<コラム>北朝鮮、新年の辞の代わりに全体会議のサマリーを発表

木口 政樹    2020年1月2日(木) 18時20分

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金正恩国務委員長の2020年新年の辞が元日の午前9時ごろに発表になるだろうと多くのマスコミが予想していたが、9時にはなにもなく、結局は今年2020年は北朝鮮の新年の辞はなかった。写真は北朝鮮。

朝鮮半島情勢は、また緊迫したものとなっている。北の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の2020年新年の辞が元日の午前9時ごろに発表になるだろうと多くのマスコミが予想していたが、9時にはなにもなく、結局は今年2020年は北朝鮮の新年の辞はなかった。労働新聞に新年のメッセージが掲載されないのは、金正恩氏が国務委員長のポストになって権力を掌握した2013年以降、今年が初めてのこととなる。

1月1日、普段より1時間早い午前8時から正規放送を開始した朝鮮中央TVも、例年と違って「新年の辞の予告」放送をしなかった。 2016年と2017年の1月1日には「正午」に肉声で新年の挨拶を放送したことを除けば、金正恩政権後、毎年午前8時45分に北朝鮮マスコミが新年の辞の放送を予告し、午前9時に金正恩氏の肉声で新年の挨拶を流したものだ。このような流れは、同政権の2013年からずっと継続してきているもので、通常の録画中継が終わった直後、労働新聞に全文が掲載された状態で発行されてきていた。

権力闘争などの影響で、新年の辞の発表を欠いた年はあるものの、金日成(キム・イルソン)主席からはじまり、金正日(キム・ジョンイル)国防委員長を経て金正恩委員長に至るまで、ほぼ毎年最高指導者の新年の辞が発表されてきた。金日成主席がほとんどすべての新年の辞を肉声で発表したとするなら、金正日委員長は1995年から死亡直前の2011年までに新年の辞を、労働新聞と青年前衛、朝鮮人民軍3紙共同の社説の形で掲載した。

金正恩氏は、祖父にならって毎年肉声で新年の挨拶を発表してきた。昨年の場合、複数のマイクが置かれた壇上の上ではなく書斎を連想させる部屋のソファーに座って新年の辞を朗読する破格の演出で注目を浴びた経緯もある。

北朝鮮で最高指導者の新年の辞は、新年の分野別課題を提示し、通常は、対内政策、対南メッセージ、対外政策などの順で構成され、新年の辞で提示された課題は、北朝鮮では必ず執行しなければならない掟のようなもの。絶対的な指針とされる。

金正恩国務委員長が2020年1月1日、新年の辞の代わりとして発表した労働党中央委員会全員会議のサマリーにおいて、対南メッセージは一つもなかった。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が2018年に三度の首脳会談を通じて韓半島平和プロセスに力を注いだわけだが、金正恩氏は、非核化交渉はもちろん南北交流においても韓国をハナから無視する段階に差し掛かっているという分析が出ている。

新年の辞を肉声で発表しなかったということは、多少、米や韓国に対して譲歩した態度と見ることができるかもしれない。はたして大向こうを敵に回しながら、北がいかなる態度で2020年を始めるのか。金正恩氏は、4日間の全体会議のサマリーにおいて、「遠からずすぐに朝鮮民主主義人民共和国が保有するようになる新しい戦略兵器を目撃することになるだろう」とも語った。この新戦略兵器とは、おそらく戦略潜水艦のことではないかと考えられている。米が一番嫌うものだ。トランプ大統領は、2019年2月のハノイ会談での「非核化」署名を最後まで信じていると北に対して圧をかけている。朝鮮半島情勢、今年もまた北の動向が第一の関心事となりそうな雰囲気である。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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