「つまらない」と思っていた日本人の先生の言葉に、胸がじんとした―中国人学生

日本僑報社    2018年1月28日(日) 14時10分

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付き合っていくうちに人の印象が変わっていくことはよくあるが、日本語を学ぶ東北大学秦皇島分校の李慧玲さんのその相手は日本語の先生だった。資料写真。

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付き合っていくうちに人の印象が変わっていくことはよくあるが、日本語を学ぶ東北大学秦皇島分校の李慧玲さんのその相手は日本語の先生だった。最初は「つまらない」としか感じなかった先生に対して、いつしか敬慕の念を抱くようになっていったその過程について、作文に次のようにつづっている。

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「ほら、あの音、聞こえる?濱田って日本人の先生の足音だよ。いつも同じ靴。きっと寝るときも履いたままだよ、あの万年靴」「えー?本当ですか?」先輩と私がひそひそ話している。廊下は先生の足音と私たちの笑い声が響いている。新入生の私は濱田先生の授業がないから3つだけ覚えた。「濱田なんとか先生」、「日本人」、そしてあの「万年靴」。

あの足音が聞こえて廊下ですれ違う。そんな繰り返しが始まった。万年靴とワイシャツにネクタイ、ジャケット、たまにニットベスト。秋も冬も春も、色が変わるだけ。いっつもおんなじ恰好。あーあ、平凡でつまんない。私は平凡な服装なんて耐えられない。毎日自分のスタイルで着飾る。自分も家族も友達も認めるほど、おしゃれが好き。でも、なぜだろう。鏡に映った私がふと着せ替え人形に見えた。私の外側をいくら着飾っても、私の内側が変わらないままだからかな。疑い始めた途端、怖くなった。私の20歳、深い霧に包まれた。

春が終わる頃、学内の日本語スピーチコンテストに参加した。ただ何かを変えたかった。霧の中にいたくなかった。緊張のためか、スピーチした自分は思い出せない。ホッとして席に戻るとき、真っ赤な顔で審査員の濱田先生に挨拶した。「先生、おはようございます」。すると、先生は微笑んである言葉をかけてくれた。「あれっ?朝鮮語?」混乱した頭とは裏腹に、私の胸がじんとしていた。朝鮮族の私には聞き慣れた言葉で「よくできたよ」と言ってもらえたから。

2年生になって、待ち望んだ先生の授業が始まった。授業は平凡ではなかった。いつも豪快な笑い声とユーモラスな効果音で包まれていたし、情熱が伝わってきた。先生も授業を受ける私たちも輝いていた。初めて先生が直してくれた作文は今も忘れられない。助詞一つ、単語一つ、どんなに些細な間違いにも丁寧な解説があった。解説は元の作文の倍はある。今も先生の課題が一番好きだ。互いの情熱をともにぶつけることができるから。

最近も「好きな歌詞のレトリック分析」という課題があった。私はaiko さんの大ファンで、中でも「カブトムシ」という恋の歌に魅了されていた。でも、歌詞の分析は、その歌詞の言葉のようには甘くはなかった。単語を辞書でひいても隠された意味やリズムまでは伝わらない。母語に頼らず日本語のままで考えなければいけなかった。逆に単語や修辞を意識しすぎると、歌詞の構成やつながりが見えなくなる。難しくて時間がかかる課題だったが、考えれば考えるほど引き込まれていく不思議な魅力があった。きっとやりとげてみせる。先生に認められるため、自分の情熱を形にするため。

3日後に、やっと完成した。すぐ提出した。届いた先生のチェック。「難しいのによく頑張った」という最初の言葉。数日間の努力を見守ってくれていたかのような安心感があった。「僕も、この解釈に賛成です」「僕の解釈は少しだけ違っています」、先生の丁寧なコメントが続いていた。一つの単語の意味からレベルの高い分析まで、それには先生の専門知識、真心、情熱が込められていた。読み進めるごとにわくわくした。読み返すたびに感心した。

先生の学生になることができて、本当によかった。つまらないと思っていた先生が、私たちの大学生活を特別なものにしてくれた。平凡に思えた先生が、欠かせない特別な存在になった。霧が晴れ、光が差し込んだとき、どこかから先生の足音が聞こえた。早く駆けつけて挨拶しなきゃ。「先生、いつもありがとうございます」と。(編集/北田

※本文は、第十二回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「訪日中国人『爆買い』以外にできること」(段躍中編、日本僑報社、2016年)より、李慧玲さん(東北大学秦皇島分校)の作品「先生と万年靴と私」を編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。

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