Record China 2012年6月20日(水) 8時8分
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マスコミやネットなどの宣伝広告分野において、特に日本企業が注意すべき「中国独特のリスク」についてふれておきたい。それは「台湾」リスク、「民族と人格の尊厳」リスク、そして「レピュテーション」リスクとも呼ぶべきものである。写真は大問題となった日本車の広告。
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中国市場販売における「パクリ問題」とは異質であるが、マスコミやインターネットなどの宣伝広告分野において、特に日本企業が注意すべき「中国独特のリスク」について当「パクリシリーズ」の最後にふれておきたい。それは「台湾」リスク、「民族と人格の尊厳」リスク、そして「レピュテーション」リスクとも呼ぶべきものである。
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1、台湾(ROC)リスク
1949年の中華人民共和国成立以来、国連などの国際舞台で中国本土と台湾が長らく相容れない関係にあることは周知のとおりである。それに対して、日本企業の中には、中国本土と台湾の特殊関係を理解せず、広告宣伝や事業活動の中で両者を混同したり、無神経な取り扱いをしてしまうケースがままあり、そのために中国市場から排斥されてしまうリスクのことである。
特に2010年のECFA(両岸経済協力枠組協議)調印以来、台湾と大陸本土は直行便で結ばれ、相互の経済交流も相当に進展しているが、政治的には双方とも相当に微妙な関係にある。そこで無神経な日本企業が、たとえば製品の広告や製品表示、取扱説明書等のなかで台湾のことを「中華民国」と不用意に記載してみたり、製品の国名表示で同英語名「ROC(Republic of China)」と表示してみたりする。これは日本国内仕様商品や台湾仕様商品をそのまま中国本土に持ち出した時に発生しやすいリスクでもある。
これはいずれも中国本土では認められていない国名記載であり、ヘタをすると「非友好的企業」と見なされ、中国市場では販売禁止、製造禁止のレッテルを貼られてしまう。これは台湾に於いても同様のトラブルを招く。
「ウッカリ」では済まされない重大ミス、十分に注意されたい。
2、民族と人格の尊厳リスク
(レピュテーション・リスク)
「中国消費者権益保護法」(1993年10月31日公布、国家主席令第11号)第50条に、「製品品質法等に定めがない場合でも、以下の消費者権益保護規準に違反したものに対して工商行政管理部門は是正を命じ、情状に基づき警告、違法所得の没収、違法所得の同額以上5倍以下の罰金、違法所得がないときは1万元以下の罰金を単独で又は併せて科すことができ、情状が重い場合は、業務を停止し整理することを命じ、又は営業許可証を取り消すことができる」とされ、その第(8)項には「消費者の人格の尊厳を侵害し、又は消費者の人身の自由を侵害した場合」と定められている。
ここで、製品の品質や製造責任と、消費者の「人格の尊厳」、「人身の自由」とがどう関係あるのか、不可解に感じられる方もおられるかもしれない。
それは、たとえばこういうことである。
これは日本最大の国際空港で実際に発生した事件。
中国から日本で航空便を乗り換えて米国に向かう中国人団体旅客がいた。折りしも天候が急変し、中国からの航空便は日本の空港には到着したものの、乗り換えの米国行き航空便が飛べなくなってしまった。
当日は彼らの他にも多数の外国人旅客が同様の状況におかれ、国際空港ロビーは大混乱していた中で、中国人旅客たちは言葉がうまく通じなかったこともあり、結果としてロビーに一晩放置された状態となってしまった。彼らは翌日になって、無事米国に渡航したものの、中国に帰国してから日本の航空会社を相手取って、日本の空港で受けた待遇による精神的苦痛を理由として損害賠償の訴訟を起こしたのである。
最終的には示談による和解となったが、ナショナルフラッグを掲げる日本の航空会社を相手どった国際訴訟で、しかも中国の象徴でもある北京天安門広場の人民大会堂において両者の「和解式典」が開催されたという背景には、日本の空港でのサービスが彼らの「人格の尊厳、人身の自由」を侵害する対応振りだったという中国側の被害意識があったのだろう。
また、過去、こんな事例もあった。
日本を代表する大手自動車メーカーの広告宣伝写真の表現が、中国消費者の国民感情を傷つけるものだったというクレームである。具体的には、日本製のランドクルーザー車が、中国の軍用でもある著名な国産トラックを牽引して荒野を走る風景の広告は「中国車を侮辱するもの」と捉えられた。
また、中国の象徴ともいえる北京天安門前の獅子像が、並んで日本製自動車に敬礼する風景の広告が「国家の尊厳を侮辱するもの」とさえ言われたこともあった。いずれも中国人デザイナーにより制作された広告表現という情報も当時あったが、メーカーは即座に謝罪し、問題の広告は撤去された。
さらにその後も、中国での販売実績が絶好調となった日本製ランドクルーザー車が、実際には坂も上れないという中傷に近い噂がネット上で流布したこともある。これに対して、日本メーカーは「この自動車は中国の国家品質基準を正式に満たしており、そのような性能上の問題は無い」と説明し、同時に、実際に坂を上って走る映像が中国のインターネット動画サイトにも投稿され、噂は消えた。
この大手日本の自動車メーカーが見せた、「中国の国家基準を遵守している」という毅然とした説明、そしてネット情報に対してははネット上で対処する、という対応は非常にスマートな印象だった。
どちらの問題にも共通して言えることは、この種の問題が発生した際、現場での初期対応を誤るとあとあと大変な問題になりかねないということである。
(1)まず、中国消費者の立場に立つ(根拠も無く日本を弁護しない)
(2)問題を放置せず誠意をもって対応する
(3)事実を客観的に確認し、中国語で説明責任を果たす
この三点が肝要である。
そのためには、日ごろからインターネットを中心に中国市場情報ウォッチ(モニタリング)を怠らないことである。専門家と提携し、現地(現場)に危機管理オフィサーを設けるなどして、スムースに危機対応できる体制を構築しておく必要があるだろう。
(<時流自在>は筧武雄・チャイナ・インフォメーション21代表によるコラム記事)
<筧武雄氏プロフィール>一橋大学経済学部卒北京大学留学、横浜銀行北京事務所初代駐在員、同行アジアデスク長、海外経済協力基金(OECF)派遣出向などを経てチャイナ・インフォメーション21を設立。横浜国立大学経済学部非常勤講師、神奈川県産業貿易振興協会国際ビジネスアドバイザーなど多くの役職を経て、現在も横浜市企業経営支援財団グローバルビジネスエキスパートなど、日本企業を支援する中国ビジネスコンサルタントとして活躍中。
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