<コラム>ビーバップ高級中学!上海純愛組!中国のヤンキーカルチャー

岩田宇伯    2020年2月10日(月) 23時50分

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中国のヤンキーカルチャーを紹介する。

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●2020封切りか、胡軍主演ヤクザ映画『東北往時之二十年』

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スマートテレビ参入失敗、元オーナーのスキャンダルなどで、今は見る影も無い Letv(楽視網)。そのLetv でかつて放映された現代ヤクザドラマ『東北往時之黒道風雲二十年』(2012)、当時としてはまだ黎明期だったネットドラマで、それなりの人気を得た。広電総局の放映基準がネットドラマに対しまだゆるく、暴力シーンやスケベシーンなどテレビ放映のドラマより過激映像が連続、結構、面白いドラマで一気に全話視聴したものだ。もともと同タイトルの小説が原作ということで、ドラマの続編が期待されたが、Letvの凋落とともに消え去ってしまった。

しかし、このたび、中国の大物俳優胡軍らをキャストしたヤクザ映画『東北往時之二十年』の公開が近いということをキャッチ。すでに昨年前半から宣伝用のトレーラーが公開され、年内公開では、と噂されていたのだが、結局年越し。いつ公開されるか期待を集めているものの、現代ヤクザものということで、当局との交渉が続いているのであろうか。監督、脚本は原作小説の作者孔二狗。そのため、映画化における原作ぶち壊しのリスクは最小限になるであろうと思われる。(画像2 映画『東北往時之二十年』トレーラーより)

中国では基本、犯罪を賞賛するものや犯罪の方法が描写されている映画、ドラマは禁止。そのため『難波金融伝 ミナミの帝王』や『極道の妻たち』といったコワモテのクライムドラマ作品は放映が困難。ヤクザを描くとしたら民国期の魔都上海などに舞台を移し「江湖」ものの作品となることが多い。

●ヤンキーネット小説『壊蛋是怎様錬成的』からドラマ『謝文東』シリーズへ

『東北往時之二十年』は小説からドラマ、映画への流れであったが、ヤクザ予備軍の中学生ヤンキーが中国全土を制覇するヤンキーネット小説『壊蛋是怎様錬成的』もドラマ『謝文東』シリーズとして映像化された作品だ。あらすじは、いじめられっ子の謝文東がのし上がるという『翔丸』、『カメレオン』といったコミックと同様のサクセスストーリーだ。ネット小説から有志によるコミック化を経て、大手動画サイトYoukuの手によりドラマ制作、第1季34話、第2季28話、第3季116話、第4季140話と途方もない話数のドラマとなった。

さすがにネット小説ではジャージを着た現代の中学生が主人公であったが、このドラマ版では民国期に舞台を移し、後半は完全に抗日ドラマになってしまったが、これはこれで味わい深いものがある。低予算故、外国人俳優を雇えないためか、金髪のカツラをつけただけの中国人俳優でごまかしたり、抗日ドラマでよく見かける脇役俳優が多数出演していたり、すべてにおいてポンコツ具合が素晴らしいドラマなのだ。(画像3『謝文東』シリーズより)なかなかヤンキーコンテンツが少ない中国。潜在的なマーケットは必ずあるはずなのだが、ここは政府の検閲によって日の目を見ることはない。一時期の『少年チャンピオン』がヤンキー漫画だらけになったり、「実話」系のヤクザ雑誌がある我が国はものすごく「表現の自由」が守られているのだ。

●伝説の上海10大不良学校

中国では、受験戦争が厳しく、中高生は毎日勉強漬けという様子は皆さんもご存じのとおり。一方で、ドロップアウトしていく少年少女がゼロの社会など世界中どこにもないハズ。中国でのニュース報道でほとんど触れられることのない不良少年たちはいったいどこにいるのだろうか?

