Record China 2012年10月15日(月) 7時51分
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9月中旬に中国各地で発生した日本政府による尖閣諸島国有化に抗議する反日デモは青島、長沙、蘇州、成都などで一部が暴徒化し、幾つもの日系工場や大手スーパー店舗が破壊、略奪、放火の被害に遭った。写真は中国国旗を掲げる瀋陽の吉野家。
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9月中旬に中国各地で発生した日本政府による尖閣諸島国有化に抗議する反日デモは青島、長沙、蘇州、成都などで一部が暴徒化し、幾つもの日系工場や大手スーパー店舗が破壊、略奪、放火の被害に遭った。
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柳条湖事件発生記念日(中国では「国恥日」という)の9月18日には全国110都市まで拡大したが、同日、米国防大臣が訪中し「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲内」を明言、翌19日にはデモ自粛の通知が流された。22日には習近平氏による「平和的解決」方針の公式発言もあり、一部の賃上ストに飛び火した広東省地域を除き、全国に拡大した反日デモ・暴力行為は一日でほぼ鎮静化した。
9月下旬には横須賀を母港とする米第七艦隊空母ジョージ・ワシントンがグアム演習から引き続き台湾東沖に展開し、幸いにして当面の最悪の武力衝突の危機は回避されたものと思われる。
▽日系の工場・店舗が再開
その後、国慶節の連休を迎えて中国内の反日運動は一服し、10月4日付でイオンは、被害を受けた「ジャスコ黄島店」(山東省青島)の営業を11月下旬を目処に再開させ、今後の中国における店舗展開計画にも変更がないことを発表、7億円程度と見積もられた被害金額も、損害保険によりカバーされるとしている。同じく生産ラインを破壊されたパナソニック青島工場も10月中旬から操業を再開すると発表、「連結業績予想に大きな影響は出ないだろう」とコメントしている(10月4日付各紙報道)
今後は、中国政府による対抗策は経済的措置に主眼が移されると予想されるが、11月党大会後の新指導体制確立後も引き続きこの動きが継続するかどうか、予断を許さない状況にある。中国政府は尖閣問題が国家の主権問題であり、日中間の歴史問題に根ざす問題であるという論拠であるため、経済対抗措置も長期間継続される可能性がある。
今年中盤に入ってから欧州信用危機の影響により中国経済の成長、輸出入の伸びともに大きく減速し始めている状況で、今後長期にわたり日本との経済関係を中国政府みずから抑制することは、自国民、自国経済にも多大の犠牲を強いることになるが、中国政府は敢えて実施すると言明しており、しかも今回は対象を「日本」のみにしぼっていることから、日本企業としても十分な注意が必要である。
▽経済対抗措置は限定的に
フィリピンとの紛争では、経済対抗措置としてバナナの輸入を全面停止したが、日本については昨年の東日本大震災の原発事故以来、中国政府は日本から農産物・食品・飼料の輸入を停止したままであり、ここで改めて農産物輸入停止の報復措置をとることはできない。同時に、日本市場側としても毒餃子事件以来、中国産農産物、加工食品に対する安全性の問題がここ数年間強く注目されており、ここで中国がこれらの輸出を抑制したところで、自分の首を絞めるだけで、対日制裁の大きな効果は期待できない。
昨年の中国漁船衝突の際の経済報復措置であったレアメタル、レアアース類の輸出制限についても、中国は今年1月にWTO提訴ですでに敗訴しており、使うことはできない。
