大串 富史 2018年1月25日(木) 19時50分
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男子卓球の張本智和くんの「チョレイ!」に野球評論家の張本勲氏がTBS系「サンデーモーニング」で苦言を呈したと聞いて、正直、ただただやるせない。資料写真。
男子卓球の張本智和くんの「チョレイ!」に野球評論家の張本勲氏がTBS系「サンデーモーニング」で苦言を呈したと聞いて、正直、ただただやるせない。
何がそんなにやるせないのかというと、張本勲氏のことを思い、張本智和くんの中国籍のお父さんお母さんのことを思い、張本智和くんのような日本籍を取得した人たちや日本で生活する外国人の友人たちを思い、そして海外で生まれ育つ日本籍のすべての子供たちのことを思うと、である。
というのも、張本勲氏が在日韓国人二世であることは有名である。だから、日本人が声を上げたのではない。在日の愛すべき友人が「日本では、日本人であれば、日本で生活するのであれば、まして日本で一流のアスリートになりたいのであれば」と声を上げた。僕はこれを、張本勲氏自身の人生における無言の重圧の一種の発露と見ている。
平たく言えば、日本とは、日本人とは、日本での生活とは、外国人からすればいささか窮屈であって、まして「チョレイ!」など許されようハズがないというわけだ。
それで張本勲氏が「日本にいてそんなことじゃダメだ」と呻く(うめく)。これを「いや子どものすることじゃないですか」といさめる日本人もいるとは思うが、その人たちのうち一体どれだけの人が、上述の“無言の重圧”の程度を理解しているだろうか。
張本智和くんの「チョレイ!」に話を戻すと、「いや中国の選手でもあんな掛け声は出さない」との異論は、「いや中国ではあの程度のやかましさは普通なんで、掛け声そのものの必然性がないんです」とお知らせしたい。中国を、中国人を本当に知る人たちは、彼らのやかましさの程度というものを知っている。日本人からすると、いわば毎日がお祭りである。
だから彼らからすると、日本は、日本人は、あまりに静かなのだ。正直、静か過ぎる。
そんな静かな日本また日本人に合わせるようにとの“無言の重圧”は、おのずと反作用を引き起こすのではなかろうか。「チョレイ!」もまたしかり、と僕は見る。
別の要素もある。報道によると「雄たけびは、父・宇(ゆう)さん(47)との“約束”でもある。この天才少年は「とても恥ずかしがり屋で自分を出さない性格」だという。コーチでもある父は、「勝負に向かうときに大切なのは精神力。そのためには、まず自分から元気な声を出すこと」と指導した。「声を出すと自然と元気が出る。自信も出るし積極的になれる。持っている力を出すことができる」という思いがあったという。
まったくもって道理である。彼らは日本人らしい日本人になる道ではなく、世界に通用する(より正確には、卓球王国・中国の選手と肩を並べて競り勝つ)真のアスリートとなる道を選んだ。であれば、その道を行かせてあげればいい、などと僕はつらつら思う。
とはいえ恐らくなのだが、張本智和くんも中国の選手と肩を並べて金メダルを目指し本当に競り合うころには「雄たけび」が自然となくなっていくのではなかろうか。中国卓球の金メダリストらは、それほどまでに競技に集中し動体視力を極限まで駆使して初めて金メダルに至る。「雄たけび」など上げているヒマはないのだ。
まあ張本智和くんはまだ14歳で、「とても恥ずかしがり屋で自分を出さない性格」で、年齢やキャリアが格上の選手と戦わざるを得ないプレッシャーと、それに加えてあの“無言の重圧”があるから、まあ、今のところはあんな感じなんだと思った。
それで、もしかすると今回張本智和くんに敗れた日本卓球界のホープである水谷隼選手よろしく、張本智和くん自身も十数年後に十数歳下の格下だと思っていた対戦相手の「子ども」が「チョレイ!」と雄たけびを上げつつどんどんとセットを取っていくその時には、きっと「チョレイ!」どころではなかろう、ふふふふ…などとも思ったりする。
ちなみに中国人である僕の妻にあの「チョレイ!」は中国語なのかと聞いたところ、やはりそうではないという答え。「サー」と同じく全く意味のない掛け声なのであるから、観客に過ぎない日本人である我々は、まああまり気にしないのが精神衛生上宜しかろう。
そして中国籍と日本籍とを持つ僕の4歳になる娘について言えば、中国にいる今は文字通り中国人、将来日本に帰ったら帰ったで「静かな」日本人であってくれればと思う。僕からすれば、これもまた道理ではないか。
一抹の不安は、将来娘が通訳等の仕事で流暢な日本語をしゃべり、同時に母語である中国語を普通に話す時、相手にとことん合わせてなり切るカメレオンなサービスをしているにもかかわらず、日中双方の一部の人からイソップ童話のコウモリのようにみなされてしまうことだ。
つまり、娘が張本勲氏のように相手にとことん合わせてなり切ったとしても、「あんたは日本人(中国人)じゃない」などと理由にならない理由で相手に拒否されてしまうという恐れは残るのである。
そう考えると、今回の「チョレイ!」叩きは日本と日本人の特異性を如実に映し出してはいるものの、まだそれほど深刻ではないのかもしれない。だから僕は、張本智和くんが「チョレイ!」を封印した後に、もっとやるせないことが何もないようにと願ってやまない。
■筆者プロフィール:大串富史
本業はITなんでも屋なフリーライター。各種メディアでゴーストライターをするかたわら、中国・北京に8年間滞在。中国人の妻の助けと支えのもと新HSK6級を取得後は、共にネット留学を旨とする「長城中国語」にて中国語また日本語を教えつつ日中中日翻訳にもたずさわる。中国・中国人・中国語学習・中国ビジネスの真相を日本に紹介するコラムを執筆中。
■筆者プロフィール:大串 富史
本業はITなんでも屋なフリーライター。各種メディアでゴーストライターをするかたわら、中国・北京に8年間、中国・青島に3年間滞在。中国人の妻の助けと支えのもと新HSK6級を取得後は、共にネット留学を旨とする「長城中国語」にて中国語また日本語を教えつつ日中中日翻訳にもたずさわる。中国・中国人・中国語学習・中国ビジネスの真相を日本に紹介するコラムを執筆中。関連サイト「長城中国語」はこちら
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