Record China 2013年10月15日(火) 8時40分
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10月6日、中国の習近平・国家主席は台湾の蕭万長・前副総統と会談。習近平は溢れんばかりの笑みを振りまいて蕭万長と握手した。来年北京で開催されるAPEC首脳会議に台湾の馬英九総統を招聘することを習近平は示唆したのだ。写真は「一国二制度による両岸統一」看板。
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インドネシアのバリで、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議が開かれる前日の10月6日、中国の習近平・国家主席は台湾の蕭万長・前副総統と会談した。習近平は溢れんばかりの笑みを振りまいて蕭万長と握手した。台湾は「台北」としてAPECに正式加盟しているが、それでも「一つの中国」を唱える中国は台湾総統の首脳会議への参加を認めて来なかった。しかしここに来て、風向きが変わりつつある。来年北京で開催されるAPEC首脳会議に台湾の馬英九総統を招聘することを習近平は示唆したのだ。
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▼北京政府に寄り添う馬英九
2005年4月29日、台湾の国民党主席であった連戦が訪中し、当時の胡錦濤国家主席と北京の人民大会堂で対面している。1949年、中華人民共和国誕生に伴い国民党が台湾に逃亡してから56年の年月が経っていた。中国はこの会談を「国共(国民党・共産党)第三次合作」として、大歓迎。ちょうど反日デモが激しく燃え上がっていた時期だ。憎しみに歪みながら日本罵倒を叫ぶ若者の顔と、「熱烈歓迎!」と手を振りながら国民党主席を迎える若者の笑顔は、不快なほどの対象を成していた。
このとき、1992年に互いに「一つの中国」などに合意した「92コンセンサス」を再確認し明文化した。それからというもの、台湾の経済が中国なしには成り立たないほどの優遇策を、中国は台商(台湾商人)に提供し、大量の台商を大陸に誘致。
その結果、2008年の総統選では、台湾独立派である陳水扁(民進党)が敗北し、独立を主張しない国民党の馬英九が総統に選ばれた。馬英九はもっぱら北京政府に寄り沿って台湾経済を中国に食い込ませ、中国を喜ばせた。
しかし中国への依存度に反比例するかのように、馬英九の台湾における支持率は激減している。今年9月に入ってからの台湾の「年代テレビ局(ERA)」の民意調査によれば、馬英九の支持率は遂に一桁台の9.2%にまで下がったという。党内問題も抱えているとは言え、果たして来年のAPECまで持つかどうかさえ疑わしい。それでもなお中国としては経済だけでなく政治面においても本格的に乗り出し、台湾を「中国から抜け出せないスパイラル」へと誘い込み「両岸(中台)統一」に持って行くつもりだろう。
▼中国に嫌われたくない経済界
このたび台湾に行き、中国の台湾経済への食い込み方には、ただならぬものがあるのを感じた。
筆者は中華人民共和国が誕生する前の国共内戦(革命戦争)を中国吉林省長春市で体験している。1948年、国民党が支配する長春市は中共軍に食糧封鎖された。数十万の長春市民が餓死。筆者の家族もその中にいる。長春を脱出するときには二重になっている包囲網「●(上下を縦に重ねる)子(チャーズ)」の中に閉じ込められ、死体の上で野宿した。中共軍側の門が閉ざされたままだったからだ。筆者は恐怖のあまり記憶を失った。その原体験をまとめた『●(上下を縦に重ねる)子(チャーズ)――出口なき大地』を1984年に出版し中国語に翻訳。何とか中国で出版しようと試みてきたが、言論規制により未だ許可されていない。
中国が民主化すれば言論の自由も得られるだろうが、その日まで生きていられるのかが疑わしい年齢になってしまった。そこで昨年リライトして出版した『●(上下を縦に重ねる)子(チャーズ)――中国建国の残火』を改めて中国語に訳し、やむなく台湾で出版することを決意した。台湾の出版社と交渉が成立したのだが、協力してくれた人物の言った言葉に愕然とした。その人は筆者に「台湾で出版する本には、どうか自分の名前を出さないでほしい」と言ったのである。「なぜなら大陸との交易があるので、中共に不利な史実を残すことに加担したと思われたくない」というのだ。
▼台湾にもやがて愛国主義教育が?
共産党軍と戦って敗北し台湾に逃亡した国民党政府は、1987年になってようやく軍事体制下の戒厳令を解き中国反攻を諦めている。それでも90年代にはまだ中共への敵対的ムードが残っていた。それが今「中共に嫌われたくない」という時代に入っている。これではまるで台湾は精神的に「中国」に吸収されているようなものではないか。
双十節(「中華民国」建国記念日)の10月10日、馬英九総統は中国大陸との関係は「国際的関係ではない。同じ中華民族だ」と言った。「国際的関係でない」ということは「国と国の関係ではない」ということだ。「一つの中国」を認めるということにつながる。
習近平は10月6日の会談で「両岸問題を後の世代に残したくない」として、あたかも習近平政権内に両岸統一を成し遂げるような発言をした。
しかし北京政府に付き従う馬英九の異常なほどの支持率低下は、台湾の国民が「統一」に「ノー」を突き付けていると見るべきだろう。「統一」は力関係からいけば「吸収」だ。
その一方で「中共に嫌われたくない」という経済界の思惑。
また一つ、言論規制の地域が増えていくことになるのだろうか。
尊厳と精神性が勝つのか、実利と経済が勝つのか。
一国二制度だろうと、吸収されれば香港と同じように、反日的で共産党を礼賛する愛国主義教育を強要される台湾がやがて訪れる。今はまだ世界で最も親日的な台湾。しばらく台湾問題から目が離せない。 (<遠藤誉が斬る>第5回)
遠藤誉(えんどう・ほまれ)
筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子(チャーズ)―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』など多数。
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