そこで「流氓」「学校」などキーワードをいろいろ組み合わせ百度検索していたら「上海十大最乱学校」「上海灘十大流氓中学」なる記事が大量に引っかかってきた。もっとも古い日付で2009年あたりから最新では現在に至るまで、上海の不良学校に関した記事が大量に投稿されている。ほかの都市の不良学校に関しても質問サイトなどの記事が見受けられるが、上海に関してはほぼ定番記事のようだ、魔都上海の面目躍如である。微妙に年度ごとに順位が入れ替わるのも興味深い。説明文には有名な不良のケンカ伝説や学校の荒れぶりが記載されているので、すこし紹介してみよう。なお、各学校の名誉のため一部伏字とした。(画像4「上海十大最乱学校」記事)

・上海楊〇職校

この学校の卒業生は「人中龍風(龍の風格)」、上海江湖社会の人材供給源だ。在学中に鍛えられ、学習成績は常に全国最下位でもケンカは最強、上海流氓学校のトップに君臨する。

・上海第〇軽工業学校

工業系なので男女比5:1。.そのため、いつも女の取り合いでケンカが起きる。最近は落ち着いたようだが、上海10大流氓学校の常連。

・上海商業〇計学校

重点学校だが惑わされてはいけない。生徒の質が両極端でチンピラまがいの者がいる、噂によれば女生徒の妊娠率は30%。

・上海港〇学校

学内での暴力沙汰は日常、近隣の住宅が破壊される事件4回、学生寮での強姦事件4回。

・上海振〇職校

上海10大流氓学校に常にランクイン。もっとも荒れていた時期は地元のヤクザも敬遠していたほど。地元ヤクザと実力伯仲。

というヨタ話が10年以上にわたり中国のネットで語られている。日本でも不良伝説は尾ひれがつくことが多いので、信憑性が怪しい部分はあるが「火のないところに煙は立たない」とのことわざ通り、多少は事実の部分もあるだろう。スマホ時代となってからはケンカ、イジメの動画が拡散し、ニュースになったりするので、就学率の高い新興国以上であれば、不良学校はどの国にもあるということだ。中国の質問サイトでは、保護者から、流氓学校へ進学せざるをえないわが子を心配する切実な質問も寄せられている。

●実際ヤンキーはいるのか?いた→鬼火少年

前述した不良学校では制服がジャージやブレザー。日本のヤンキー学生の改造学生服、暴走族の特攻服などの一目でわかるファッションがあるわけではない。「オラオラ系」などジャンルが確立された日本と違い、中国のヤンキー事情がよくわからない。筆者ツイッター仲間の中国駐在者もヤンキーを見かけないとのこと。そこで中国のヤンキーファッションに関し、引き続き調べてみた。

しばらく前まで、ビジュアル系バンドのような「殺馬特(スマート)」といわれる一群がいたのだが、すでに下火のようだ。(画像5「殺馬特(スマート)」百度画像検索より)ツイッターで「中国に日本のような暴走族はいませんか?」と中国人フォロワーに尋ねたところ、田舎に「原付小僧」みたいなのがいるとの情報を得た。「原付小僧」というのは50cc高性能スクーターを改造し、排気音をまき散らす、暴走族の予備軍みたいな少年のこと。センパイたちが乗っているような大きいバイクを買えないうちは原付スクーターで我慢なのだ。日本では最近あまり見かけなくなって久しい。

中国ではクルマの改造は違法。GTウィングを装着したり、マフラー改造、八の字シャコタンといった楽しみ方はできない。そのためせいぜい「藤原とうふ店」のステッカーを貼るのが関の山。大型バイクはナンバー取得費用が高額のため、若者には手の届かない存在だ。なるほど、原付という手があったか。

その「原付小僧」の中国版ともいえるのが「鬼火少年」と呼ばれるティーンエイジャーたち。「鬼火」というのは台湾YAMAHA製造のスクーターRSZのペットネーム、イキリ少年にウケそうな「鬼火(ファイヤーパターン)」ステッカーが貼られていたのが名前の由来。すでに中国メーカーによるパクリ車両が何車種か格安で販売されている。(画像6 中国製「鬼火」スクーター)

