<コラム>韓国の親日派「チンイルパ」

木口 政樹    2019年8月11日(日) 10時30分

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親日派。日本の人が見れば「あ、そう、日本が好きなんだね」という軽い気持ちでこの漢字語を読むはずだ。ところでこちら韓国では「チンイルパ」という語は、タブー中のタブーなのである。資料写真。

筆者の住む忠清南道・天安市にある梨花フェニックス病院の理事長(経営者)であるハン・ジュヒさんという方と昼ごはんを共にした。ハンさんは、60代後半くらいの男性である。大手企業の会社員勤めをしたあとで退職してから病院の経営をはじめた人である。本人は医者ではない。日本では病院の理事長といえばたいていは本人も医者である場合が多いかもしれないが、韓国ではそうでないケースもけっこうある。

東京に位置するある病院と姉妹血縁の関係を結んでいて、最近その病院を見学してきていろいろのアイディアを得たという。筆者はハンさんと東京の病院との姉妹血縁を結ぶときの橋渡しをしただけである。見学の際、病院の方々から手厚いおもてなしを受けたみたいで、あまりにも感謝の気持ちが大きかったゆえ、誰かとその気持ちを分かち合いたいということで筆者に連絡がきたのであった。

食事をしながら現在の日韓関係、会社員時代の話、病院見学時の話、1代目の大統領から現在までの大統領の話などなど、話題は次から次へと尽きなかった。そんな話の中から、読者の方々にもおもしろそうだと思えるようなことを書いてみたい。

まずは孫の話。東京で仕事(見学、会議)をする前に、大阪に行った。孫をつれて。ハンさんは自分の子どもたちをアメリカで数年育て、中国でも2年過ごしたという。アメリカ駐在員や中国駐在員をやったからである。出張なら、ドイツ、イギリス、オランダシンガポール、ベトナムなど、世界の主な国はだいたい行っているというほど、あちこち足を運んでいる。世界のいろんな国を知ってそのうえで、孫の教育はなんと日本で受けさせたいと考えている。孫の親(つまり自分の息子・嫁さん)の了解は勿論得ている。

なぜ日本なのか。特に今のこの最悪の日韓関係のときに。誰でもそう聞く。筆者も聞いた。そのたびに彼はこう答えているという。「ノーベル賞をバンバン取っている日本という国でひとつ教育を受けたら、なんであんなにノーベル賞が取れているのか、すこしでもわかるのではないか」と。日本の教育のせいでノーベル賞を輩出しているのではないような気もするのであるが、京都大の理系あたりで教育をうければ、あるいは何かがちがっているのかもしれないな、なんていう気もするので、あながちこのハンさんの考えが理不尽だとは思わないし、是非日本で教育を受けてノーベル賞をとってほしいと筆者はまじめに思っているのだけれど、お孫さんはまだ小学校入学前。大阪で、小学校の入学についてあちこち出向いて行ってかけあってみたけれど、小学校はちょっと難しいということがわかったという。親でも誰でもいいけど保護者がいっしょに住むということが条件になっているみたいなのだ。中学、高校からなら条件がもうすこしソフトになるので、中高からかな、といっていた。(この部分、筆者にもよくはわからない。確認したわけでもないので右から左と読んでいただきたい)

お孫さんの話からわかるように、この方は完全に親日派である。親日派は韓国語の発音ではチンイルパとなる。「わたしは、チンイルパです」とはっきりと言う。親日派。日本の人が見れば「あ、そう、日本が好きなんだね」という軽い気持ちでこの漢字語を読むはずだ。ところでこちら韓国では「チンイルパ」という語は、タブー中のタブーなのである。禁句中の禁句なのだ。知人友人ら数人の前でだったら「ナヌン チンイルパヤ(オレは親日派だ)」ということはあるいはありうるかもしれない。しかし、大学の教室とか会社の会議室あるいは市民がおおぜい集まっている場でそんなことを言ったら大変なことになる。それほど、危うい語なのである。

日本の植民地の時代(1945年までのだいたい40年くらいの間)に、独立運動をやるのか、チンイルパでやるのかが、韓国では一人の人間の生き方においての一大岐路だったからだ。チンイル(親日)でやっていくということは、その当時はほとんど同胞を裏切って金や利益のために日本に身も心も売ってしまったという烙印を押されるようなものだったからだ。その伝統が今でも色濃く残っているため、チンイルパという語は無条件で嫌われる語になっている。

そのチンイルパという語を、ハンさんは口に出して言うのだ。もちろん聞いているのは筆者一人だからなんの問題もないのだけれど。ところで、彼の言うチンイルパというのは、優れているものは優れているものとして素直に学ぶべきであるし、進んでいることがあれば、それを習い、教えてもらうべきである。悪いものは悪いけれど、よきことはいいのである。たとえそれが日本のものであったとしても。ミソもくそもみんないっしょくたにして、日本否定、日本製品不買と叫ぶ韓国の同胞らがちょっとおかしいと感じている。今回の安倍氏のやり方には、さすがのハンさんもあれはちょっとやりすぎじゃない、という気持ちがあるけれども、だからといってデモを先導して日本否定にやっきとなっている人々にも納得がいかないという気持ちを強くもっている。だから筆者とも非常にウマが合って、2時間3時間の昼飯があっという間に過ぎてしまった。

ほかにもいろいろの話があるのだが、今回の文章はこれくらいにしようかと思う。ハンさんのような人がこちら韓国にどれくらいいるだろうか。筆者の完全な独断と偏見なんだけれど、おそらく20から30パーセントは下らないと考えている。日本否定の同胞たちをおかしい、こりゃちがう、と考えている韓国の人は結構多いのだ。このことを日本の方々にはぜひ忘れないでいただきたい。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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