<コラム>韓国の「オンマ部隊」

木口 政樹    2019年8月20日(火) 21時30分

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韓国にオンマ部隊という団体が存在するのであるが、オンマとは「お母さん」という意味なので直訳するとこれは「お母さん部隊」ということになる。写真はソウルの日本大使館前の慰安婦像。

韓国の第一野党は自由韓国党(ジャユウ・ハンククダン)という政党であるが、この党の院内代表が羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)というソウル大出身の女性である。ソウル大時代は、大学のミスなんとかにも選ばれるほどの美貌をほこっていたという話もある。このナ・ギョンウォン院内代表が8月6日の国会運営委員会全体会議で、日本の輸出規制措置関連の政府の対応を議論する中で「私たち日本」と話す場面があった。韓国語では「ウリ イルボン」という語を使ったわけである。

これは、韓国語ではもともと「ウリ なんとか」という語を多用する傾向があるのであるが、意味は「ウリ」=「わたしたち」ということなので、「わたしたちのなんとか」ということになる。つまり、「わたしたちの国」とか「わたしたちの学校」などとなるわけだ。韓国語では前者は「ウリ ナラ」となるし、後者は「ウリ ハッキョ」となる。

この「ウリ」という語の多用は、韓国語の一つの大きな特徴といってもいい。ナ・ギョンウォン議員は、無意識のうちにただイルボン(日本)というべきところを「ウリ イルボン」と言ってしまったわけである。

しかし時が時だけに、韓国でしかも韓国の国会の対日本対策を議論する場においての発言だけに与党をはじめとした文在寅政権の人々および、自由韓国党を除く全ての野党の大いなる反発をかってしまった。(当然かも)。

たとえば、民主平和党と正義党という野党は、「『わが日本』を代弁しようとするならば今すぐ国会議員職を辞退し『わが日本』に向けて去ってほしい」と揶揄しつつ、さらに「自由韓国党が引き続き国民の意思に逆らうなら国会を離れ、オンマ部隊のチュ・オクスン代表とともに日本に行ってほしい」などと強く批判している。

ここで出てきた「オンマ部隊」についても、一言言及しておこう。韓国にオンマ部隊という団体が存在するのであるが、オンマとは「お母さん」という意味なので直訳するとこれは「お母さん部隊」ということになる。ウィキペディアをみると、奉仕団体を自称する極右保守団体と出ている。このオンマ部隊、このところ日韓関係悪化にともなってニュースに登場する場面が増えている。この団体のアイデンティティがどこにあるのか筆者もよくわかっていないのだけれど、わかっている部分で簡単に言うと、弾劾された前の大統領朴槿恵(パク・クネ)を崇拝している団体といえようか。この人々の叫びも届かず前の大統領朴槿恵氏は弾劾され、今は刑務所にいるのだけれど。国政壟断(ククチョンノンダン)の裁判での判決は、罪がいくつも重なっているため、たぶん懲役30年とか40年とかという単位だったかと記憶する。裁判の場にまともに出てこないためその後の裁判は開かれていない。かといって確定となったわけでもないみたいで、朴槿恵氏の量刑がいくらなのか今は曖昧な状態にあると思う。とにかくこの朴槿恵氏を応援する団体という認識でいいと思う。

このオンマ部隊、8月8日午前、ソウル鍾路区(チョンノグ)の旧日本大使館前で「日本の安倍晋三首相に謝罪する」という発言のデモをやったため大使館前は一時パニック状態になった。オンマ部隊の周玉淳(チュ・オクスン)代表が、「文在寅政府が引き起こした経済報復であるため、韓国政府が謝罪しなければならない」と主張し、周りの市民たちが怒りに狂いながら抗議したからだ。チュ代表を保護しようとするオンマ部隊の会員らと、これに抗議する市民らのもみ合いが発生したのである。

チュ代表をはじめとするオンマ部隊の会員10人余りは旧日本大使館前で記者会見を開き、「日本政府が韓国をホワイト国から排除したのは、韓国政府が先に韓日請求権協定を破ったため」と主張した。彼らは「文在寅政府は、朴槿恵大統領のときにぎりぎりで導き出した従軍慰安婦関連の合意を一方的に破棄して、すでに賠償が終わった1965年の協定を覆した。これは日本に対する故意の挑発行為だ」と主張。また「日本は過去の日本ではなく、韓国を助ける同盟国であり最も近い友邦」と言った。さらに「日本はすでに数回(韓国に)謝罪した」と何度も主張した。そして、「国家間の信頼を裏切った文在寅政府は、日本政府に謝罪しなければならない」とした。

チュ代表はさらに「大法院(=最高裁)で判決が出たけれど、私はその裁判官が判決を誤ったと考えている」と主張した。「司法部の判決を否定するのか」という質問に対しては、「私がいつ否定したというのか。韓国というところは政府が法の上に君臨している。大法院がそう判決したなら文在寅政府が賠償しなければならない」と結んだ。

記者会見中、大きな声でチュ代表に向けて「売国奴・親日派(チンイルパ)は日本に帰れ!」と暴言を吐いていたある男性は、「あいつらがいた場所は清めなければならない」とし、記者会見をした場所に水を撒いたりもする場面もあった。同僚と一緒に現場を見ていた金某(34)氏は、「日本がすでに十分に謝罪したなんていう歴史歪曲までする彼らの主張を受け入れることは到底不可能だ」と語る。

日本の方々にとっては胸のすくような発言をやってくれていると思う。筆者の立場はもちろんこのオンマ部隊の主張とはだいぶちがったものなのであるが、こういう方々も韓国にはいるということをご承知いただいておいてもよろしいのではないかと考え、書いた次第だ。オンマ部隊。韓国語の音ではオンマ・ブデ。代表は周玉淳(チュ・オクスン)氏。記憶にとどめておいても妥当な名前であろうかと思う。

最近流行りのダイバーシティ(diversity)って、こういうことにも使っていいのではないだろうか。ダイバーシティの豊富な社会は、きわめて元気でタフな社会であるはずだ。不買運動は今後もますます激しくなっていくかもしれないけれど、韓国にもダイバーシティは生きていることを肝に銘じていただきたい。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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