「1時間の充電で4時間待ち」新エネ車の充電難の中国

吉田陽介    2021年10月27日(水) 22時20分

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「1時間の充電で4時間並ぶ」という言葉に象徴されるように、国慶節連休には行列を作って充電を待つ新エネルギー車のドライバーが多くの地域で見られた。写真は電気自動車のカーシェアリング。

中国の建国記念日である国慶節の期間中、従来ほどではないものの、旅行需要が一程度伸びた。それにともなって高速道路のサービスエリアでの充電需要が急増した。

国家電網公司のデータによると、10月1日から3日にかけて、国家電網の充電・交換サービスネットワークの総充電量は前年同期比59%増、高速道路充電施設の充電量は前年同期比56.52%増となった。10月1日当日、高速道路の充電量は普段の4倍近くとなり、過去最高を記録した。

そのため、「1時間の充電で4時間並ぶ」という言葉に象徴されるように、行列を作って充電を待つ新エネルギー車のドライバーが多くの地域で見られた。ドライバーはトイレにも行けず、充電スタンドを巡ってドライバー同士のトラブルも起こった。

新エネルギー車の充電難は、インターネット上で話題となった。あるユーザーは「電気自動車での外出で、ピーク時の渋滞は最も絶望的なことではない。絶望的なのは、バッテリーが切れても充電できる場所がないことだ」とつぶやく。

■充電スタンドが足りなくなったワケ

新エネルギー車の充電難の大きな原因は、新エネルギー車の保有台数が伸びているのに対し、充電スタンドがそれに追いついていないことにある。

10月16日付けの『中国経済周刊』(WeChat版)の記事は研究機関のレポートを引用する形で、「充電スタンドを探すのが難しい」「充電の列に長時間並ぶ」というのは、新エネルギー車のドライバーにとっては避けて通れない道であり、特に休日の外出のピーク時は、充電難が際立っていると述べた。

新エネルギー車の知名度アップにつれて、充電インフラの整備の需要が高まり、整備されているのは事実だ。

「電気自動車充電インフラ発展ガイドライン(2015~2020年)」は、2020年までに480万台の充電スタンドを建設し、500万台の電気自動車が使用できるようにすることを求めている。

だが、充電スタンドの整備は政府が掲げた目標ほど進んでいるとは言えず、スタンド需要を完全に満たしたとは言えない。

中国充電連盟が発表したデータによると、2020年末の中国国内の新エネルギー車保有台数は492万台であるのに対し、充電スタンド数は168万1000台で、新エネルギー車・充電スタンド比は約2.9:1だった。新エネルギー車の販売台数の爆発的増加にともない、今年6月時点の新エネルギー車の保有台数は22.6%増の603万台となったが、全国の充電スタンド数は15.8%増の194万7000台にとどまり、新エネルギー車・充電スタンド比は3.1:1となった。

外での充電スタンドが十分な数がないのは整備の遅れだけではない。充電スタンド194万7000台のうち、102万4000台が個人用充電スタンドで、ドライバーが自分で使うために自分の住む団地に設置したものが多いことも一因だ。一方で、他のドライバーにも充電サービスを提供する公共充電スタンドは92万3000台しかない。

前出の『中国経済周刊』の記事は、「電気自動車が爆発的に増えた2021年は、『新エネルギー・充電スタンド比』が最も厳しい時期かもしれない」という専門家のコメントを紹介した。

現在、中国は国として脱炭素化に舵を切っており、「グリーン発展」は重要なキーワードになっている。その中で、新エネルギー車の普及は大変重要だ。今後は関連のインフラの整備が問題になっていくだろう。

■充電スタンドの地域的アンバランスも深刻

充電スタンドは整備されているが、全国にバランスよく分布していない。

中商産業研究院が10月9日発表した記事によると、充電スタンドは主に、北京・天津地区、東部沿海、東南沿海、長江中下流域などの一線都市の旅客密度の高い公共エリアに分布しており、西部、北部および三線・四線都市の充電スタンドは比較的少ないという。

中国充電連盟の今年6月の統計データによると、広東省、上海市、北京市、江蘇省、浙江省など上位10省・市で建設された公共充電スタンドは66万7000台に達し、全国の公共充電スタンド全体の72%を占め、うち上位5省・市の充電スタンドがさらに半分以上を占めた。

