吉田陽介 2021年2月7日(日) 14時0分
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眠い時、一息入れたい時、コーヒーを一杯という読者も多いのではないかと思う。いつもお茶を飲んでいるイメージの中国人だが、コーヒーを飲む人も徐々に増えてきている。
眠い時、一息入れたい時、コーヒーを一杯という読者も多いのではないかと思う。いつもお茶を飲んでいるイメージの中国人だが、コーヒーを飲む人も徐々に増えてきている。ショッピングセンターやビジネス街にはスターバックスやコスタなどのコーヒーショップをよく見かける。
■砂糖とミルク入りは当たり前?コーヒーを飲み慣れない20年前の中国人
私が中国での留学生活を始めた2001年は、コーヒーというと、たいていはミルクと砂糖が入ったインスタントコーヒーだった。私が留学していた大学の売店には、コーヒーが売っていたので、「コーヒーか、気が利いているじゃないか。よしもらおう」と思って注文したら、出てきたのはネスレの砂糖とルク入りが入ったインスタントコーヒーをお湯で溶かしたものだった。しかも値段も高く、3元もした。「粉とお湯を入れただけで3元か。どれだけぼったくってるんだ」と腹立たしくなった。
私より早く留学生活を始めた日本人留学生は、「あんなところでコーヒーなんて買うもんじゃない」とアドバイスしたが、まさに彼の言う通り。期待通りのコーヒーは出てこなかった。
この売店は決して私をだまそうとしたわけではない。コーヒーに対する認識が今ほどでなかったのではと私は思う。
当時の中国人学生はどうだったか。彼らはガラス製またはプラスチック製の「暖瓶」でお茶や白湯を飲む人が多く、ペットボトルに入ったジュースを飲む人も少なかった。当時の学生は「80後」。中国が豊かになり始めた頃に生まれたためか、節約を心がける学生が少なくなかった。校舎の廊下にはお湯を入れる機械が置いてあり、無料で飲めるので、何も高い金を出してコーヒーを飲む必要はない。
■中国人のコーヒー消費を促した消費の多様化
今の中国は当時よりも消費が多様化したため、選択肢が広がっている。これまでお茶を飲んでいた人も、コーヒーを飲む人が多くなった。たとえば、私が留学していた大学の近くのショッピングセンターのスターバックスは、留学当時、あまりお客が入っていなかった。わざわざ高い金を払って苦いコーヒーを飲もうという人が多くなかったからだ。だが、今はどこのスターバックスに行っても、コーヒーを楽しむ客が少なくない。
留学当初、中国人の家を訪ねたとき、お茶かコーヒーどちらがいいか聞かれることがあった。客に聞くくらいだから、まともなコーヒーが出てくるのかなと思って頼んでみたら、こちらの想像したものではなく、例のミルクと砂糖入りのコーヒーが出てきた。
どうして苦いコーヒーを飲まないのかと中国人の友人に聞くと、「ブラックって苦いじゃないですか。漢方薬みたい」と返してきた。その友人を喫茶店に連れて行っても、コーヒーをブラックで飲むことはなく、ミルクと砂糖をしっかり入れていた。
今は、コーヒーの風味を味わうために、ブラックで飲む人も出てきている。かつてはスターバックスのコーヒーは高いものだったが、今ではそうでもなく、味が良くないという人もいる。
■甘さよりも風味のよさへ、中国のインスタントコーヒーにも変化
今は、中国人の友人の家に行っても、ブラックのコーヒーが出てくることが多くなった。中国人のコーヒーに対する認識が変わったこともあろうが、今も中国のコーヒー市場で60~70%を占めるといわれているインスタントコーヒーが変化したことも大きい。
以前はスーパーに売っているインスタントコーヒーも、ネスレやマックスウェルの砂糖・ミルク入りのものが多かった。「特濃」と書いてあるものを買ったことがあるが、やはり甘かった。日本もそういう時期があったが、コーヒーが市民権を得られていなかったのだろう。
だが今は状況が変わっている。スーパーで売っているインスタントコーヒーはブラックのものも出てきている。もちろん、以前も日本のインスタントコーヒーも売っていたが、値段が60元ほどし、割高だった。今はネスレの甘いインスタントコーヒーの他に、ブラックのも売っている。値段も日本のインスタントコーヒーほど高くはない。
また、最近、「雲南コーヒー」も人々の支持を得ている。王毅外交部長も公の場で言及した中国産コーヒーだ。私がコーヒー好きなのを知っている中国人の友人に勧められたので、私も飲んでみた。日本で売っているネスカフェ・ゴールドブレンドよりは香りが強くないが、苦味がしっかりあり、苦いコーヒーが好きな人にはぴったりだと思う。値段もピンキリあるが、100元以下のものが多く、輸入物のコーヒーを買うよりお得だ。
こうしたインスタントコーヒーの多様化も中国人のコーヒー消費の変化を促している。
■眠気覚ましにコーヒー、今時の中国の大学生
今の学生はどうか。私は今、北京の大学で教えているが、学生たちの変化によく驚く。学生たちは、留学生時代に一緒に勉強した中国人学生のように、ガラスの瓶にお湯を入れて飲むという学生が少なくなり、コーヒーやミルクティーを飲んでいる学生が多い。私は学内のスーパーでコーヒーを買ってよく食後に飲んでいるが、学生に言わせれば、スーパーのコーヒーはまずいという。
「何を、俺の若い頃はな…」と若い人に嫌われるおじさんが言いがちな決まり文句を言いそうになったが、飲み込んだ。今の中国は消費が高度化し、これまで高かったものも、手が届く値段になったということだろう。
私の授業は午後が多いため、眠気覚まし(単に私の授業が眠くなるからかもしれないが…)のために、コーヒーを飲む学生が多い。だから、休憩時間になると、コーヒーの香りが教室のあちこちでする。
同世代の中国人教師に「今の学生、コーヒーをよく飲むんですね。私が留学した頃は、お湯かお茶だったのにね」というと、その教師はこう言った。
「そうでもありません。ミルクティーを飲む学生が多いです。コーヒーというと、社会人が飲むっていうイメージだそうで、コーヒーにはそれほど飲まないようです。」
なるほど。その教師の言う通りかもしれない。コーヒーを飲むのはたいてい会社では働いているビジネスパーソンが多く、お茶を飲むのは政府機関の職員が多いと一般には言われる。休憩時間の学生たちの行動をよく見ると、同世代の教師の言うことを裏付けるかのように、学内の喫茶店で買ったミルクティーを飲んでいる学生も少なくない。だが、前述のように、午後の授業にコーヒーを飲んでいる学生もいる。これは私が留学していた時代にはなかったことだ。私の時代の学生なら、そんな高いものを買うくらいなら、おいしいものを食べるか、ためになる本を買う方がいいと思うだろう。
今の中国人の消費は、学生も含め、「生活上のニーズを満たす消費」ではなく、「楽しむための消費」に変わっているのではないかと思う。私が感じた学生の飲む物の変化は中国の消費形態の変化の一部を表しているのではないかと思う。
■筆者プロフィール:吉田陽介
1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。
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