黄 文葦 2019年1月12日(土) 13時30分
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日本の国際捕鯨委員会(IWC)脱退のニュースは中国でも大きく取り上げられた。友人がシェアしてくれた中国の報道では、日本の商業捕鯨の再開に対して明確に否定的な姿勢を示していた。資料写真。
日本の国際捕鯨委員会(IWC)脱退のニュースは中国でも大きく取り上げられた。友人がシェアしてくれた中国の報道では、日本の商業捕鯨の再開に対して明確に否定的な姿勢を示していた。記事には血を流すクジラの写真が添えられており、友人は「日本人は残酷ですね」と語っていた。
私は何も答えずに、長い間考え込んでいた。中国の報道を見て「日本人は残酷」という結論に至ったことを残念に思う。問題はマスコミの伝え方にあり、受け手が影響されやすいものになっていた。
そう言えば、中国のマスコミはいつも日本の地震ニュースを大きく取り上げる。これにより、中国の親しい友人が慌てて「日本はまた地震?大丈夫?」と私に聞いたこともある。「何でもないですよ。そんなに影響がない」と答えるしかなかった。
というわけで、私なりのニュースの取り扱い方を紹介したい。関心があるニュースについて、まず背景を調べることから始める。例えば、今回の日本がIWCから脱退することについて調べてみた。日本は30年前の1988年に商業捕鯨を中断。その後、商業捕鯨再開に向けた科学データの収集を目的とする調査捕鯨を開始した。この30年間、捕鯨支持国と、動物愛護を主張する反捕鯨国の勢力が拮抗(きっこう)し、膠着(こうちゃく)状態となっている。
日本国内にも賛否両論がある。水産庁と外務省すら意見が違っている。水産庁にとって商業捕鯨再開は長年の悲願である一方、外務省は反捕鯨の大部分を占める欧米諸国を刺激したくない考えだ。
捕鯨は日本の伝統文化の一つである。日本における捕鯨の歴史は、すでに漁労活動が行われていた縄文時代までさかのぼる。和歌山県の太地町における捕鯨の歴史は1606年(慶長11年)に始まり、400年を超える。太地では親子鯨を捕らないという独特の習慣があった。現在、捕鯨が地域産業として根付けてほしいと多くの太地町の人々が願っているという。
私は刺身が好きである。ただ、普段スーパーでクジラの刺身を見つけることはめったにない。捕獲調査の副産物である鯨肉は、一般販売のほか学校給食などの公益事業に供され、その収入は調査捕鯨の費用に充てられたという。
興味深いことに、日本では捕鯨従事者を中心に、捕鯨を行う地域の住民が漁の安全や大漁を祈願したり、鯨に対する感謝や追悼の意を表したりする文化が生まれた。人々の生活を維持してくれる作物や獲物に対して、感謝をする習慣があり、鯨墓が日本各地に建てられている。この点から日本人の性格には深みがあると感じ、捕鯨について「残酷」の一言で解釈するのは無理であると悟った。日本人はある程度、柔軟に心のバランスを取っていると思う。
96歳の作家・僧侶の瀬戸内寂聴さんは肉と酒が好きだと公言している。テレビで「お坊さんなのに肉が大好きってどうかなぁ」と笑い芸人がツッコんでいたが、瀬戸内寂聴さんは微笑みながら「肉を食べる時に袈裟を外す」とユーモアを交えて返答していた。たいへん知恵のある方で、心が柔軟だと感じた。
話を商業捕鯨に戻そう。捕鯨に反対するか賛成するかは別として、世の中の人々の価値観に違いがあることは認めざるを得ない。特にクジラの取り扱い方から日本人の性格を深く認識できた。
というわけで、マスコミが相手国を報道する際、客観的な考えができるよう情報を提供するべきだろう。偏った見方は入れないでほしい。主に中国のマスコミの姿勢を指摘するつもりであったが、日本の中国報道にも問題がないとは言い切れない。日本では中国のマイナス面のニュースが圧倒的に多く、「中国は崩壊する」とあおる書籍はたくさん存在する。
日本人にも客観的な情報を通して深く中国人の性格を知ってもらいたい。情報の受け手の視野を広げるためにも、ニュースの深層と側面を探る必要がある。考え方が極端にならないように、ニュースをちゃんと自分の目と耳と心で判断してほしい。そうすれば自分なりの考え方が生まれるはずである。
■筆者プロフィール:黄 文葦
在日中国人作家。日中の大学でマスコミを専攻し、両国のマスコミに従事。十数年間マスコミの現場を経験した後、2009年から留学生教育に携わる仕事に従事。2015年日本のある学校法人の理事に就任。現在、教育・社会・文化領域の課題を中心に、関連のコラムを執筆中。2000年の来日以降、中国語と日本語の言語で執筆すること及び両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。Facebookはこちら「黄文葦の日中楽話」の登録はこちらから
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