高野悠介 2020年2月15日(土) 7時30分
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新型肺炎の防疫体制(抗撃疫情)が、マクロ経済に与える影響について、発信が続いている。もちろん中国メディアには、人々の不安を煽るようなヘッドラインは見あたらない。写真は武漢。
新型肺炎の防疫体制(抗撃疫情)が、マクロ経済に与える影響について、発信が続いている。もちろん中国メディアには、人々の不安を煽るようなヘッドラインは見あたらない。代表的な言説を見てみよう。
■春節休暇期の影響は(小)
2003年SARSの経済への影響を正確に予測したことで知られる、北京大学経済学院のS教授が、春節の消費動向について発言した。従来、春節前には各社大掛かりなセールを打つ。儀礼上(贈答品)の必要や、一族の集まりのため、民衆はこぞって春節用品を購入する。それが防疫体制入り以来、消失してしまった。この時期以外に販売するのは難しく、業者には在庫が積みあがった。
一般に春節期間2週間の個人消費は、年間の8%を占める。そのうち儀礼的商品は3分の1とみられている。この計算なら、消費の減少により1兆元(16兆円)の受注残が残る。このうち60%は、徐々に消化していけるだろう。純損失は4000億元(6兆6000億円)くらいだが、防疫用品の生産、消費の特需で多少相殺される。すると短期(45日間)の防疫体制が、中国の2020年GDPに与えるマイナスは0.4%を超えない。国民経済への影響は、巨大とまでは言えないと分析している。
■中小企業への影響は(大)
次は官製メディア「経済日報」の論調を見てみよう。重大な突発事件が発生すれば、経済発展に“短期的”なマイナス影響は避けられない。武漢封鎖により、人の流れは制限され、企業は生産停止に追い込まれ、甚大な打撃をうけるだろう。しかし、防疫体制の解除による自然反発もまた大きい。下半期の中国経済は緩やかに回復し、長期的な成長軌道にもどると強調している。
ただし、中小企業は厳しい、と認めている。春節休暇の延長、操業再開やプロジェクトの遅延だけでも、キャッシュフローへの影響は大きい。すでに飲食、観光、エンタメ産業などは、ダメージを受けている。今後中小メーカーと中小サービス業は、危機的状況に立ち入る可能性がある。
そのため、特定の地区、企業、業種に対しては、税務、金融、社会保険等でサポートが必要と説く。すでに、中国宏観(マクロ)経済研究院は、銀行は実体経済に合わせ金利を減免し、企業の財務コストを下げるよう提言している。資金のショートによる連鎖倒産は、阻止しなければならない。
■「危」を「機」に
そして危機は機会に転化し得る、とも指摘している。短期的なマイナス影響の中に潜在する“積極因素”に目を向けようというのだ。
マクロ経済研究所は、防疫体制下の緊急措置の多くは、効率的な現実解決の手段だった。つまり着眼点の優れたソリューションなのである。
ただしそれは、短期的視点の粗放な投資主導型であってはならない。ゾンビ企業の救済ではない。中長期的な産業構造高度化に資するものであるべきだという。人口流入都市の基礎インフラ、道路、教育、医療等に関するものである。これらの整備は、潜在成長力のアップにつながるからだ。
具体的には、自動化、人工智能、新エネルギー、新素材、5G、量子通信、オンライン医療、遠隔教育等を挙げている。
■まとめ
しかし、危機を機会に変えよう、の内容は、これまでの主張と何ら変わらない。これを機に早めようというだけである。
経済日報は、防疫体制を経験した中国経済は、リスク対応能力と強靭さを増しているはず、と結んでいる。現実にネット通販やゲーム業界には特需が吹いている。彼らはより洗練されるはずである。
それより経済成長率目標に注目したい。2020年は、2010年比GDP2倍という目標の達成年だ。その辻褄を合わせるべく、ここ数年、四苦八苦していた印象だ。しかし、新型肺炎は、S教授の言うように、少なくとも0.4%のGDP下押し要因になる。すでに達成は困難となっている。それをすんなり認められるかどうか。苦境の今こそ、成長率のトラウマから脱却するビッグチャンスだ。一旦清算してこそ、新しい展開が開けると思うのだが。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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