<コラム>徹底攻略!ウワサの習近平アプリ『学習強国』

岩田宇伯    2020年1月13日(月) 20時20分

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2019年1月、習近平主席の思想を教化するアプリが登場したとのニュースが駆け巡った。

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●現代のデジタル『毛沢東語録』と話題になったスマホアプリ

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2019年1月、習近平主席の思想を教化するアプリが登場したとのニュースが駆け巡った。メディアによっては、混乱を極めた文化大革命時代に紅衛兵がバイブルとしたあの『毛沢東語録』になぞらえ、「現代によみがえったデジタル『毛沢東語録』」といったフレーズも。

大手通信社、新聞社などが、その目的や危険性について報道していたことは皆さんご存じのとおり。直近であれば2019年10月に記者に向けメディアパスの発行に関し『学習強国』の·クイズに答え一定以上の得点獲得を必須とするといったことが報道された。

筆者も『学習強国』リリース後、しばらくしてから、面白半分にスマホにインストール、たまに習近平クイズに答えたりして遊んでみた。ところが、どのメディアも「危険」、「ヤバい」、「習近平主席への忠誠心」としか報道せず、コンテンツに関しても伝聞レベルの内容ばかり、実際に記者がアプリを操作してみたのかも不明な記事がほとんどであった。あとは「調べてみました」系の記事がいくつか見受けられたが、定番の「わかりませんでした」で終わっているものばかり。そこで、今回は『学習強国』暦9か月の筆者がインストールからその幅広いコンテンツまで徹底解説したいと思う。

●あらゆるリスク覚悟のインストール

ざっくりと、ダウンロードとインストールを解説してみたい。まず、アプリをダウンロードしなければならないのだが、現在のところGoogleのPlayストアには登録は見当たらない。筆者家族のiPadで試してもらったが、アップルのappストアでも見つけられない。日本においてはandroid、iOSとも公式のアプリストアからのインストールは無理のようである。

筆者のスマホがandroidなのでそれに沿った説明となるが、百度で「学習強国 下載」と検索し、数多く表示される中国のapkサイトのどこかから『学習強国』をダウンロードする。たぶん、検索順位上位のサイトであれば、みんなが利用しているサイトなので、あまり迷う必要はないと思う。次にダウンロードした『学習強国』apkファイルをインストールするのだが、もちろんサードパーティ製アプリのインストールを許可しなければならない。ダウンロードフォルダの該当apkファイルをクリックすれば、勝手にインストールが始まる。

そして、いよいよユーザー登録だ。アプリを起動するとログイン画面となるので、新規登録を意味する「新用戸注冊」からユーザー登録画面を表示させる。必要事項を入力のうえ、スマホの電話番号を入力、規約同意をチェック。ここで、スマホにSMS認証コードが送られてくるので、その番号を入力し認証を完了させる。さらにログインパスワードの設定をして、とりあえずは使える状態になる。

サードパーティ製アプリのごくありふれたインストールなので、言葉の壁以外はそれほど難しくはない。これらの手順は百度で「学習強国 安装」と検索すれば数多くのガイドが出てくるので参考にされたい。電話番号の登録で多くの日本人は躊躇しそうだが、最近のアプリはSMS認証が必要なものが多いので、逆に考えれば「なりすまし」防止などの対策がとられている証ともいえる。野良アプリ全般にいえることだが、何が仕掛けられているかわからないので、そこは人柱精神と自己責任の覚悟を持って臨んでいただくほかない。また、中国政府に目をつけられている法輪功系のニュース大紀元では、2019年10月16日の記事で「中国共産党思想学習アプリに「乗っ取り」機能搭載か ユーザー「デジタル手錠」」と、かなりの警戒を促しているので、怖かったらやめましょう。冒険には引き返す勇気が必要なのだ。当たり前のハナシであるが、インストール、使用に関し筆者は一切責任を負えないので、試したい方は熟考、そして腹をくくっていただきたい。

●早速使ってみよう『学習強国』

『学習強国』を起動すると『論語』の有名な一節「学んで而して時より之を習わす」とともに水滴が落ちるアニメーションのイントロが表示される。とにかく勉強しろということらしい。そしてトップメニューが表示される。いちばん上の赤い部分は検索窓や設定にアクセスする機能メニューなので後述するとして、画面一番下、5つのアイコンが並んだ部分がメインメニュー、上部の薄い色のメニュー(前述の画面上部赤い機能メニューの下)が、それらのサブメニューとなっている。(画像1)

