<コラム>手榴弾に迫撃砲!幼稚園児も軍事教練

岩田宇伯    2019年9月1日(日) 15時20分

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中国の大学では新学期の授業に入る前に新入生たちに「軍事教練」が待ち受けている。なんと幼稚園でも軍事教練が行われている。

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●中国の新学期風物詩、軍事教練

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日本と違い、中国では新学期のスタートは欧米と同じ9月。新学期の授業に入る前に新入生たちには「軍事教練」が待ち受けている。法律で決まっているので身体に問題がない限りこれは誰も逃げられない。小中学校では整列や行進といった集団行動の基礎。高校ではもう少し進んで座学があったり、大学になると実際に格闘技や銃に触れることのできる軍事教練も登場する。以前、内モンゴルハイラルを夏の終わりに訪問した際、ホテルの隣がちょうど軍事教練中の高等中学(高校)で、うるさい号令や掛け声で昼寝もできず、しかたなく街中散歩に避難した。(画像1 軍事教練を終え下校中の生徒)

日本でも、小中学校で体育の最初の授業は整列行進なので、愛国教育、国防教育以外は体操服と迷彩服の違い程度と思っておけばよさそうだ。また、中国ではいわゆる「部活」がないので、仲間と困難を克服するといった共通体験を得られる貴重なイベントでもある。

●なんと幼稚園でも軍事教練

ある日、テレビで内モンゴルの赤峰影視娯楽ch『快楽宝貝』という幼稚園番組をなにげなく観ていたら軍事教練をやっていた。障害物訓練、塹壕戦ごっこ、救護班ごっこといった見た目だけ本格的で幼稚園児が喜びそうな内容だ。(画像2 『快楽宝貝』)

この『快楽宝貝』という番組、赤峰市地元幼稚園でのイベントを紹介する週1番組。このほかにも赤峰影視娯楽chには、小学生版『希望之星』、ガテン系版『すばらしい建設者』といったスベリまくり学芸会番組がラインナップ。筆者にとっては毎回脱力体験できる優良放送局だ(笑)。

さすがに幼稚園なので解放軍ドラマに出てくるような「丸太担ぎ」や「放水」はなかったが、幼稚園でもこのようなイベントが行われていることに興味を持った。内モンゴルのド田舎の幼稚園でも軍事教練があるのなら、おそらく他の地域でも流行っているはずだと思い、ここから筆者の幼稚園軍事教練に関する調査が始まった。

中国では高等中学(高校)が一部特区で義務教育化の試験運用をしているが、日本同様、幼稚園は義務教育からは外れている。そのためか、幼稚園の多くの軍事教練は新学期の9月ではなく、6月1日の「児童節」(子供の日)といった祝日、あるいは夏休み中のサマーキャンプイベントを中心として開催されているようだ。先日、こちらで紹介した『作曲家ショスタコーヴィッチが残した抗日遺産』の抗日学芸会同様、中国の動画サイトを漁ると父兄や幼稚園スタッフが撮影した軍事教練の動画が多数アップロードされている。

●ママと一緒、ちびっこ兵士

多くのそういった動画を観ているとプログラムのパターンがつかめてきた。まずは国旗掲揚と国歌斉唱ではじまる開会式のあと軍事パレード。(画像3 国旗掲揚)幼稚園児なので列もそろわず、おしゃべりばかりなのが可愛らしい。その後、いろいろな種類の障害物競走が繰り広げられる。玩具であるが、なかには手榴弾投げや射撃、迫撃砲も登場する。さすがに日本で同じことをやったら市民団体から猛抗議を受け炎上間違いなしの内容。「親子軍事活動」といった名目なので、多くは親子ペアの種目である。その間に、お遊戯や先生やPTAの広場舞といった出し物が登場する。(画像4 手榴弾)(画像5 戦車の次は迫撃砲)

このように軍事教練の名を借りた運動会としか思えないが、進行役には明らかに軍人と思われるスタッフが号令をかけたりしている。しかも何故かMCが異常に上手いのも謎である。

●アウトドア活動の一環としても

もう一つのタイプ、サマーキャンプ軍事教練は日本の幼稚園でもやっている「お泊り会」に近い。整列、行進、障害物競走などの軍事教練のほか、ピクニック、キャンプファイヤー、お料理会、といった内容で、制服が違う程度でボーイスカウト活動とあまり変わりがない。ちなみに中国はボーイスカウトの元締め世界スカウト連盟には未加入で、在中外国人の一部が細々と活動している程度だ。(画像6 キャンプ)

国民所得も上昇し、それに合わせそもそも義務教育ではない幼稚園も増加、親もどこの幼稚園に入園させるか気になるであろう。幼稚園側もいかに園児を集め経営を安定させるか悩みどころ。そのため独自カリキュラムや豪華設備などをアピールし、その一環として、こういったアウトドア行事を企画している。また、おそろいの迷彩服やグッズ販売で多少なりとも幼稚園側にも儲けがでるので、イベントに親が満足すれば、幼稚園側とwin-winの関係でもある。

●軍事教練を引き受ける専門業者

MCのやたら上手い軍事教官だが、おそらく軍事研修会社から派遣されたスタッフの可能性がある。中国各地には軍事教練を軸としたイベント、研修を引き受ける業者が多数存在する。中国の転職サイトを見たら地域によって差があるが、教官の月給は3千元から8千元ほど、退役軍人の受け皿ともなっている。募集要項には軍歴5年以上必須、身長180以上(女子160)、特殊部隊出身者優遇などとあり、元軍人以外は門前払いのようだ。(画像7 転職サイト)

このような軍事研修会社、この稿で紹介した学校の軍事教練はもとより、マスゲームの指導、企業研修、はたまたサバゲー研修、バーべQイベントなど幅広くメニューを展開している。軍隊のノウハウを用いた集団活動の管理メソッドが得意のようだ。企業研修は当然のことながら「モーレツ研修」「地獄の訓練」といった日本でいえば前近代的なブラック研修を思わせる。(画像8 業者サイト)

富士宮駅前で大声で歌わされる日本の研修会社とこのような中国の軍事研修会社、どちらの研修がキビシイか、どなたか鋼のメンタルの持ち主に両方参加していただき感想を聞いてみたいものだ。あ、私はムリです(笑)。

■筆者プロフィール:岩田宇伯

1963年生まれ。景徳鎮と姉妹都市の愛知県瀬戸市在住。前職は社内SE、IT企画、IT基盤の整備を長年にわたり担当。中国出張中に出会った抗日ドラマの魅力にハマり、我流の中国語学習の教材として抗日作品をはじめとする中国ドラマを鑑賞。趣味としてブログを数年書き溜めた結果、出版社の目に留まり『中国抗日ドラマ読本』を上梓。なぜか日本よりも中国で話題となり本人も困惑。ブログ、ツイッターで中国ドラマやその周辺に関する情報を発信中。

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