岩田宇伯 2019年4月5日(金) 21時50分
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今回はいつもの抗日ドラマネタから少し離れ、ちょっと面白いなと思った「中国の夢」主題新創作歌曲に関してレポートしたいと思う。
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●習近平政権が推す「中国の夢」
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中国ウォッチャーにはおなじみ「中国の夢」、習近平政権の掲げる執政理念である。かつては地政学でいうところのユーラシア「リムランド」をシルクロードで制し、鄭和艦隊がアフリカまで到達した歴代の中華帝国。ところが列強の進出以来、さんざん冷や飯を食わされた歴史経緯があるため、経済発展著しい今、ここにきてユーラシア大陸の盟主「中華民族の偉大な復興」を目指すというもの。「社会主義核心的価値観」、「一帯一路」といったキーワードとも密接な関連がある。
●そして「中国の夢」キャンペーンソング
この包括的な理念「中国の夢」を国民に周知、鼓舞するためのキャンペーンソングが2014年頃から作られ始めた。第1弾は2014年6月に発表された「光栄与夢想(栄光と夢)」という軍歌チックな合唱曲。このタイミングでこの歌を含む20曲が第1次「中国の夢」主題新創作歌曲として選出。以来、毎年20曲ほど選出され、2018年度で第6次となるも、このキャンペーンソングコンテストは継続している。
当初はMV(ミュージックビデオ)はなく、歌謡番組や政治番組で披露されていたのだが、数年前から番組の合間のCMタイムに凝ったMVを流すようになった。中国では番組と番組の間に10分~20分ほどのCMタイムが設けられており、一般的な企業CMとともに、法律の公布や、モラルアップといった目的の公共CMも必ず放映される。その公共CMとともに「中国の夢」主題新創作歌曲のMVが放映されるというわけだ。これを視点を変え、わが日本に置き換えてみると、1時間ごとに「アベノミクス」、「アベ政治」キャンペーンソングが流されるという、野党および左翼陣営が憤死しそうな状況である。こういった文化差異も興味深いところだ。
●中国らしいメロディーや民族色豊かな民謡風
CCTV3中央電視台バラエティーチャンネルに『芸術人生』という番組がある。タイトル通りいろいろな芸術家をスタジオに招くトークショーだ。この「中国の夢」主題新創作歌曲に数多くの楽曲を提供した作詞家陳涛、作曲家王備コンビが番組に出演し、舞台裏を話していた。(画像1)このコンビ、日本でも有名な金庸原作武侠ドラマ『倚天屠龍記(2003)』、BS局でも放映された『ミーユエ 王朝を照らす月(2015)』のテーマ曲作者と説明すればわかりやすい。そのコンビの「中国の夢」主題新創作歌曲は、中国らしいメロディーや、シルクロードを思わせる民族風のリズムを取り入れ、おおむね高評価である。とはいえ今どきの若者にウケるような楽曲ではないのだが、ベテラン作詞家作曲家なのでなかなかいい歌だ。
たとえば『千年の約束』という「一帯一路」をテーマとした歌、MVは色とりどりの民族衣装をまとったダンサーと静かな中東風メロディで、歌詞も暑苦しくなく、あまり力強いキャンペーンソングというイメージはないが、聴いているうちにスッと頭に入り込むという「中国の夢」主題新創作歌曲の本来の目的を達成しているというデキのよい楽曲だ。(画像2)オーディション番組の審査員などでよく見かける大物歌手韓紅起用もいいところを突いている。また『満城煙火(街いっぱいの花火)』や『心念』(ドキュメンタリー番組のテーマ曲)も、やはり、落ち着いた歌詞、静かなメロディーで聴いていて心地よい。
●ポップスチューンからアイドルまで
そのほかに、オペラ歌手、文芸兵が歌うクラシック寄り、軍歌チックな曲もある。そして上記陳涛、王備コンビの楽曲が中高年向けの歌謡曲や演歌のポジションとすれば、若者向けの楽曲も用意されている。