メインメニュー

赤丸の「学習」アイコンがトップメニューとなる。

「強国通」はSNS、「百霊」はショートムービー、「電視台」はテレビ、「電台」はラジオとなっている。それぞれのメニューを解説していきたい。

「学習」

ここがとにかくポータルメニュー、ログイン後、最初に表示されるのは「推薦」メニュー、習近平主席に関するニュースを筆頭にオールジャンルのレコメンド記事が表示される。なかでもタイトルが「毎日XX」となっているものは、天気、名所案内、歌、名言集など短い記事が多いので手軽にポイント獲得できる。

そして、サブメニューは32もある。メインはニュース関係となりヘッドライン、総合、プレスリリース、スポーツ、科学など細かくジャンル分けされ、新華社や人民日報をはじめとしたマスコミからのニュースソースの提供を受け掲載している。中国のマスコミが共産党支配下なのをうまく生かし、すべて集めてポータル化したような形である。くだらない芸能ニュースや広告がないぶん、スッキリしているのも使い勝手が良い。珍しいところでは、党中央や各地の「人事」ニュースといったものも。(画像2)

「強国通」

こちらはSNSエリア、筆者の場合、『学習強国』の知り合いがいないので、アンケートの通知が表示されているだけである。上の赤い部分のノートのアイコンは「LINE」の「友だち追加」ページに近い構成だ。友だちとグループが表示される。「+」のアイコンはQRスキャン、電話、チャットへのショートカットとなっている。

「百霊」

ショートムービーコーナー、20秒から長くても5分ほどの映像が多数用意されている。ポイントを稼ぐには手っ取り早いコーナー。ニュース、番宣、歌などさまざまあるが、ここはサブメニューの「観」で中国の美しい風景を、「美食」でグルメを堪能しながらポイントゲットだ。

「電視台」

習近平主席の談話などが充実した動画コーナーだ。CCTVのニュース番組『新聞聯播』もサブメニューで独立している。また、CCTVの全チャンネル、省級衛視のストリーミング放送も試聴可能。中国共産党史から自然科学までカバーするオールジャンルのドキュメンタリーにはじまり、映画、ドラマと盛りだくさんだ。拙著『中国抗日ドラマ読本』にて紹介したカンフー抗日ドラマ『新猛龍過江』もラインナップ、トンデモ作品なのに大丈夫かと思ってしまう。他に、解放軍、農村、恋愛ドラマまでよりどりみどりで、観始めたら時間の経過を忘れそうだ。また、先日こちらに寄稿した『Hip-Hop、アイドル、さらにはシティポップまである人民解放軍軍歌』で紹介した軍歌MVやマニア向けの軍事ニュース映像も。(画像3)

「電台」

こちらは音声中心のラジオコーナー。CRIなどのラジオ放送だけではではなく、マルクスの『共産党宣言』や習近平主席の著作朗読サービス、民謡、京劇、漢詩といた伝統的なものや小学生向けの英語教室など、これまた幅広いコンテンツを用意している。紅色経典といわれる古い共産歌曲も豊富にある。また、ほかのメニュー画面に掲載される新聞記事などは、ほとんど音声付きと親切UIである。(画像4)

●話題の習近平テストはマイページに

画面上部の赤い部分はどちらかといえば機能的なメニュー。検索窓は今や当たり前となったQRコードスキャン機能搭載、その隣の数字は累計ポイントだ。「私的」というのがマイページへのショートカット、マイページを開くとさらにアイコンが並んだメニューが表示される。それぞれ解説しよう。(画像5)

「学習積分」

ここは今まで積み重ねたポイントを分析できるページ。コンテンツのタイプごとに達成率がグラフ表示され、未達のところは読むべき記事へのショートカットが表示される。またポイントは「点点通」という電子マネーに交換でき、『学習強国』内のECサイト「強国商城」にて商品購入できる仕掛けとなっている。ポイント合計のすぐ下に「強国商城」へのショートカットが用意されているあたりさすがEC大手のアリババ開発アプリだけのことはある。(画像6)

「強国商城」

ゲットしたポイントで買い物できるECサイト。置いてある商品は書籍、新華ネット書店の商品券、電信各社のパケットだ。それにしても書籍が6種類だけとは商品数が少なすぎる、もちろん誰も欲しがりそうもないクソマジメな本ばかりだ。(画像7)

「我要答題」

中国の共産党員や公務員が毎日やらされているという噂のテストは「我要答題」の中にある。「毎日」のほか「毎週」の各5問の定期テスト、10問の難題ばかりのカルトクイズ「専項」、間違えたらその場でゲームオーバーの30秒連続クイズ「挑戦答題」が待ち受けている。「挑戦答題」以外はヒントへのショートカットがあり「ズル」が可能、4択ぐらいなら野生のカンでなんとかなりそうだが、穴埋め問題はヒントを見ないと回答が困難である。(画像8)

「我要吐槽」

ここはご意見コーナー、機能に関するリクエスト、バグ報告、内容に関する意見を投稿できる。

「強国視類会議」

なぜかテレビ会議システムのミニプログラムが組み込まれている。何のために使うかナゾ。職場の上長が成績不振者を激ヅメするのに使うのだろうか?