「鬼火少年」が多いのは3 線級あたりの街で、大都市ではまず見かけないということだ。特に中国南部の広西方面に多く本場とされる。じつは、この背景には「殺馬特」誕生と同じく社会問題が潜んでいる。両親が出稼ぎに行き、「留守児童」となった子供たち、やがて学校にも行かなくなり、社会からドロップアウト、自己アイデンティティを求めるうち、遊び仲間とともにスクーターで暴走、やがて「鬼火少年」というスタイルが成り立ったという経緯だ。

基本、「鬼火少年」は無免、ノーヘル、ナンバーなし。そのため警察の取り締まりを受けることはいつものこと。ニュースで逮捕の様子が報道されたりもする。メインの活動は「炸街(ジャージェ)」という暴走。その名の通り町中に爆音をとどろかせる行為だ。本来はランボルギーニなどのスーパーカーが甲高い排気音とともにストリートを走り去る様を表現した造語であったが、彼らの原付スクーター暴走もそう呼ばれる。二人乗り三人乗りはあたりまえ、中にはエクストリームライディングに興じる「鬼火少年」も。とうぜん、交通事故も多く、中国の動画サイトには「鬼火少年」の事故映像が多数投稿されている。(画像7 鬼火少年の炸街)

●様式美となった「鬼火少年」

最後に「鬼火少年」のスタイルをまとめておこう。

まずはそのファッション。じつは何の工夫もない中国の中高生が着るようなカジュアルファッションに身を包む。ロゴは「Supreme」など若者に人気のブランドだが、おそらく街中の「服飾卸売市場」で買ってきたニセモノであろう。靴は履かずサンダル履きが多い様だ。これは温暖な広西あたりならでは。事故ったら確実に大けがである。

スクーターの改造パターンも独特だ。まずは電飾、LED照明を多数取り付け、『トラック野郎』のデコトラ並みにド派手だ、桃さんも困惑間違いなし。中国の路上で売っている光るコマなどの子供用のおもちゃをほうふつとさせる。日本の暴走族の「3段シート」、「ツッパリテール」に相当する「棺桶テール」といわれるテールカウルも特徴だ。形状が中国の棺桶のように反り返っているためそう呼ばれるのだが、専用パーツが売られているわけではないので、多くは中古の部品を2段、3段重ねただけのチープ仕様だ。ケツのカチアゲは日中共通の美意識である。そしてステッカーを貼りまくるか、ヘタクソな自家塗装をする。そのほか、うるさいだけのマフラーやエンジンパーツなどタオバオで取り寄せた胡散臭い安物パーツを使い、自慢のスクーターが完成する。また、バイク屋ではこれらの改造を一通り組み込んだコンプリート車も販売されている。(画像8 鬼火仕様コンプリート車)

スマホで自撮り、あるいは友達同士で撮り合いし、電飾スクーターや「炸街」の様子をSNSに投稿して楽しむという点は21世紀らしい。なかには「かかってこいや!警察上等!」といったような自作ステッカーを貼り御用となる少年も。当然、捕まれば、自慢のスクーターは没収となる。中国では公務員侮辱罪に相当する法令があり、イキリ過ぎもほどほどにしておかないと面倒なことになるようだ。(画像9 逮捕された鬼火少年)

この「鬼火少年」に関してなかなか情報が少ないため、引き続きウォッチしていくつもり。また、日本で鬼火スクーターのミーティングをしたら面白そうである。台湾YAMAHA、中国YAMAHAのRSZシリーズは、一部日本にも輸入されているので、100%「鬼火少年」コスプレも可能である。どなたか挑戦されてみてはいかがだろうか。

■筆者プロフィール:岩田宇伯

1963年生まれ。景徳鎮と姉妹都市の愛知県瀬戸市在住。前職は社内SE、IT企画、IT基盤の整備を長年にわたり担当。中国出張中に出会った抗日ドラマの魅力にハマり、我流の中国語学習の教材として抗日作品をはじめとする中国ドラマを鑑賞。趣味としてブログを数年書き溜めた結果、出版社の目に留まり『中国抗日ドラマ読本』を上梓。なぜか日本よりも中国で話題となり本人も困惑。ブログ、ツイッターで中国ドラマやその周辺に関する情報を発信中。

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