八牧浩行 2010年12月24日(金) 16時38分
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日本政府は2010年に「訪日外国人1000万人」を目標としていたが、日中関係の悪化で中国人旅行者が秋以降激減。目標達成は絶望的だが、中国人観光客数が回復するとの見通しもあり、関連業界は「春節」以降の反転攻勢に賭けている。写真は東京都心。
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観光立国は日本の成長戦略の大きな目玉。2010年に「訪日外国人1000万人」を目標としていたが、日中関係の悪化で中国人旅行者が秋以降激減、目標達成は絶望的だ。各地の観光ホテルやデパート、商店街などは目算が狂い苦渋の表情だが、日中関係の落ち着きとともに、中国人観光客数が回復するとの見通しもあり、「2011年2月の春節(旧正月)は期待できそう」(銀座のデパート)など今後の反転攻勢に賭けている。
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2010年夏までうなぎ登りで増加していた訪日中国人は9月の尖閣諸島問題を契機に様変わり。10月に減少に転じたのに続いて、11月も前年同月比15.9%減の6万8500人と失速した。1〜11月累計の外国人旅行者は796万3300人で、12月を加えても政府目標の1000万人到達は不可能だ。
日本政府は7月に中国人向けの個人観光ビザの発給要件を緩和。8月の中国人旅行者は前年同月の1.6倍の17万人超に達した。ところが、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件が発生すると、日本向けツアーの中止などが相次ぎ、「中国人特需」がはじけた格好となった。
◇「皮算用」狂い、目標達成は絶望的
日本政府の2010年の「訪日外国人1000万人」との目標は、2007年に「観光立国推進基本計画」として閣議決定、観光庁まで新設して力を入れた。民主党政権もこの計画を引き継いだ上で、2010年6月に策定した新成長戦略に「訪日外国人を2020年に3000万人」との新たな目標も盛り込んだ。羽田空港の国際化に巨費を投じたのもこの戦略の一環だ。
ホテル、商店など観光関連業者は大きな期待を寄せているが、2009年の訪日外国人観光客はわずか679万人にとどまり、08年から増加したのは中国だけ。リーマンショックやギリシャ危機の影響で米国や欧州からの観光客は多くを望めない。2010年も900万人前後にとどまりそう。政府目標に合わせて設備投資や人員増強してきたホテルや商店は皮算用が狂い悲鳴を上げている。
訪日中国人は秋の失速にもかかわらず、2010年1〜11月の累計で前年同期比43.4%増の135万2700人と国別で最も高い伸びを記録。大手ホテルチェーンでは中国人旅行者について「予約に復調の兆しが出ており、2月の中国春節以降は期待できる」と胸を膨らます。観光庁の溝畑宏長官は、「11月から宣伝を本格化しており、積極的に取り組みたい」と語っている。
日本の10倍の13億の人口を擁する中国では富裕層、中間層が急拡大し、個人は貯蓄より消費を優先する。当然、世界観光や買い物への関心は高まる一方。世界各国への中国人旅行者数は年間4765万人(2009年)に達し、2010年には5400万人、2010年代半ばには1億人を超えるとの予測もある。このうち、訪日旅行者の比率(2008年統計)は2.2%(約100万人)にすぎず、韓国の19.0%や台湾の16.4%には遠く及ばない。両国はビザなし入国も一部認めている。言い換えれば、隣に住む中国人の訪日には大きな潜在的需要が期待できるわけで、これを取り込めれば、日本の「観光立国」も夢ではない。
◇日本の観光地をもっと売り込め
少子高齢化や長期不況などにより日本人客の減少に悩む日本各地の観光リゾートは中国人観光客の誘致に懸命。多くのホテル、旅館、デパート、専門店は、中国語のできるスタッフを雇ったり、中国人仕様に模様替えしたり、あの手この手の対応策を実施。北海道や静岡・伊豆の有名ホテルの中には8割が中国人客というところもある。人民元が上昇傾向にあることもあって、買い物目的で海外へ出かける中国人観光客も多く、中国人観光客は1人当たり約30万円とほかの外国人の倍以上の買物をするという。
大阪→京都→ 富士山→箱根→東京と周り、 銀座・秋葉原などで買い物をして帰国するパターンが目下のゴールデンルートで、中国の人気テレビドラマの舞台となった北海道も人気がある。さらには日本各地の良さを探訪したいという人も増え、東北、北陸や九州なども旅行先として有望だ。温泉、火山、桜、紅葉、雪など日本の観光資源は数多い。明治時代の美術家、岡倉天心が言ったように「日本はアジア文化の貯蔵庫」であり、中国にゆかりを持つ地方の名所・旧跡も散在しており、歴史を系統化して売り込んだら魅力的なスポットになるだろう。さらには地元の病院と連携した医療ツーリズムも大きな可能性を秘めている。
世界の国別国際観光動向(2009年)を見ると、来訪外国人数の1位はフランスの7400万人。米国、スペイン、中国と続き、日本はマカオや韓国にも遠く及ばない33位だった。外国人の観光客を呼び込むために、官民挙げて、受け入れ態勢整備と日本の観光地の魅力をアピールするための対外発信が必要だ。<巨象を探る・その8>
<「巨象を探る」はジャーナリスト・八牧浩行(株式会社Record China社長)によるコラム記事。=Record China>
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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