「学習報表」

いわゆる通信簿である。獲得ポイントのほか、「段位」や全国順位が表示される。おそらく職場などのグループ学習では上長がこれを見て個別指導しているのだろう。

「団円」

筆者のスマホでは何も表示されないのでナゾである。

「国慶直播賞品」

国慶節のスペシャルイベントでなにか賞品を貰えたようだが、現在何も表示されないのでナゾ。

「新聞採編学習」

これが噂の記者向けテスト。これに通らないと記者証が発行されないので大変だ。練習問題の「題庫練習」と本番の「錯題本」をクリアして合格だ。ちょっとやってみたが、中国政府のマスコミ政策やジャーナリズム論を理解していないと「我要答題」の「専項」クイズレベルで難しい。(画像9)

「我的紅包」

気になったので観てみたがアリペイで送金できるようだ。成績優秀者に職場の上長が送ったりするのだろうか?

●ポータルとして使える『学習強国』だが

さて、ここまで『学習強国』のコンテンツを解説してきたが、意外と使えるという印象だ。ありとあらゆる機能とコンテンツを盛り込んだため、中国ウォッチャーにはポータルとしてとても便利な造りとなっている。マジメなネタや暑苦しいネタはこのアプリ1本で十分。しかも毎日、新華社、人民日報、CCTVといったニュースソースから絶え間なく記事が掲載され続けているので、アーカイブとしても使える。

逆に記事数が膨大すぎて、迷子になりかねない心配もある。さらに最近は中国各省「平台」のコンテンツも増え、そこにもローカルニュースや地方の政局が次々掲載されるので、正直個人では追い切れないボリュームとなっている。実際、中国で『学習強国』を義務としてやってる共産党員の人は、このあまりに膨大な記事チェックやテストに疲れないのか気になってしまう。

習近平主席礼賛アプリかというと、少々微妙だ。結局は党中央や中国のメディアが発行した記事を集約しているだけ、よって新華社や人民日報の公式サイトと同じような内容となるので、中国メディアをいつも見ている人なら、並んだ記事はまったく普段の中国共産党の宣伝風景。新興宗教の機関紙のように、習近平主席のニュースで埋め尽くされるのは、ほかの中国メディアと全く同じで「今さら」感がある。ただし、各記事に必ずあるコメント欄は記事に対する礼賛コメントばかりで、反論やいわゆる「クソリプ」はまったく見かけない。コメントでポイント獲得できるのと、実名のため周りの目やアプリ監視を避ける意図なのか、気持ち悪い馴れ合いコメントばかりとなっている。「食べログ」や「アマゾン」のレビューのように長々と賛歌を披露している熱心な共産党員が居てもよさそうだが、すべてのコメントが短文でコピペっぽいのも味わい深い。投稿してるユーザーもマジメにアプリに付き合っている様子はなく、かなりテキトーな様子である。ためしに「光復香港」、「小熊維尼」などヤバイキーワードを放り込んだらどうなるか興味がある。アカBANだけで済めばよいのだが。(画像10)

読者の皆さんが最も気になるであろう『学習強国』アプリによる「乗っ取り」やスマホ「監視」であるが、今のところ変な動きをしたなど、気になるところはない。いずれにせよ、既にGoogleやAmazonをはじめとした多数のベンダーに個人情報を送っているので、今更気にしていないというのが筆者のスタンスだ。この点が気になる方には『学習強国』をはじめとした中華アプリには近づかないことをオススメする。

ものごとには両面あるのは『学習強国』も同様。すこし落ち着いて、斜め上から俯瞰することも時には必要だ。そして次は斜め下から覗いて、ヤバそうなところを再確認し全体像を把握。なにごともベネフィットとリスクを十分比較したうえで、進む路を決めよう。はい、リスク大を選びハズレを引きがちな筆者です。『学習強国』で変な動きがあれば筆者のTwitter(@dqnfr)にて随時レポートするのでお楽しみに。

■筆者プロフィール:岩田宇伯

1963年生まれ。景徳鎮と姉妹都市の愛知県瀬戸市在住。前職は社内SE、IT企画、IT基盤の整備を長年にわたり担当。中国出張中に出会った抗日ドラマの魅力にハマり、我流の中国語学習の教材として抗日作品をはじめとする中国ドラマを鑑賞。趣味としてブログを数年書き溜めた結果、出版社の目に留まり『中国抗日ドラマ読本』を上梓。なぜか日本よりも中国で話題となり本人も困惑。ブログ、ツイッターで中国ドラマやその周辺に関する情報を発信中。

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