<中国ビジネス「時流自在」2>■パクリ問題(2)■iPad騒動の教訓

Record China    2012年4月19日(木) 8時8分

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米国アップル社の「中国iPad商標登録騒動」。ア社は対価を支払って商標権を台湾企業グループから譲り受けたが、中国本土の関連子会社だけが何故か外されてしまい、独自に米アップル社と争うことになった。写真は中国で販売されているパクリ版「iPad」。

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最近、日本のテレビや新聞、ネット上などを騒がせている、米国アップル社の「中国iPad商標登録騒動」…。コトの発端はもともと2000年に某台湾製パソコンに、たまたま「iPad」という名前が商標登録されたことから始まる。その後、米アップル社の携帯タブレットPC端末iPadが発売されたものの、台湾企業による同一名商標をめぐって、まずイギリスで争いが起き、アップル社が敗訴。その結果、アップル社は対価を支払って商標権を台湾企業グループから譲り受けることになったが、中国本土の関連子会社だけが何故か外されてしまい、今回独自に米アップル社と争うことになった、という経緯である。

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昨年、アップル社は広東省内の地方裁判所に「iPad商標権は自社のもの」と認めるよう訴訟を起こしたが、被告側中国企業の当初の商標登録手続きに落ち度は無かったとして昨年12月に敗訴。他方、中国側は一審での勝訴を受けて、逆に中国各地でアップル社によるiPad販売差止を求める訴訟を起こし、中国税関当局にも輸入差止め措置を申請。そして今年2月末に広東省恵州市裁判所でiPad販売停止命令が出てしまったこともあり、アップル社は広東省の上級裁判所に上訴した。中国の裁判は二審制で、商標登録を巡る行政訴訟はこれが最終判決となるが、現在その成り行きが世界中から注目されている。

 

このiPad騒動は、よくあるコピー被害、情報漏えい、商標盗用とは違って「合法的な」問題、つまり「先願主義」の弊害と言い変えることもできる。「先願主義」とは、先に出願したものに合法的に特許、商標権を与えるという原則で、「発明主義」を採用している米国を除き、世界中で最も一般的に採用されている方式。実は日本でも北海道の「ホワイトドーム」と「札幌ドーム」など同種の問題が存在するが、今回の「iPad」商標名の偶然の一致も、まさに「宝くじに当ったようなもの」と言えるだろう。したがって、中国の裁判所によるアップル社敗訴判決も、法令と国際慣例に沿った正当なものと言えるが、中国特有の問題として、以下の二点が挙げられると思う。

(1)先願主義にかかわらず、パリ条約等国際慣例では「著名商標」は未登録でも例外的に保護される取り決めとなっているが、世界的に著名な米アップル社iPadの名前すら、中国では「著名(馳名)商標」として保護されなかった。つまり、「中国内で著名かどうか」が基準であり、世界標準になっていない。

(2)中国には確信犯的事例が多いこと。中国メディアによると、この騒動の最中、中国では「aPad」から「zPad」までが商標登録申請され、同じ米アップル社携帯電話iPhone(アイフォン)と同名の照明器具(懐中電灯)や加湿機などの商標名も登録申請されているという。申請広告後3ヵ月以内に異議申し立てが無ければ、そのまま誰でも商標登録できてしまうことも原因であるが、これは明らかに高額な商標使用料・商標権買取料(iPad商標は数百億元を要求されているという)が目的と見られる。

実は、この二点目が大きな問題なのである。たとえば山口、香川、佐賀、富山、福井、愛知、青森、讃岐、静岡、鹿児島など日本の36地域名も、こしひかり、ひとめぼれ、松阪牛、有田焼などの固有名詞もすでに中国で商標登録(あるいは申請)されている。日本から抗議、異議申立て、登録取消を巡る行政氏訴訟、損害賠償の民事訴訟を起こしても、賠償金は僅少で、すぐに他でも登録申請され、「イタチごっこ」となっているのが現実。

ipad騒動とよく似た日本の事例で有名な「クレヨンしんちゃん」騒動がある。これは版元の双葉社ホームページにも詳しく記載されているが、本家本元の日本の著者・出版社が中国の同名商標登録をめぐる中国の行政訴訟で二審とも敗訴してしまい、本家本元が中国で同名商品の販売停止処分となってしまったものである。しかしその後、損害賠償を巡る民事訴訟では日本側が勝訴し、今年に入ってから、中国側の商標権者が三年間にわたって同名商標権を行使していないという理由で中国の裁判所から商標登録を取り消されている。

