<コラム>名曲?珍曲?抗日ドラマの音楽

岩田宇伯    2019年4月21日(日) 15時10分

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名曲?珍曲?抗日ドラマの音楽をチェックしてみた。

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●トンデモ抗日ドラマの音楽にあの人が

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1944年、雲南、ミャンマー国境周辺の拉孟騰越戦を描いた抗日ドラマ『怒江之戦』(2017)。国民党軍ミニスカ女将校やらハリウッド映画『プレデター』、『トゥームレイダー』みたいな話が登場する久々のトンデモ抗日ドラマ。 この『怒江之戦』の音楽を担当しているのはいまや中国ロック界のレジェンドとなったファンキー末吉氏。(画像1)ご存知の通りファンキー末吉氏は80~90年代ロックバンド「爆風スランプ」のドラマーとして活躍、その後活動の場を中国大陸に移し現在に至る。2019年春現在、中国のベテランロックバンド「布衣」の全省ツアーでキャラバン中、その様子はファンキー末吉氏のブログ、Facebookにてレポートされているのでご覧いただきたい。

この『怒江之戦』、設定がトンデモといえど、脚本自体は人気作家南派三叔の小説をベースとしているため観ていてけっこう面白い。オープニングムービーの疾走感もドラマへの期待感を与えてくれるが、やはりそれはファンキー末吉氏によるテーマ曲の役割が非常に大きい。劇中で挿入されるBGMもカッコよくトンデモ設定ということを忘れるほどだ。

●ドラマの良し悪しはオープニングムービーでチェック

抗日ドラマをはじめとする中国のドラマ作品のオープニングBGMはちょっとアップテンポの曲、これで作品への期待感を高め、エンディングBGMはスローバラードといったパターンが多い。なんかダンスフロアでチルアウトが流れる感じだ。

前述『怒江之戦』のように予算を十分にかけた作品では有名歌手、人気ミュージシャンを起用。この点においては監督やスタッフを確認するがごとくエンドクレジットを見れば、どの作品を観ようか迷ったときの指標にもなる部分だ。BGMの役割は作品全体のクオリティに影響を与えるため、音楽担当も参考にすべき要チェック項目といえよう。

とうぜん低予算作品では他の作品で使いまわしの聞き覚えのあるもの、明らかに場違いだろ、というようなBGMとなり、シーンに合わないものが流れたりする。まぁそれはそれで味わい深いものがあるのだが。

●日本軍御用達の歌

ワルモノ日本軍にはおどろおどろしいBGMがつきもの、そしてその他に定番の日本の歌がいくつかある。筆者が数多く抗日ドラマを観ていてもっとも印象深い日本の歌は『さくらさくら』である。日本軍お座敷にて芸者ガールの盆ダンス、切腹シーン、女軍官のラブシーンといったスローテンポの曲が必要なシーンで必ず登場する。(画像2)この『さくらさくら』に次いで見かけるのが、明治の大作曲家滝廉太郎の『荒城の月』。いずれも中国から見たジャポニズムを代表する曲といえよう。

また、憲兵隊本部などでは陸軍なのに『軍艦マーチ』が流れたりするのもご愛敬だ。わが日本でもかつてはパチンコ屋のメインBGMとなり、最も有名な軍歌ともいえるこの曲は、お隣中国でもよく知られているようだ。(画像3)

●そして中国の歌は

日本軍芸者ガールの盆ダンスに対抗するのが、魔都上海にてキャバレーのステージ。歌はその上海の繁栄ぶりを歌った周[王旋]の『夜上海』(英題Night life in Shanghai)。もう抗日ドラマ定番といっていいほどよく登場する歌である。ところがこの周[王旋]の『夜上海』、1946年の香港映画『長相思』の挿入歌として初めて発表された歌曲。1946年といえば抗日戦争が終わった次の年であるのに、なぜか上海が舞台となった抗日ドラマでは必ずといっていいほどタイムスリップし登場するのだ。高らかなホーンのイントロに始まるこの歌、有名なので聴いたことある方も多いと思う。『夜上海』に続き抗日ドラマのキャバレーシーンでよく聴く民国歌謡に『 [王攵]瑰王攵]瑰我愛[イ尓]』(英題Rose,Rose I love you)という歌曲がある。こちらも映画の挿入歌であるが、1940年公開の『天涯歌女』という作品の中で当時の上海人気歌手姚莉が歌ったものなので、ドラマの設定年代によってはつじつまが合う。(画像4)

また抗日ドラマということで当時歌われた『大刀進行曲』(1937)、『遊撃隊の歌』(1937)といった有名どころの軍歌も登場する。とはいえ、日本軍の『さくらさくら』、上海キャバレーの『夜上海』に比べると登場回数は少なく印象が薄い。

抗日ドラマ『魔都風雲』(2017)では、主人公たちが突然ステージで『保衛黄河』(1938)という中国では誰でも知っている軍歌を歌い出し、聴衆も大合唱するというシーンが登場した。これは戦意高揚映画と名高い『カサブランカ』(1942)で主人公のハンフリー・ボガードをいつも追いかけまわしているストリートガールがフランス国歌『ラ・マルセイエーズ』を合唱するシーンと同じような使われ方である。(画像5)

●民国歌謡を聴こう

紹介した以外にも数多くの民国歌謡が作られ当時庶民の人気となった。たとえば、『上海老歌』(2008)という中国のコンピレーションアルバムはCD20枚組で393曲収録という聴き終わるのに心が折れそうなスケールだ。こういった民国歌謡であるが、Youtubeに何曲かアップロードされている。また音楽配信サイトではコンピレーションアルバムやプレイリストがいくつか登録されているので当面音源に困ることはなさそうだ。逆にCD、レコードといった媒体を探すのは今となっては困難となってしまった。CDであれば現地にて購入か、個人輸入代行業者や中国物産専門店で何とか手に入るので媒体にこだわるならそちらを利用されたい。またオススメの歌曲などあれば筆者のTwitter(@dqnfr)にいつでもタレコミを、それでは!

■筆者プロフィール:岩田宇伯

1963年生まれ。景徳鎮と姉妹都市の愛知県瀬戸市在住。前職は社内SE、IT企画、IT基盤の整備を長年にわたり担当。中国出張中に出会った抗日ドラマの魅力にハマり、我流の中国語学習の教材として抗日作品をはじめとする中国ドラマを鑑賞。趣味としてブログを数年書き溜めた結果、出版社の目に留まり『中国抗日ドラマ読本』を上梓。なぜか日本よりも中国で話題となり本人も困惑。ブログ、ツイッターで中国ドラマやその周辺に関する情報を発信中。

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