たとえば日本でも有名なAKB48の上海版SNH48の『夢想開始的地方(夢をスタートする場所)』(画像3)。学業に専念し未来に羽ばたこうというちょっと意識高い系の青春歌謡だ。また男子アイドルグループのTF BOYSが歌う『我和2035有個約(私と2035年の予約)』、中国政府は2035年に経済、軍事などで世界一を目指すという目標がある、そのテーマの歌だ。さすがにSNH48の歌に比べると「社会主義核心的価値観」のキーワードが出てきたり、かなり暑苦しくなっている。(画像4)
そして大御所シンガーソングライター郭峰の『我們』、人気スター李易峰、江シュウ影、景甜らの『賛賛新時代』といった軽快なポップスになると、BPMの上がったリズムとともに「我們創造世界的力量」、「(立占)起来、富起来、強起来」といった、キーワード満載のかなり暑苦しい歌詞となり、面白くなってくる。
●オススメ「中国の夢」主題新創作歌曲
このように日本では考えられない中国共産党政権主導のキャンペーンソング。穏当なものから暑苦しいもの、民謡風のものからポップス風のものまでさまざまなバリエーションが用意されており、まさに全方位漏れなしである。届かないとしたらインディーズ好きとかノイズミュージック好きといった音楽マイノリティぐらいだ。
そんな「中国の夢」主題新創作歌曲でとくに筆者が気に入った2曲を紹介しよう。まずはシンガーソングライター周澎の『美好向往(あこがれ)』。癒し系ルックスのいい人そうな周澎、軽快なポップスバラードなのに歌詞とMVの映像がムダに意識高い系で暑苦しい。アコースティックピアノで静かに始まるのだが、すぐに「新時代号角吹响、人民的美好向往、変成了奮闘的方向」と習近平政権のキーワード満載の歌詞。そしてサビに向かうところで「人民啊幸福安康、国家啊反映富強」とミャンマーに近い雲南のジャングルのような暑さに。そしてサビの部分は「みんな楽しく歌って幸せに暮らそう」という意味で今までの勢いが急に萎えてしまう。歌詞と周澎の癒し系ルックス、落ち着いたバラードメロディとのギャップが何ともいい味である。(画像5)
もう1曲はメガネスキンヘッドのオーディション番組出身平安(アンソン・ピン)、美女武警歌手喩越越のデュエット曲『信仰』。チェロとアコースティックピアノで静かに始まるのだが、MVにいきなり登場する上海新天地の第1回中国共産党大会史跡、そして共産党の聖地井岡山モニュメント。これでもうタイトル『信仰』の対象が何の歌がわかってしまう。さらにドラムと重厚なコーラスが入り期待感が高まるイントロだ。(画像6)朗々とそれぞれのパートを歌い上げる平安と喩越越、サビの部分では中国太鼓のリズムとともに美しいコーラスで暑苦しい歌詞をデュエット。二人とも実力派歌手なのでさすがに上手い。MVにおける平安のわざとらしい笑顔も歌詞と相まって、筆者のアタマの中にいろいろ考えが巡りなかなか消化しきれない、少々胃もたれする感じだ。歌もうまい、曲もいい、超暑苦しいけど元気の出る歌詞と「中国の夢」主題新創作歌曲におけるすべてのエッセンスが詰まった楽曲だ。
このような「中国の夢」主題新創作歌曲であるが、本年度も引き続き新曲が発表されるようなので注意深く見守っていきたいと思う。これらのMVはほぼYouTubeにないので興味のある向きは中国の動画サイトを参照されたい。
■筆者プロフィール:岩田宇伯
1963年生まれ。景徳鎮と姉妹都市の愛知県瀬戸市在住。前職は社内SE、IT企画、IT基盤の整備を長年にわたり担当。中国出張中に出会った抗日ドラマの魅力にハマり、我流の中国語学習の教材として抗日作品をはじめとする中国ドラマを鑑賞。趣味としてブログを数年書き溜めた結果、出版社の目に留まり『中国抗日ドラマ読本』を上梓。なぜか日本よりも中国で話題となり本人も困惑。ブログ、ツイッターで中国ドラマやその周辺に関する情報を発信中。twitterはこちらブログはこちら
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