<直言!日本と世界の未来>米中経済摩擦交渉の進展を歓迎=2大国のトップ会談実現を―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2019年1月13日(日) 9時30分

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今年の世界経済にとって、大きなリスクは何と言っても米中経済摩擦。米中の次官級による通商協議が9日まで3日間北京で開催され、中国による米国からの農産物とエネルギー輸入拡大など多くの点で成果があったようだ。世界の発展にとり最大のリスクは保護主義の蔓延である。

今年の世界経済にとって大きなリスク要因は何と言っても米中経済摩擦である。米中の次官級による通商協議が9日まで3日間北京で開催され、中国による米国からの農産物とエネルギー輸入拡大など多くの点で成果があったようだ。知財侵害など中国の国策と直結する「構造的な問題」については対立点が残り、1月中にも開く閣僚級以上での会談に委ねられるという。

米中次官級協議が順調に終わり、貿易摩擦への懸念が後退したため、年末年始に急落していたニューヨーク・ダウ平均株価は反発。投資指標面の割安感から、相場の戻りを期待する投資家が増えたようだ。日本、中国をはじめとする世界の株価にも反映されよう。

かつての米ソ冷戦時代と異なり、米中間には貿易、投資、サプライチェーン(供給連鎖)などで相互依存が緊密。その他の国の経済も先進国から新興国まで影響は甚大である。2018年の米国株は不振で通年で S&P500指数は6.2%、ダウ平均株価は5.6% 、ナスダック総合指数は 3.9%それぞれ下落した。株価の上昇を政権の成果と誇示してきたトランプ米大統領にとっては耐えられない事態ではないか。株式市場の安定化を目指して中国との協議を急いでいるようだ。

米政府機関一部閉鎖が3週間以上にわたり、民主、共和両党のメキシコ国境の壁建設費用の合意へのプレッシャーがかかるトランプ大統領にとっては、中国の譲歩を引き出して中国による米国製品購入と市場開放を勝ち取り、米国内にアピールしたいという考えがあるようだ。トランプ氏は「実際に中国と合意するのは、野党(民主党)と合意するよりも極めて簡単だ」とし、中国は交渉相手として「とても立派だ」とまで語ったという。

中国の王岐山国家副主席も「米中両国は現実的な協力を強化、促進していく必要がある」とした上で、「大きな進展があった」と述べたと報じられている。2月には習近平国家主席が訪米しトランプ大統領と手打ちする可能性もあるようだが、2大国のトップ同士の会談を是非とも実現してほしい。

トランプ大統領による対中関税引き上げなどの保護主義的な政策と中国の報復措置は、中国経済の減速を招いただけでなく、米国の消費者・製品物価の上昇や株価急落、大豆など農産物価格の急落などの形で跳ね返り、米経済にも深刻な打撃を与えている。

ただ底流で米中の対立は次代の覇権争いの様相を呈し、厳しい米中関係が続くと見る識者も多い。トランプ政権内では強硬派と協調派のせめぎ合いが続くことになろう。米国はじめ世界景気に陰りが見え始めている中、さらに米中貿易摩擦が激化すれば経済が混乱するのは必至だ。このままでは日本をはじめ世界中大きなダメージを被ってしまう。

トランプ氏と習近平国家主席は2018年12月1日の首脳会談で、90日間の期限を設けて交渉を続け、その間は税率の引き上げを見送ることなどで合意した。中国側はその後、首脳の共通認識に従うとして、米国への対抗措置を相次いで緩和している。両国の交渉が期限の2月末までにまとめられることを期待したい。

<直言篇76>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。エッセイスト。

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