黄 文葦 2019年11月29日(金) 22時20分
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10月1日、中国の「建国記念日」。歴史的な低支持率にあえぐ香港の林鄭月娥行政長官は北京の天安門広場で行われた軍事パレードに出席し、兵士たちが行進する様子を笑顔で見つめる姿がカメラに捉えられた。正直言うと、その笑顔を見て、違和感を覚えた。写真は香港。
今年10月1日、即ち中国の「建国記念日」。歴史的な低支持率にあえぐ香港の林鄭月娥行政長官は北京の天安門広場で行われた軍事パレードに出席し、兵士たちが行進する様子を笑顔で見つめる姿がカメラに捉えられた。正直言うと、その笑顔を見て、違和感を覚えた。「こんな時に愛想ある笑顔を見せている場合じゃないよ」と言いたくなった。周知のように、中国建国記念日の際、香港での市民デモがさらに激しくなっていた。 本来、その敏感な節目の際、行政長官はお祝いの雰囲気の北京にいるのではなく、香港で市民を見守り、しっかり対策をとるべきではないか。その表情は間違っているのではないか、心なさが現れているのではないか、と問いたい。
この前、林鄭行政長官は初めての市民との対話集会を開いた。その時の苦しくて当惑した表情も印象的であった。林鄭氏は冒頭で「いまの難しい状況を打開する責任は政府にある」と述べたが、市民代表の怒りに対し、何も言い返せなかった。無力感が垣間見えた。香港情勢がますます厳しくなってきた。当初、香港政府は「逃亡犯条例」改正案をいきなり提出させ、市民に寄り添う姿勢を見せなかった。香港政府は、香港市民への説明責任より、中国政府の機嫌をとることを優先したらしい。優先順位を間違ったのではないか。さらに対応の不手際がデモを長期化させたと考えられる。
テレビで見る日本の政治家はほとんど無表情で、表情から心情を読みにくい。ある意味で一喜一憂しないことは、政治家の基本的な素質だと考えられる。国際政治の舞台の上で、政治家の表情から外交姿勢が見える。今年6月に大阪で開催されたG20サミットのセッション3開始前に、安倍晋三首相が韓国の文在寅大統領と握手を交わした後、厳しい表情を見せた。それは、日韓関係の険しさを示すものであった。政治家の表情の使い方から国の政治の在り方が見られるかもしれない。アメリカのトランプ大統領の表情はいつもみるみる変わって、感情があふれ出ている。怒っても喜んでも大事なのはその表情から余裕と自信が見られること。世界の政治家の中で、オバマ前大統領の話し方と表情が一番魅力的だと私は思う。オバマ氏は穏やかな表情をもって、情熱的な言葉を発信し、有権者に安心と信頼を与えようとする。
話を香港に戻す。11月24日、香港で行われた区議会議員選挙で民主派が圧勝した。民主派が過半数に届いたのは香港が中国に返還されてから初めてのこと。自由と民主の風は確かに力強く示された。選挙という明確な形で民意が示されたと受け止めて、中国政府と香港政府が対応するべきである。数カ月の混乱局面、特に香港政府の責任は重大だと思われる。これから行政長官はどんな表情を香港市民に見せるだろうか。世界が注目する中、一刻も早く香港の厳しい状況を収束するよう願わずにいられない。ただし、行政トップが大衆に対し、余裕の表情を見せられなくなったら、むしろ一度身を引くべきではないか、あえて言ってみたい。
■筆者プロフィール:黄 文葦
在日中国人作家。日中の大学でマスコミを専攻し、両国のマスコミに従事。十数年間マスコミの現場を経験した後、2009年から留学生教育に携わる仕事に従事。2015年日本のある学校法人の理事に就任。現在、教育・社会・文化領域の課題を中心に、関連のコラムを執筆中。2000年の来日以降、中国語と日本語の言語で執筆すること及び両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。Facebookはこちら「黄文葦の日中楽話」の登録はこちらから
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