松野豊 2021年5月24日(月) 8時20分
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「十四五」において中国ビジネスという観点から注目すべきものの三つめは、強大な国内市場の形成による経済成長である。写真はユニクロの商品。
「十四五」において中国ビジネスという観点から注目すべきものの三つめは、強大な国内市場の形成による経済成長である。
2013年に国家ガバナンス改革という構造改革政策を打ち出し、順調に離陸したようにみえた習近平政権だが、経済の成熟化に伴う成長鈍化に加えて、2018年の米国トランプ政権の誕生による米中貿易摩擦という難局にも直面した。そして2020年からは、新型コロナウイルス感染拡大も起こった。
コロナ感染問題は、中国経済に直接的な一定のダメージを与えたが、実際はそれをはるかに上回る間接的な影響を中国にもたらしている。それは特に欧米先進国等が新たな「中国リスク」を認識してしまったことである。
当初は、感染拡大に伴うサプライチェーンの分断、マスクや医療物資の中国依存の影響などが問題にされたが、やがて中国が感染拡大責任を真っ向から否定したり医療物資やワクチンを外交手段に使ったりしたことで、欧米諸国と中国との外交的な関係悪化が進行した。
世界からのこうした「中国リスク」認識は、中国経済にどのような影響を与えつつあるのだろうか。実はこれは短期的にはまだ見えてこないものだ。例えばコロナ感染下においては、中国経済はいち早く製造業などで生産回復傾向を見せたので、直近では中国の輸出額は増加している。
しかし海外から中国への直接投資には、今後ゆっくりと影響が出てくるだろう。全体額でみれば、中国の自動車産業がある程度活況なので、対中投資は減っているようには見えないが、先進国から中国への新規投資やハイテク品輸出は今後減少していく可能性がある。
米中貿易摩擦による中国半導体産業への打撃などをみるまでもなく、中国への新規の技術投資が減少すると、中国の製造業などが受ける影響は大きくなる。これは明らかに中国経済の持続的成長への足枷となるだろう。
そこで中国政府が改めて打ち出したのが内需拡大政策である。図1は、中国の名目GDPに占める消費支出(個人消費+政府消費)、資本形成(政府の公共投資や企業の設備投資)及び貿易黒字の割合の時系列変化を示したものである。
中国経済におけるいわゆる内需は、絶対量で見れば既に巨大なものになっている。しかし過去の先進工業国が辿ってきた経過と比較すると、経済全体に占める消費支出の割合は60%に満たず、先進国ではこれが70~80%あることを考えると、まだまだ拡大の余地があるということになる。
またこれまでGDP成長の主力であった政府や企業の資本投資は、近年投資効率が低下してきており、経済の持続的成長のためには、消費支出の安定的拡大が必須になってきているという事情もある。
大きな国内消費量をしっかり確保すれば、海外経済の影響リスクを減らせるし、国際貿易での主導権も確保できる。中国は、世界経済との摩擦に直面して、いわゆるかつての「自立自強」戦略に一部回帰しようとしていると言えそうだ。
これまで中国経済の内需拡大を阻害してきたのは、対外貿易などの外需や豊富な政府財政資金によるインフラ投資が大きかったからでもあるが、根本的には中国国内の所得や地域格差が広がり、所得分配が適正に行われていないことも大きな原因である。
中国政府は、国内市場の効率化、公正化を進めれば更なる内需拡大が可能であると考えた。そしてこれを「内循環」という言葉で政策に書き込んだ。また内循環がしっかりすれば、巨大な国内市場を背景とした対外貿易やサプライチェーンなどの「外循環」も高められると考えられるので、政策用語としては「双循環」という用語で表現されている。
さてこうした国内市場形成政策に関して、日本企業のビジネスチャンスは何か。これはある意味わかりやすいもので、中国の内需、特に貿易摩擦の影響を調整しやすい消費財をターゲットにすればよいだろう。
資本財においては、サプライチェーン安定化のために基幹部品の国産化が指向されていく可能性が高いが、消費財では、品質が高く生活環境の質的向上等に寄与するような製品に対するニーズが今後も拡大していくだろう。
2019年までの来日中国人による日本製品の爆買いは、まだ記憶に新しい。中国の消費者は質の高い消費財を求め、日本製品に多額の支出をしてくれるようになった。コロナ感染問題があって現状はこの動きが止まっているが、逆にネット販売の輸出市場は拡大している。日本企業は、中国の消費財市場に積極的に参入していくべきで、市場開拓の余地はまだまだ大きいと考えられる。
■筆者プロフィール:松野豊
大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。
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