 

実はiPad騒動でも、中国最大の都市、上海市裁判所からは販売停止命令が出ず、据え置きとなっている。また、つい最近になって広東の中国側が経営難のため破産手続きに入る見通しと報道された。つまり、今回の騒動は、もともと経営破たんしていた中国側メーカーが、「宝くじ」当選を狙って仕掛けた起死回生の訴訟だったという見方も出来るだろう。しかし、いずれにせよ中国側が破産手続きに入ってしまえば、世界が注目するiPad商標裁判はここで和解解決してしまう可能性も高くなってきた。

このように、商標問題はいったん発生すると多くの時間と労力、費用がかかってしまう。「先願主義」の弊害を巡る騒動に徐々に明るい兆しは見えてきたものの、現実には仏「エルメス」類似商標に対する仏本社からの取消抗議が中国の裁判所で敗訴、また、米NBAのマイケルジョーダン氏の名前、写真が勝手に中国商品に使用され、同氏から抗議中、仏の著名ワイン類似商標が裁判で敗訴しても堂々と中国市場で売られ続けているなど、レコチャ「パクリ」特集でも連日報道されているように、中国市場の現場で「浜の真砂」は尽きることが無い。

中国消費者協会2011年クレーム統計を見ても、2010年の全国ニセモノ被害クレーム数は9062件(前年比1.5%増)、今年3月15日の「消費者権益保護デー」では化粧品分野を重点にニセモノ被害の取り締まり等のコピー被害撲滅キャンペーンも進められているが、中国の消費者も中国市場で売られる高額な人気商品が本物かニセモノかもわからず、不安なまま購入しているというのが中国市場の実態なのである。

 

その影響について、日本企業は笑って済ませることはできない。場合によっては、高額な商標使用料・買取料を要求され、ダメなら中国では別名を使うしかない。それにとどまらず、本名を使われた中国製の別商品が粗悪品だった場合、国内販売あるいは海外輸出された場合の誤解クレームもあり得るし、何よりも当社の純正ブランド(ノレン)が汚される危険がある。さらに、iPadのように国内販売停止、輸入禁止だけでなく、輸出禁止の訴訟にまで発展した場合、中国で当該商品を製造している企業にとっては、大損害にも発展しかねない問題である。

対策としては、まず(1)正規のライセンス業者を通じて、できる限り早期登録すること、(2)常日頃から、市場モニタリング、情報クリッピング、注意広告・摘発キャンペーンなどの自社ブランド管理を徹底すること、(3)ジェトロや経済産業省の広告など公的注意情報の収集を怠らないこと―である。「身から出たサビ」、「有名税」ではなく、いったん発生すると相当厄介な問題になってしまうことをよく自覚し、未然の防止策を打つことが何より大切である。いったん発生してしまったら、迅速かつこまめに対処し、中国法にしたがって厳正に対処することで、その後の再発防止に努めることである。

(<時流自在>は筧武雄・チャイナ・インフォメーション21代表によるコラム記事)

<筧武雄氏プロフィール>一橋大学経済学部卒北京大学留学、横浜銀行北京事務所初代駐在員、同行アジアデスク長、海外経済協力基金(OECF)派遣出向などを経てチャイナ・インフォメーション21を設立。横浜国立大学経済学部非常勤講師、神奈川県産業貿易振興協会国際ビジネスアドバイザーなど多くの役職を経て、現在も横浜市企業経営支援財団グローバルビジネスエキスパートなど、日本企業を支援する中国ビジネスコンサルタントとして活躍中。

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