は増えないです。もちろん経済だけでも無理で、平和を維持する努力が大切だが、経済の共存体制が深化しているから(軍事支出も)これくらいで済んでいる。経済関係が危うければもっと大変なことになる。より平和でなければ経済も発展しないということ。情報化が進展しているが、そのことで逆に中国国内では緊張も高まっている。平和を希求する努力は政府、官はもちろんだが、民間もただ儲けることだけが仕事ではない。国民レベルでも友好的な気分が醸成される努力が必要であるが、必ずしも世論調査ではそういう結果になっていない。日本でも中国人観光客が増えてくると町が汚れるのでけしからん等の感情論も出始めている。
―日本の企業も観光地も中国関連事業で息をつないでいますね。
2000年代半ばに景気が良くなった要因は「小泉・竹中」流の改革ではなく、中国をはじめとするアジア新興国の存在が大きかった。今も同じパターンだ。
―中国、アジアの大きな土俵を取り込むことですね。東京・北京フォーラムの役割は大きいと思います。
2006年に安倍さん(元首相)をフォーラムに呼んだら両国関係が大きく変わった。為政者の動きは大切です。自分たちの考えをねじ曲げるということではない。国民の生活がそういう関係にあるということをいつでも念頭に置いて発言しなければならない。
―その点、米国と中国は一貫して大人の関係が続いていますね。
人民元問題も含めそう思う。日本はマスコミも含め危ういところがある。中国人に別荘を購入されるとゴミを出してもらえないとか、汚いとか言って問題視するところがある。嫌な気持ちをことさらかきたてている。感情に訴えて何になるのか、来てもらわなくていいのか、ということになる。日本人はバブルの最中に旗を立てながら観光に行くなど、ひんしゅくを買い、アジア諸国でも軽蔑されていた。日本の旅行者は(来てくれて)ありがたいと言われたのは2000年ぐらいになってからですよ。それまでは海外に行っても漬物はないのかとわめいてみたり、我々日本人も同じだった。新興国は必ずそういう道をたどってガラッと変わってくる。例えばオリンピックは民度を上げる。新幹線ができたのも東京オリンピックがきっかけ。下水道だって、環状7号線内の新宿などは前はくみ取りだった。外国からあんな国は汚いといわれた。韓国だって犬を食べるのをやめた。民度は国際化で触れ合うことで上がる。北京でも上海でも痰をはかなくなったし、ゴミ出しのルールも同じ。相手を受け入れて、その中で環境を保つにはどうしたらいいかを考えるべきだ。
―共存共栄の道を追求することが大事ですね。
人口減少の国の内需を補うために必要な方法だということ。人口減少の大変さを認識して、そこから考えていかないと。中国はこれから人口のピークを迎える。遠からず中国も同じ自覚を持ってもらわなければ困ります。
―海外進出や国際分業が進み、国境という概念は企業経営者の間ではなくなりつつあるようです。
そうですよね、日本の会社も皆、国際化してしまっている。だから世界中が苦しさの余り自分の国のことだけを考えたら保護主義になる。保護主義が高じたら世界経済が委縮してしまう。環境面でも先進国、新興国すべてが努力する必要があります。21世紀は大変な100年、しかし既に最初の10年が終わろうとしている。
―これほどの急激なグローバル化は初めての経験ですね。
ソ連の崩壊などによるグローバル化の進展でモノが安く入ってきた。日本は余剰資金をため込むので通貨価値が落ちない。通貨を供給してもインフレにはならないという議論がある。閉鎖経済、一国経済ならそうだが、交換性の下ではそういうことではない。巨額の債務残高を放置し子孫につけを残すのは問題との考えが、ギリシャ危機を契機に出てきた。国債が国内で消化されているので大丈夫というのはまやかし。他の国の需要も活用して経済成長を実現することが必要だ。
―日本では若者は閉塞感に陥っていますね。
それにしても余りにも夢のない若い世代が増えている。格差拡大などから閉塞感が広がり、はけ口を求める傾向にある。政治家やメディアがことさら煽り、これを利用するようなことになってはならない。若い人の閉塞感は大きな問題だが、まずそういう世界の中でどうしたら所得を上げられるかを優先する必要がある。ただしばらまきという方法ではなく所得を上げる必要がある。
―日本的経営も強さの源泉だった。今は将来安心できない。
中間所得層以下が先細りになってしまっている。技術革新は人間の本能で、これをうまく使えば数か月で良質なものができる。よりよいものをより簡単に作れるようになる。人間の本能なので抑えるわけにいかない。物を生むことによって所得が上がる。妬みそねみで文句を言うことのないよう、物を生む、新しい価値を創造する世界に若者たちを引きずり込んでいくことができるかどうかがカギとなる。例えば言葉も必要です。日本での中国人観光客相手のバスガイドなども中国人が通訳しているがこれではだめ。日本人が自分たちでやってのける意欲が必要だ。医療も向こうから来てもらうのに中国人通訳が付いてくるのではだめ。こっちで通訳しながらやる必要がある。
―日本が来た道をずっとたどっているような人民元問題、所得倍増論は歴史の必然ですか?
内需中心の経済は企業側からすると大変です。賃上げが起きるということは競争力が落ちるということです。しかし購買力が増え内需が増えることは間違いない。人民元の過剰な上昇を抑え、均衡をもたらす。中央政府はそのくらいに考えている。あまり介入しすぎるのはよくないと思っているかもしれない。それでも農民工は低い労働条件に耐えられない。日本の賃金もかつて急上昇した。その後円高、バブルの時代に日本は金融緩和により、利子所得が増えず内需拡大にもつながらなかった。中国は日本の失敗を見ている。(経済変動は)人類の宿命であり、技術交流などで乗り越えなければならない。
―今、必要なのは?
両国民がお互いに何を思っているか披歴しあうこと。まずはお互いに理解し合うことが何より重要。そしてそれが国民感情の面まで、良くなっていくためにはわれわれ民間だけの努力では困難で、マスコミも政府も含めてそのような関係になるよう主張し合い、理解し合うことが重要だ。(聞き手 Record China社長 八牧浩行)
●略歴
1963年東北大学法学部卒業、日本銀行入行。香港駐在、新潟支店長のほか、電算情報局、経営管理局、考査局の各局長を経て、94年理事に就任。98年11月日本長期信用銀行頭取就任。01年4月アイワイバンク銀行(現・セブン銀行)社長に就任。10年6月代表取締役会長に就任。福島県出身69歳。
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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