<コラム>中国2020年スマート・ウォーター・ビジネス産業の現状と市場需要情況

内藤 康行    2020年9月7日(月) 14時0分

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中国のスマート・ウォーター・ビジネスの開発は3段階に分けられる。資料写真。

スマート・ウォーター・ビジネス(SWB)とは、データ収集計器、ワイヤレス・ネットワーク、水質および圧力計などのオンライン監視装置を通じて、都市の給排水システムの稼働状況をリアルタイムで把握し、「都市のモノのインターネット」を形成するために、水管理部門と給排水設備を視覚化し有機的に統合する事業である。

SWBは、大量の水事業情報をタイムリーに分析処理することが可能で、対応する処理結果に基づき決定提案をサポートする。また水システムの生産、管理及びサービスプロセス全体をより洗練された方法で管理し、「スマート」な状態を実現する。中国のスマート・ウォーター・ビジネスの開発は、以下の3段階に分けられる。

SWB1.0:プロセスの最適化と生産効率の向上に重点を置いた自動化制御をコアとする。

SWB2.0:企業情報化をコアとする。企業のリソース管理、モバイル・アプリケーション、アルゴリズム・アプリケーションのブレークスルー。

SWB3.0:ビッグ・データ、人工知能及びブロック・チェーンの包括的なアプリケーション。

SWBはスマート水道メーターを基礎としており、水ビジネス管理のスマート化を実現する。SWBには、設備レイヤー(メーター、センサーなど)、データ転送レイヤー(データのネットワークアクセス)、プラットフォームレイヤー(クラウド、ビッグ・データ、データマイニングなど)の3つのレベルがある。スマート水道メーターの一定規模デジタル化を実現した後、SWBプラットホームをコアとしたスマート化による運用システムの構築は、SWBインフラ施設企業の事業変革、即ちデジタル化からスマート化移行の焦点となる。

近年、SWBは、従来のウォーター・サービスはアップグレードあるいは事業拡大のための重要な方向に移行している。中国のSWB業界はすでに急成長の段階に入っており、あらゆる規模のSWB企業が雨後の筍のように出現している。同時に、この分野全体は多くの問題に直面しており、本当に強く成熟するまでにはまだ長い道のりがある。

数日前、中国国内初のスマート・ウォーター・ビジネス・エコロジカルパークが福州ハイテク新区智恒科技園(Zhiheng Science and Technology Park)で運用を開始した。「SWB」は水事業情報化開発の高度な段階であり、デジタル経済環境下にある従来型の水ビジネス企業を成長させるための科学的発展方法である。

2017年中国水資源公報によると、全国河川水質グレードI〜III類が78.5%、グレードIV〜V類が13.2%、グレード劣V類が8.3%となっている。年間の総体水質はグレードI-III類の湖沼は32件(26%)、カテゴリIV〜V類は67件(54.5%)、カテゴリ劣V類は24件(19.5%)だ。通年の総体水質カテゴリI~III類の貯水池は920件(86.4%)、カテゴリーV類は120件(11.3%)、カテゴリー劣V類は24件(2.3%)となっている。

全体的には、水質汚染問題の深刻な情況は変わらないが、近年、水ビジネス企業は省エネ、コスト削減、運営と管理レベルの向上に対する需要度を高めており、SWBに対する需要が高まっている。

現在、中国には660を超える都市、2500を超える県都市、3万を超える行政鎮がある。各都市・鎮には基本的に給排水システムがあるものの、ほとんどの水ビジネス企業は情報化2.0段階にあり、SWB開拓へ向かっている。既存のSWB企業は小規模で、ベンチマーク企業が不足しており、業界の市場集中度は低い状態である。

IoT、ビッグ・データ、クラウドコンピューティング、モバイルインターネットなどの新しいテクノロジーが従来業界のあらゆる側面に入って来ており、SWB業界の進展に大きく寄与する。

あるコンサルティング会社の報告では、

・2015年のSWB市場規模は50.33億元(約778億円)で、前年比15.33%増加。

・2016年のSWB市場規模は58.62億元(約906億円)で、前年比16.47%増加。

・2017年のSWB市場規模は前年比17%増の約68.59億元(約1060億円)に達している。

・2018年のSWB市場規模は確定していないが約82億元(約1268億円)に達すると予測する。

経済の発展と水資源の不足に伴い、矛盾はますます顕著になっており、これを背景とし、政府、社会、ユーザーにとってのSWBの価値は、水道ネットワークの緊急修繕や水質安全モニタリングなど、水ビジネス企業の緊急対応能力を最大化することにある。モニタリングを通じて、水ビジネス企業は給水管網の圧力についてより正確で詳細な計算を実行でき、さまざまなコミュニティーに科学的な水圧を割り当て、高層ビルにおける水圧不足の現象が大幅に軽減される。

現在、中国の水道料金は政府主導のヒアリングシステムを採用している。水ビジネス企業は水道料金の価格決定権を持っていない。水道事業は、人件費と原材料価格の上昇という圧力を受けており、また「低水価格+損失+財政的補助金」モデルを長期的に採用しており、経営効率は低い情況にある。他方汚水処理企業はコンセッション契約を締結することにより、最低汚水処理量の保証と自社の収益性を確保するための最低単価を保証している。

業界全体の収益性は弱く、外部からのサポートに大きく依存している。中国では、全国の浄水施設の平均需給ギャップ率は30%と高く、中西部の水不足都市では45%以上、北東部の一部都市では50%以上となっている。都市部の給水管網の漏水率による経済損失は200億元(約3093億円)にもなっている。こうした情況を打開するため、SWBによる水資源不足を効果的に緩和できるとして注目されている。

水利改革発展十三五計画によれば、都市部と地方部の給水計画は、全国の新規給水能力を270億トン増加させる。即ち給水規模の増加には、都市部と地方部の給水管網の建設と変革の迅速化、給水管網の漏水率削減、主要水源確保プロジェクトと主要分水プロジェクトの実施、雨水と海水の利用強化、都市部の緊急用水と予備水源の建設強化、単一水源給水とする地方都市およびそれ以上の都市は、2020年末までに予備水源と非常用水源の建設を完了させるとしている。

あるデータでは、水ビジネス産業への投資は年平均24%のペースで増加している。2016年、中国の水ビジネス産業への年間投資額は4963億5200万元(約7.7兆円)に達し、 2017年では5276億7800万元(約8.2兆円)だったとし、業界アナリストらは2023年には年間投資額は8600億元(約13.3兆円)を超えると予測している。

SWBは巨大で完全な産業チェーンの構築であり、ハードウェアサポートだけでなくソフトウェアサポートも欠かせない。従来型企業の業界経験の蓄積だけでなく、新規参入企業の資本および技術サポートも必要である。従い、今後SWBはより戦略的な協力関係の構築が重要となっていく。強力連携、優勢補完、資源共有、データ共有を通じて、SWBの発展とアップグレードが加速され、市場シェアが拡大し、業界が再形成され、より大きな商業的価値を創造することとなる。

■筆者プロフィール:内藤 康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般と環境(水、大気、土壌)に関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。著書に「中国水ビジネス市場における水ビジネスメジャーの現状」(用水と廃水2016・9)、「中国水ビジネス産業の現状と今後の方向性」(用水と廃水2016・3)、「中国の農村汚染の現状と対策」(CWR定期レポ)など。

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