<コラム>竹下通りで出会った日本の女子学生、娘の問いかけにけげんそうな面持ち

木口 政樹    2018年11月3日(土) 23時20分

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娘が小学校を終え、中学に入学する間の冬休みに、娘を連れて何度目かの一時帰国をした。家で私が日本語を少しずつは教えていたが、日本語は片言の力しかないころだった。写真は竹下通り。

娘が小学校を終え、中学に入学する間の冬休みに、娘を連れて何度目かの一時帰国をした。家で私が日本語を少しずつは教えていたが、日本語は片言の力しかないころだった。ふるさと米沢へ行くのがいちばんの目的であったが、日本の中心地東京もいっしょに歩いて日本の感覚を娘の心に植え付けたいとも考えていた。

私は日本の地を踏むだけでつねにルンルンだ。娘も気分はよさそうだった。日本が好きなのである。渋谷から原宿まで歩いていった。途中、明治通りですれちがったアメリカ人とおぼしき3人が非常に印象的だった。ピエロのような格好で思い思いの服を着てダンスをするような感じで渋谷に向かって歩いていくのだった。

自由な雰囲気があまりにも生き生きと漂っていて、さすがに東京はソウルとはまたちがった雰囲気だな、と思ったものだ。原宿駅のあの可憐な駅舎の中に入り、スタンプを押した。東京の中にあって、木造の駅舎がそのまま残っているのはおそらくこの原宿駅だけだろう。大正時代に作られた駅舎だと聞いているが、今でもなんとなく新しさが漂っていて不思議な駅である。

原宿といえば、竹下通り。若者らでにぎわう通りも娘と一緒に歩いてみることがそのときの目的の一つだった。竹下通りの100円ショップに行って、面白いいろいろなものを買うことにしていた。ところが、はじめての竹下通り。どこに目当ての100円ショップがあるのか、わからない始末。女子学生らがたくさん歩いているので、娘に「あ、あの女学生に100円ショップの場所をきいてきてごらん」と言った。娘はすぐ走り出して高校生とおぼしきその女子学生の後ろから声をかけた。

「おねえちゃん、あのう、100円ショップ、どこにありますか」

その女子学生、このことばを聞いて、あたりを見回し、声をかけられたのが自分であることを悟るのに3秒くらいかかった。自分であることがわかると、けげんそうな面持ちながら、「ええっと、ダイソー?それだったらあそこよ」と、ダイソーの場所を示し、そそくさと立ち去っていった。

私はその一部始終を10メートルほどの距離からずっと見ていた。片言の日本語でも、実際に使い、試し、経験することが一番重要なことだから、なんのヒントも与えずに娘を送った次第だった。

女子学生は、知らない子が突然追い掛けてきて「おねえちゃん」と言ってきたことがまず大きなショックだったに違いない。韓国だったら、女同士だったら、見知らぬ人に対しても「オンニ」つまり「おねえちゃん」と声をかけ、そこから話がはじまっていくケースが大部分である。

「オンニ」という呼称は非常に便利で非常によく使われる呼称の一つであり、呼称の代表格であろう。店でも店員に「オンニ、これの赤いのある?」などというのである。大学でも小学校でも年上の女の先輩に対してはすべてこの「オンニ」で通じる。血を分けたおねえちゃんであってもそうでなくても「オンニ」で通じるのである。

娘はこの「オンニ」をそのまま日本語にあてはめ、「おねえちゃん」と声をかけたわけである。ところが相手の「おねえちゃん」は血を分けた妹でない女の子から「おねえちゃん」と声をかけられたため、「なんでこの子、あたしにおねえちゃんなんて言うの?」と理解のできない状況に追いやられたに違いない。

相手の子が小学生と幼いので、怖れるという感情はなかっただろうけど、「なんだろ、あたしにお金の無心でもするのかな?」とちょっとビビッてしまったのではないかと思う。女子学生を驚かせてしまってちょっと悪かったな、という気持ちはあったが、娘と女子学生のやりとりを見ていた私は、おかしさを堪えられず声を出して笑っていた。あの女子学生さん、すいません。今度どっかで会ったら、竹下通りのおいしいパフェ、おごりたいです。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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