黄 文葦 2020年2月3日(月) 23時0分
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経済発展を続けてきた中国は多くの国と人々に経済的な恩恵をもたらしたかもしれないが、今回の新型コロナウイルスは世界中に多大な恐怖と混乱を撒き散らしてしまった。写真は武漢。
17年前、私が大学院でマスメディア専攻を勉強していた頃に取り組んだ修士論文のテーマは「中国マスメディアにおける批判力の『量』と『質』」であった。主にSARS報道を例として、中国マスメディアの姿勢を分析した。
長期間にわたって、「宣伝機器」であった中国マスコミの実態を痛感し、一センチずつ言論自由の空間を開拓していくジャーナリストたちの信念に感銘をうけていた私は、SARSが流行していた期間中、かつてないほどマスメディアの発した「情報公開」、「知る権利」に対する要求の強さを見て、修士論文のテーマを決めた。さらに、現代中国におけるマスメディアの批判力と政治民主化の過程をさらに詳細に検証することは、私には一生のテーマになると考えた。
17年前の数カ月間、私はSARS報道を研究。最初政府が情報隠蔽をした。その時、大胆なメディアが現われた。雑誌「財経」および新聞「新快報」、「中国青年報」、「南方週末」などマスメディアが情報公開に消極的な当局の姿勢を批判した。メディアが客観的な立場で報道を行い、政府・権力の立場ではなく、中立的な立場で客観的に権力に対して批判を行い、一斉に情報公開と政治体制改革を求めていた。
17年前、一人の英雄がいた。軍隊の退職医師蒋彦永さんがSARSの事情を書いてアメリカの週刊誌「タイムズ」に投書した。そして、蒋さんが「タイムズ」の取材を受け、感染者隠しの実態を証言した。「タイムズ」の特ダネ記事は中国語に翻訳されてネット上に流れ、中国国内でも広く知られることとなった。
残念ながら、17年経った今、政府の隠蔽体質は変わっていない。17年前と同じ、「社会の安定」を理由に言論統制を徹底する。17年前のSARSを忘れたのだろうか。政府が相変わらず情報を隠す。今回、新型肺炎の感染拡大は完全に「人災」だと言える。その代価はあまりにも高い。2月2日の時点で、新型肺炎の感染者数が2003年5327名のSARS患者を大幅に超え、14000人あまりになった。
2019年末に湖北省武漢市で新型肺炎の集団感染が発覚した直後、市の公安当局が「デマを流した」として市民8人を摘発した。その後、8人全員が現地の医師であったことが判明した。「デマ」とされた内容とは医師同士がグループチャットで事態の深刻さに警鐘を鳴らすものであった。17年前と同じ、責任感の強い医師が情報を発信した。しかし、今回は「8人の蒋彦永」が出ても、弾圧された。WeChatのモーメンツでは人々の恐怖と怒りが噴出しているにもかかわらず、マスメディアは沈黙している。時代が後退したのではないか、と慨嘆せずにいられない。
何故、いまだに政府の役人が現場の医者たちの声に耳を傾けようしないのか。科学精神に基づいて、判断を下すべきだろう。人を権力で拘束しても、ウイルスを拘束することはできない。言論コントロールの力をウイルスのコントロールに使えればいい。感染の蔓延を防ぐ、社会の安定を保つ、政府の信用を維持する、パニックを防止する、人心を引き留めるというさまざまな視点からも、大衆に関わる危機が現われたら、政府は直ちに正しい情報を公開するべきである。
この十数年間、中国は急スピードで経済発展してきた。お金持ちの人が急増している一方、貧富の差が凄まじい勢いで拡大した。先日、日本の番組で、「今回は旅行のためではなく、自分と家族の健康のために、すみません、日本にきました」空港で取材に応じた中国人観光客がこういうふうに話した。健康のために日本に来るとは、現在中国は安全な場所ではないこと。お金持ちになっても、暮らし環境には、不安がたくさんある。ただし、この時期日本に来たら、日本に迷惑をかけるだろう。経済力アップに伴い、中国人の海外旅行者の数が年々増加していく。日本旅行者も年間1000万人までに迫ってきた。国境を越える人たちがウイルスをもグローバル化した。勿論、個人を責めるつもりはないが…。
経済発展を続けてきた中国は多くの国と人々に経済的な恩恵をもたらしたかもしれないが、今回、世界中に多大な恐怖と混乱を撒き散らしてしまった。最も言いたいことは、ウイルスが中国政治体制の欠点を完全に暴露させた。伝染病と同じように、政治的感染症とはすなわち報道規制と独裁政治である。今回の「武漢肺炎」の教訓は中国の政治体制改革を喚起させるだろうか。
YouTube上の武漢現地にいる中国人公民記者の報道によると、現在、封鎖されている武漢では、病院がたいへん混雑しているため、大勢の患者が治療すら受けられない。「誰か、彼らを助けてください」と叫びたい。一刻も早く事態が収まり、病に襲われた人たちに一日も早く平穏な日々が戻ってくることを願うばかりである。
■筆者プロフィール:黄 文葦
在日中国人作家。日中の大学でマスコミを専攻し、両国のマスコミに従事。十数年間マスコミの現場を経験した後、2009年から留学生教育に携わる仕事に従事。2015年日本のある学校法人の理事に就任。現在、教育・社会・文化領域の課題を中心に、関連のコラムを執筆中。2000年の来日以降、中国語と日本語の言語で執筆すること及び両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。Facebookはこちら「黄文葦の日中楽話」の登録はこちらから
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