京都アニメーション（京アニ）は20日、公式ウェブサイトに「お知らせ」を掲載し、7月18日に発生した放火殺人事件を受けて開設した支援金預かり専用口座を12月27日をもって閉鎖すると発表した。同社は「支援金は関係者と協議のうえ、大切に用いさせていただきます」とし、今後は事件に関する金銭等の直接的な経済支援は受け取らないとの意向を示した。

そんな京アニに特別な思いを寄せる人たちが中国にいる。同国初のACG（アニメ、コミック、ゲームの総称）楽団として活躍する「帝玖管弦楽団」だ。彼らがYouTubeで公開した映画『君の名は。』のオーケストラアレンジを演奏する動画はこれまでに140万回以上再生されるなど、大きな注目を集めている。そして、楽団が演奏する曲の中には京アニが手掛けた作品に関するものも多い。楽団のメンバーに思いを聞いた。

■京アニは「先生」のような存在

「京アニは私をACGの世界に導いてくれた先生のような存在です」と語るのは団長の711さん。2006年に京アニが手掛けた『涼宮ハルヒの憂鬱』に心奪われたといい、「SOS団の団長を務める涼宮ハルヒは長い間私の憧れでした。子どものころに乾いた生活を送る中で、いつも彼女のような豊かで多彩な生活を送れたらと想像していました」と話す。

特に印象深い作品には『響け！ユーフォニアム』を挙げた。幼少期からコントラバスを習っていたという711さんは、「楽器を学ぶ高校生の生活が本当にリアルに再現されているというのが最初の印象です。私も登場人物と同じような、苦しくも青く美しい学校生活を過ごしてきましたが、それが作中のストーリーと怖いほどに一致していて、作品を見るたびに自分が練習していた時の光景を思い出します」と語った。

楽団の創始者で指揮を務める弦上さんが数ある演奏曲の中で「個人的に一番好き」と挙げたのは、京アニの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の曲だった。2人を含め、楽団には京アニに特別な思いを抱くメンバーが少なくないという。

■事件の日は奇しくも…

放火事件の一報を聞いて楽団のメンバーはどう感じたのか。711さんは「信じられませんでした。長い時間、京アニとこの恐ろしい事件とを結びつけることができませんでした」と振り返る。「当時、私は修士論文の準備をしていたのですが、事件を聞いて数日間、何もする気が起きませんでした。亡くなる方が一人また一人と増えるのに、自分はそれを止めることができない」と無力感にさいなまれたことも明かした。

その後、711さんは何かできる支援はないかと探し、あるネットユーザーが募金活動を行っていることを発見。ダイレクトメールを送って自らも参加した。当時海外にいた711さんは、「わずかでしたが助けになればと思って」と中国の銀行口座に残っていた人民元を残らず寄付したという。

他のメンバーにも悲しみが広がっていた。弦上さんは、「事件当日の午前にこの知らせを聞いてから、たくさんのメンバーが悲しみと怒りの中にいました」と語る。事件があった週にリハーサルを予定していたのが、奇しくも京アニ作品である『けいおん！』の挿入曲と『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の組曲だった。メンバーからは「感情があふれて（演奏中に）涙が出てしまうから」と楽曲の変更が提案された。しかし、最終的に予定していた2曲を演奏して、事件の犠牲者に捧げることにしたという。

711さんは「なぜ彼らなのか。世界に美しいものをもたらす仕事をしているのに、なぜ世界は彼らにこのような仕打ちをするのか」と無念さをにじませる。青葉真司容疑者に関する情報が明らかになるにつれて怒りが沸いてきた。厳罰に処してほしいという気持ちもあるが、「どれだけの罰が下されても、亡くなった方の命に代えることはできません」とやるせない胸中を明かした。

■立ち上がる京アニに感動

今年10月、東京都千代田区の参議院議員会館で行われた「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟」の総会に出席した衆議院議員のいさ進一氏が、自身のツイッターアカウントで「（京アニは）世界から頂いた寄付は事業再開には使わず、すべて遺族や負傷者、ご家族のために使うとのこと。会社としては、公的支援を含めて外部支援を受けずに、自らの足で歩み始めます」と報告した。

これを聞いた711さんは、「京アニの温かさの中にある強さを感じた」といい、「負傷した方々が正常な生活や仕事に戻れないのではないかと心配していましたが、報道でスタッフの方が現場に戻られたこと、そして映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が予定通り上映されることを知り、深く心震え、感動しました」と語った。

■京アニへ届けたい言葉

最後に、京アニへのメッセージを聞いた。弦上さんは、「京アニの作品は、いつも希望と愛と青春の力が満ちあふれていました。世界にこれほど美しいものをもたらしてくれた芸術家たちが、こんな形で夢への歩みを止めなければならなかったなんて。この事実を思うたびに、これ以上ないほどの痛惜の念に駆られます。犠牲となった先生方が、京アニが創り出した美しい世界の中で引き続きご自身の夢を追いかけられることを祈ります。また、負傷された先生方の一日も早い回復を祈ります」と語った。

711さんは、「京アニは私や多くの人の夢が始まった場所です。世界中の大勢の人々が皆さんを応援しています。私たちは、皆さんが多くの作品を通して私たちの心を豊かにしてくれたことに感謝しています。安心してください。私たちはいつまでもそばにいます。亡くなった方のご冥福、そして負傷された方が強くあられることをお祈りします」と話した。

京アニを愛し、心から感謝し、リスペクトする楽団の思いはきっと被害に遭われた方々に届くだろう。（取材/北田）