また、同一地域内の分布もアンバランスだ。充電スタンドの多くは市街区に設置され、高速道路の充電スタンドの現在の保有台数は1万836台で、全国の公共充電スタンドの総量に占める割合は1.2%に満たない。このことは、新エネルギー車を使う人々が「家に帰ることも、都市から出ることも、地方に行くこともできない」という問題を引き起こす。

周知のように、国慶節は多くの人たちが動くため、短期間に急増する充電需要も大きなプレッシャーとなった。このため、休日になると、新エネルギー車のドライバーは1級都市と2級都市には「向こうには充電スタンドがたくさんある」と思って遠出するため、当然「1時間の充電で4時間並ぶ」という状況に陥ることになる。

■利益を上げにくい充電スタンドビジネス

充電難を解消するには、充電スタンドを増やすことが最も容易な解決策だ。だが、関連企業がすぐには生産数を増やすことをしないのは、生産が困難なのではなく、意欲がわかないためだ。

充電スタンド市場への参入はさほど難しくない。2014年に民間資本の充電スタンド市場への参入を認めて以来、ピーク時の2017年には1000社以上の充電スタンド企業が参入した。

テスラも充電スタンド市場に参入した。テスラ上海スーパー充電スタンド工場は2020年8月に正式にプロジェクトを立ち上げ、今年2月3日に稼働をスタートした。工場への投資額は約4200万元だが、初期計画では急速充電器「スーパーチャージャー」の1年当たりの生産は1万基に達した。

だが、参入が容易だが、充電スタンド企業は利益をあげにくい。2019年には50%の企業が倒産したり、この業界から撤退したりしており、さらに30%の企業が損益分岐点で苦しんでいる。

中国最大の充電スタンド運営事業者の特来電は2016~2020年にそれぞれ2942万3000元、1948万9000元、1億3600万元、1億1100万元、7769万6000元の損失を出し、5年間で合計3億7400元の損失を出した。

新エネルギー車の発展を奨励するため、各地の政府は充電料金の価格設定を指導しているため、低下傾向にある。充電スタンド運営事業者が利益をあげたいと思っても、料金を引き上げることができず、充電時間の引き上げを期待するしかない。

充電スタンド企業が損益均衡に達するには、スタンドの利用率が8.29%に達する必要がある(利用率=1日あたりの平均充電時間/24時間)という試算があるが、その目標を達成するには1日当たり1.99時間利用する必要がある。

この目標は現実的な数字だろうか。新エネルギー車の販売台数が高い上海市の例でいうと、2020年11月の上海市直流充電スタンドの利用率は6.82%、1日1.6時間の利用にとどまっており、損益均衡の状態になっていない。

実際、充電スタンド運営事業者にとっては、充電スタンドの供給が需要に追いつかないとき、つまり、車が多くてスタンドが少ないときにはじめて充電スタンドの利用率が高くなるため、充電スタンド運営事業者は大きな先行投資意欲がわきにくい。

「車とスタンドのアンバランス」は一時的なものであり、長い目で見ればバランスがとれたものになる。新エネルギー車は発展段階にあり、短期的にはミスマッチが起こる。

中国の電力配送会社である国家電網を例にとると、2016年時点で累計4万カ所の公共電気スタンドを整備し、通年で計1200万回余りの充電サービスを提供している。これは、1つの充電スタンドの1日当たり使用回数が1回未満で、「車よりスタンドが多い」ことを意味する。逆に、今年の国慶節には「スタンドより車の方が多い」ということが起きた。それも、新エネルギー車の普及のプロセスの中で起こる短期的なミスマッチだ。

前述のように、現在の中国は経済活動も環境を重視しており、新エネルギー車の普及は必須だ。コロナ禍を抑えたとはいえ、局地的な感染拡大が起こっている。そうした中で、マイカーでの旅行の需要は今後も拡大するだろう。

また、新エネルギー車の航続可能距離の向上、充電施設の整備、充電効率の向上によって、休日の高速道路での充電の不安は、いずれ解消されるのではないかと考える。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

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