中国政府の保有する日本国債を今回売却すると言っても、中国が日本国債を買い始めたのは昨年からのことで、その保有額も18兆円と、日本国債海外保有高92兆円の1/5弱、発行額全体総額940兆円の1.9%にすぎない。今回、一年程度の保有期間で全額売却したとしても、日本経済にほとんど影響はなかろう。日本国内の人民元市場規制といっても、まだ始まったばかりで規模は極めて小さく、香港市場を代替利用することで対日制裁の効果はないに等しい。このように、マクロ的経済対抗政策といっても、これといった決め手に欠き、結局は自己の影響力の及ぶ自国内での日本製品ボイコット運動、ならびに日本関係貨物の通関全品検査など、個々のビジネス現場での日系企業に対する直接嫌がらせ的な規制強化の組み合わせが予想される。
しかし、現実に眼を転じると、通関規制もすでに収まりを見せている。日本製品ボイコットについても、知る限りの現地日系企業、知人からの情報では、一般の日本製品が売り場から姿を消したのは、暴動に発展した時期の緊急避難的な数日間に過ぎず、すでに日本製品は相変わらず百貨店や量販店などの店頭で売られ続けており、10月連休中の日本料理レストランも、どこも中国人客で満員だったという。
各地の経済開発区では日本企業向けの誘致活動が再開され、日本商品に対する返品依頼や新規注文とりやめは地方代理商のものが中心で、それも果たして反日不買運動が主たる原因かどうか判然としないという。反日デモから二週間も経たないうちに現地日系企業の間から「あの騒ぎは何だったのか?」という声すら聞かれるようになってきた。
中国市場で日本車の9月売り上げが大きく落ち込んだといっても、デモで破壊されるのを恐れての一時的な買い控えで、状況が収まればすぐに回復していくだろう。そもそも日本車の売り上げは5月頃から低下傾向にあり、むしろ本当の問題は各国自動車メーカーの過当競争、在庫の積み上がり、工場人件費、材料、燃料コストの上昇にあると思われる。
▽人民日報も理性呼びかけ
ここで印象的なのが、9月26日付人民日報日本語版に掲載された「日本製品不買の理性的方法」という記事である。(以下末尾抜粋)
…(中国市場では)技術・品質の面で世界中から好評を博している日本製品にも、大きな需要が存在している。日本製品不買を実施する上で、人民日報公式ブログによる、以下の提案を参考にしてはどうか。
1、日本製品不買を各自が自分自身の消費行動の一選択肢とし、他人には強制しない。
2、日本製品をすでに購入した同胞には手を出さない。その日本製品は額に汗して働き得たものであり、中国人の財産である。
3、日本製品のうち、代替品が存在しない製品の購入に対しては理解を示す。これは中国の発展にとって必要であるからだ。
4、愛国心を自らの志に変え、自らの行動により中華を振興する。
日本人よりも真面目に働き、日本人よりも高い技術を求め、日本人よりも厳しい管理を行い、日本製品を超える中国製品を作り出し、技術から品質・ブランドに至るまで、中国製品を価値チェーンの上流に移行させる。これが(盲目的、熱狂的な)日本製品不買よりも理性的な愛国の仕方だ。中国人は性能と用途の面から日本製品に別れを告げることが可能で、感情的なもつれにとらわれる必要はない。(人民網日本語版2012年9月26日付)
この記事内容は極めて理性的であり、正論である。見方によっては、日本製品不買運動すら、その人自身の理性的選択と個人的な価値判断にゆだねると読むことも可能だろう。
そもそも愛国心は否定されるものではないが、暴力、破壊や放火、略奪とは無縁である。この人民日報記事にあるような見方が、中国人消費者の一般的な認識となってくれることを望むし、日本企業も必要以上に萎縮する必要はない。
(<時流自在>は筧武雄・チャイナ・インフォメーション21代表によるコラム記事)
<筧武雄氏プロフィール>
一橋大学経済学部卒北京大学留学、横浜銀行北京事務所初代駐在員、同行アジアデスク長、海外経済協力基金(OECF)派遣出向などを経てチャイナ・インフォメーション21を設立。横浜国立大学経済学部非常勤講師、神奈川県産業貿易振興協会国際ビジネスアドバイザーなど多くの役職を経て、現在も横浜市企業経営支援財団グローバルビジネスエキスパートなど、日本企業を支援する中国ビジネスコンサルタントとして活躍中。
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